第22話 ないものねだり
顧問に部費を払うと、二人は正式に活動を始めた。クラブ紹介にあった通りの練習内容に、少し舐めてかかっていた結衣奈も少し焦りを感じる。
「よ、予想以上にしんどいよね、これ・・・」
と両端に1.25Kgのおもりをつけたシャフトを肩に載せ、息を弾ませながら莉子に愚痴をこぼす結衣奈。
「っていうか絶対足太くなっちゃうじゃんー。」
「それを見越して入ったのかと思ったんですけど、もしかして何も考えてなかったんですか?」
「だって筋トレもう少し楽だと思ったんだもんー!ふぅー。」
「あ、私ですね。」
結衣奈が地面に置いたシャフトをひょいと持ち上げ肩にのせると慣れたような流れで結衣奈と同じメニューをこなす。
「莉子ちゃんもしかして経験者だったりする?」
「別に経験したわけではないんですけど、なんか昔から兄が筋トレバカで私まで付き合わされちゃって・・・。」
その割に細い彼女の体のラインを見て、そっとバレないようにため息をつく結衣奈だった。
筋トレを終えて、走った彼女たちは、最終下校の時間を迎え、クラブを終えた。
日の明るさの残るグラウンドから撤収し、更衣室に入ると結衣奈は端っこにそのまま座り込んだ。
「疲れた・・・・。」
「初日にしては大変でしたもんね・・・。でも慣れていけば行けると思いますよ。」
「なんで莉子ちゃんそんなに元気なのー?」
「さっきも言いましたけど小さい頃から色々とトレーニングさせられちゃって・・・。だから二の腕とかも筋肉ついちゃってて・・・・。」
立ち上がって莉子の白い二の腕に触れる。力を入れたのか腕から筋肉が浮き上がった。
少し驚くと、莉子は、もう少し腕、細くなりたいんですけどなかなか難しいですね、と寂しそうな顔で笑った。
「でもさー、莉子ちゃんいいよねー、細くて。」
「全然ですよ。ほら、あの先輩とかのほうが細いじゃないですか。」
「あー、確かに。」
「いいですよね、細くて美人の先輩って。」
「莉子ちゃんもかわいいよー。ちっちゃいし細いし。」
「ちっちゃいって私結衣奈さんと身長同じくらいですよ?」
「いーのいーの!莉子ちゃんはちっちゃいの!」
「えー!なんでー!」
「あの、永山さん。」
莉子との会話の間に別の女性の声が入る。
莉子に伸ばしかけた手は引っ込めずに目線だけを横に移動させて声の主を確認した。
「あ、えっと・・・。」
「熊田です。更衣室、閉めるから早く着替えてね。」
「あ、はい。すみません。」
熊田に言われて結衣奈は初めて未だに体操服であったことを知り、大慌てで着替えたのだった。