第24話 異動
「ふわぁ・・・足が痛い・・・。」
「大丈夫ですかー?無理するからですよ。」
「だって、いけると思ったんだもん!」
「永山さん、無理はしないほうがいいわよ。私も時々足とか痛めるけど試合前とかにやっちゃうと試合の記録が大変なことになるから」
「あ、熊田先輩、ありがとうございます。気をつけます。」
「ええ、あ、そうそう。」
「はい。」
「あれ、なんだったっけ・・・。」
「ええ・・・。」
何かを言おうとして彼女は口をつぐんだ。天井を見上げながらしきりとなにかをつぶやく。
「言おうとしたこと忘れちゃったわ。また思い出したら言うわね。」
「あ、はい。」
くるりと回れ右するとそのまま自分のカバンのところに戻り着替え始める。
二人は、しっかりとしていると思っていた先輩が意外に抜けていたことに気が付き、そっと笑った。
少しずつ夏に近づくにつれ、日はだんだん長くなっていく。
結衣奈たちが練習を終え、帰るときになってもまだ明るいことも多くなってきた。だが、それと同時に雨の日数も増えてきた。
「中長距離ですか?」
「うん。先生に言われてね。ちょっとやってみることにしたんだ。」
「わぁ、仲間が増えたー!」
莉子は入部してすぎ、先生に中長距離の才能を買われ、すでに中長距離パートで練習していたが、結衣奈は短距離のままだった。今まで一人だった莉子は、結衣奈が同じパートになることを聞いて、満面の笑顔で喜んだ。
次の練習日から彼女の練習メニューはいきなりハードになった。今まで練習で走った最長の距離が200メートルだったのがいきなり3000メートルにまで伸びたのだ。だが、なぜか彼女はその練習についていっていた。
「さすがやな。まさかここまでとは思わんかったわ。」
初の練習後、顧問は彼女に向けてこう言った。
「ありがとうございます。」
莉子にも顧問にも同じことを言われて少し誇らしげに帰る結衣奈だった。