第21話 笑顔と感謝
「莉子ちゃんクラブどうするー?」
「クラブですか?まだ決めてませんけど・・・。」
クラブの仮入部の時期にはいり、結衣奈と莉子たち一年生は学校でクラブの説明をうけてきたばかりだった。
学校の帰り道、多くの生徒が帰る時間帯にかぶったために道は人で混んでいた。国道の信号が青になり、一斉に歩き出す。
「私陸上部入る!」
「え?」
唐突すぎる結衣奈の宣言に莉子の驚きの声が返ってくる。周りの人間は聞こえてないのかはたまた無視しているのか気にせずにそのまま歩き続ける。
「陸上部ですか?」
「うん。私じゃあ無理かなぁ。」
「無理ってことはないと思いますが・・・陸上部って言っても競技いくつもありますよね。どれやるんですか?」
「んー、短距離かな。」
「短距離ってやっぱり陸上の花形ですよねー。でも結衣奈さん走るのそんなに早くなかった記憶が・・・。」
「今遅くても入ったら早くなるの!」
「どこかのテレビショッピングみたいですね。これ使ったら絶対よくなる、みたいな感じの・・・。」
「莉子ちゃんいじわるー!」
「別に意地悪でもなんでもないですよ。思ったことをそのまま事実のままに言っただけですから。」
得意げな顔で結衣奈に向かって言う莉子のほっぺたを引っ張りながら結衣奈は少しむくれた。
結局、結衣奈は莉子とともに陸上部に入ることにした。
莉子に関しては結衣奈が半ば強引に誘ったのだが、その次の日には母親を説得して入部を可能にしてきた。
彼女がどんな言葉で母親を説得したかは結衣奈にはわからない。だが、彼女が自分と同じクラブに入ることを決めてくれたことが結衣奈にとっては嬉しかった。
「入ったら本気でやんねんな?」
「は、はい。」
関西弁混じりの顧問の若い教師は二人を見て、そう言った。
新しく入りたいと言った人全員に聞いているらしいが、それを知らずに初めて言われたときは少し驚いた。
思わず頷いてしまったものの、少し不安になる結衣奈に、莉子はいつもどおりの笑顔で「大丈夫だよっ!」と言った。
その笑顔に安心感を覚える自分がいることに結衣奈はまだ気がついていなかった。