第25話 尊敬
だが、楽に感じたのは初日だけで、日が経つにつれてしんどくなってきた。
もともとそこまで才能があったわけではなく、ただできそうだからというだけでパート移動したことを後に知った。だが、それでも走るのが楽しく感じている自分にいることに結衣奈は気づき始めていた。
「ねー、莉子ちゃん、あとメニューなんだっけ?」
「あとは戻ってスタビライゼーションだけですよ。」
「ありがとー!戻ろっか。」
「はい。」
結衣奈はグラウンドから出るために、走路を見渡した。すると、同じ中長距離の部員がスタートラインに並んでいるのが見えた。
「50m17本目行きます。よーい、ドン!」
スタート係の同じ年の女子部員がおろした腕と同時に地面を蹴って走り出す。結衣奈と莉子の前を競り合いながら二人の男子部員が通過していった。その速さに二人は息を飲む。
「今17本目って言った?」
「ええ。確か20本走るのであと3本です。」
「私たちは5本だったのに?」
「はい。200m3本走ってるときもありますよ。」
「すっご。」
「あの二人は特に速いので。すごいですよ。」
「なんていう名前なの?」
「確か渡辺先輩と瑞井先輩だったはずです。」
「へーぇ・・・。」
ゴールを見ると、走り終わった二人が軽く走りながら戻ってくるところだった。
しんどそうな顔の中に輝きがあるのを見て、結衣奈は彼らが本当に走るのが好きだということを知った。
「結衣奈ちゃん?」
「あ、ううん。なんでもない。行こっか。」
莉子に呼びかけられ二人は足音がたくさん残ったままの運動場を渡った。
「渡辺と瑞井は5000、永山と白石は2000走って一回休憩してまた1000。キロ4分切れるようなペースで行け。行けるか?永山。」
「は、はい。大丈夫です。」
「よっしゃ。行こか。よーい、ドン!」
顧問が自転車で走り出すのと同時に全員が走り出す。
渡辺と瑞井が先に飛び出し、それを莉子が少し離されつつも追いかける。
結衣奈は莉子についていくのが必死だった。
半分を通過する頃には先頭の渡辺と軽く20メートルは離されていた。もっとも、半分通過とはいえ結衣奈には実感はなかったが。
外周一周が1000mもあるという大きな公園。そこが中長距離の練習場所だった。
いくらか人通りはあるものの、視界が開けているおかげで事故にあう可能性も低く、走路としてはなかなかいい方だと顧問が自慢げに言っていた。
顧問の言うとおり2周走ったあと渡辺と瑞井が再び戻ってくるまでスタートラインで休み、二人に合流して最後の1周を走った。
休憩するといえば楽に聞こえるが、一周4分近くで戻ってくる上に先頭の二人から離されてしまっているせいでまともに休むことなく最後の一周を走ることになった。
「どうや、永山。行けそうか。」
「は、はい、な、なんとか、行けると思います・・・。」
息切れのなかでようやく言葉を絞り出す。
答えてから先頭を走り続けていた渡辺と瑞井を振り返ると、彼らはスタート近くの地面に寝転んでいた。絶え間なく息を吸っては吐き、吸っては吐きを繰り返す彼らは、その時の結衣奈からはとても遠い存在だった。
遅れました。すいません。