第18話 シック
教室に戻った彼女たちを迎えたのは、教卓の上に置いてある大量の教科書とプリントだった。この大量の教科書を持って帰らなければならないということを思い出し、結衣奈は少し気分が落ち込んだ。
「もし南京錠持ってきてる人がいればロッカー使ってもいいけど、もし持ってきてないのなら持って帰ったほうがいいと思う。入学初日に盗まれたら話にならないからな。」
「結衣奈ちゃん、鍵、持ってきた?」
「持ってきたよー。なんか中学の時の鞄で来たから入ってたんだー。ラッキー!」
「いいなぁ、私は持ってこれてないから持って帰らないといけないんです・・・。」
「私のロッカー使う?たぶん少し余るし。」
「いいの?よかったー。」
結衣奈の提案に乗った莉子の顔は心底、安堵しているように見えた。
二人分の教科書をロッカーに収め、大量のプリントを受け取った二人は、帰路についていた。まわりにはまだ多くの保護者と生徒が残っていて、校門の「入学式」の看板の前で写真を撮っていた。
結衣奈の親も、莉子の親も先に帰ってしまったらしく、二人だけで帰ることになった。
「どこか寄ってかない?このまま帰っちゃうのももったいないし。」
「入学初日に見つかったら面倒くさいですよー。」
「まあいいじゃん。親と待ち合わせです、っていえばたぶん見逃してくれるよ!」
「短絡的な考えですねぇ。」
「あー、莉子ちゃん私のこと馬鹿にしてるー!」
「馬鹿にしてませんよー。」
中学のときに香菜と繰り返した会話。でも。なにかが違う。返事が丁寧語だからだけではなかった。
(香菜・・・・。)
高校入学一日目にしてすでに友人シックの少女。彼女はそっと空を見上げた。