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第19話 一歩前へ
その夜、彼女は久しぶりに香菜にラインを送った。昔の友人の返信の速度は変わってない。
すぐに返ってきて、そのまましばらく会話を続けた。夜の部屋に通知の音が響いた。
「莉子ちゃーん!」
「なんですか?」
次の朝、教室に顔を出した莉子に、結衣奈は飛びついた。いきなりの動きに莉子は驚いたように体を強張らせたが、すぐに結衣奈の頭を撫でた。
「なんでもない!」
結衣奈は顔を上げると満面の笑顔で笑いかけ、莉子から顔を離した。
「いきなりどうしたんですか?」
「ううん。なんかね。」
昨日香菜と交わした会話。
香菜が結衣奈に伝えた言葉。
その言葉に勇気づけられ、結衣奈はもう一度前に踏み出した。
「すごい今更だけどねー。」
「んー?」
「ううん。なんでもないっ!」
「そう?」
もう一度莉子に笑いかけると、窓の外を見上げた。だが、外にはなにもなかった。
(なにもなかった・・・。)
少しがっかりしながら教室の中に目線を戻す。まだ春の寒さが残る教室で暖気を吐き出し続ける暖房の音が響く。