第20話 落ちたもの
大分遅れました
『私のことをずっと覚えていてくれるのはうれしいよ。でもね、結衣奈と一緒にいてくれるその子の気持ちも考えてあげて?』
『莉子ちゃんの気持ち?』
『うん。』
その言葉はずっと結衣奈の隣にいた香菜だからこそ出せる言葉だった。他人のことを考えて、でも自分はあんまり人と話せない、少し不器用な女の子。
そう考えると香菜と莉子は少しにている気がした。
(香菜と莉子ちゃん、気が合うかな・・・。)
そこまで考えて、胸の中からなにかが抜けてしまった気持ちになった。
(なんだろう、この気持ち。)
自分に問いかけてもわかるはずもなく、彼女はそのまま忘れてしまった。
「結衣奈ちゃん?」
静かな教室に、莉子のきれいな声が響く。
「ん?ああ、ごめんね。ちょっと寝不足で・・・」
「大丈夫?ちゃんと寝ないと倒れますよ?」
「大丈夫!夏ならまだしもこの時期だったら倒れることはないよ。ありがとう!」
「心配ですけど結衣奈ちゃんがそういうなら大丈夫ってことにしておきます。」
少し不安そうな色を混ぜた莉子の言葉は、いつもよりもすんなり結衣奈の心の中に入ってきた。いつも心の中にはびこっていた何かが取れたからかもしれない。
(莉子ちゃんの目ってこんなにきれいだったっけ。)
入学してから初めて気がついた小さなこと。けれど今の結衣奈には、とても大切なことのように思えた。
(今度香菜と会うときに莉子ちゃんも誘おっかな。)
そう心に決めて、結衣奈は自分の席に戻り、カバンの中から教科書やらノートやらを移した。