第1話 黎明
冬の空の特徴として、空気が澄んでいるところが挙げられる。都市部では日頃見れない星も、冬になると見えることもある。
「わ〜今日もオリオン座ちゃんと見えてる〜!」
彼女は帰宅途中、新聞販売店のとなりでネックウォーマーの中で呟いた。12月の風が彼女の髪を揺らした。
「う〜さぶっ!」
その風に頬を撫でられ、ネックウォーマーをずり上げる。両手を制服のスカートのポケットに入れると、少し背を丸めて足を早める。
「おかえり〜。」
「ただいま〜あ〜暖かい〜助かった〜!」
「そんなに薄い格好をしてるからよ。」
「これで精一杯よ!でもスカートが寒いんだもん。」
「タイツ履いたら?」
「だめじゃなかったっけ?」
「だめとは言われてないわよ。」
「じゃあ明日から履いていこ〜っと。」
暖房が入っていて暖かいリビングに入ると彼女はカバンを床にそっと置いた。台所に回り込み、流しで手を洗う。暖かいと思って手を差し出した水道水は冷たく、彼女は小さく声を上げてお湯に切り替えた。
「今日のご飯は?」
「今日は〜、何でしょう!当ててみなさい!」
「え〜なんだろ・・・この匂い・・焼き魚?」
「ヒラメのムニエルでしたー!」
「全然違った!」
「あながち間違いでもないけど・・嗅覚大丈夫?」
「人間並みにはあるわよ!」
母と娘の茶番劇の中に父親が割り込んできた。
帰宅したばっかりの彼も水道で手を温めようと熱湯を流し、危うくやけどしかけていた。
「すぐできるわ。少し待っててね。」
「ああ、わかった。先に着替えてくる。」
換気扇の音に紛れて父親が部屋を出ていく扉の音が響いた。
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