第15話 親友の暖かさ
時はゆっくりと進んでほしいときに早く進み、早く進めと祈れば余計に遅く感じる。
なんと非情なものなのだろうか。
あっという間に時は過ぎ、彼女たちの本番の日がやってきた。
3月、桜が咲くには少し早い時期に彼女たちの運命は決まる。親に見送られ、緊張しながら会場までの路をゆく者、友達と最後の追い込みを掛け合いながら来るもの、その姿は十人十色、だった。
結衣奈もまた、緊張しながら一人で歩いているグループのひとつだった。
「こんなことならもう少し友達作っておけばよかったなぁ。」
一人で歩きながら心のなかでそうつぶやいた結衣奈の隣を数人が追い越していく。みんな片手に参考書や問題集を持っている。
灰色に包まれた世界に、中学生たちの防寒着の色が映える。
「あー寒い・・・しかも寂しい・・・。」
さきほどから何度目からの独り言をつぶやく。
マフラーの内側でつぶやかれたその言葉は外には出ることなく、消えていった。
寂しい気持ちを紛らわそうと彼女は持っていた参考書に目を落とした。何度も見続けた数式、グラフ、公式。その下に書いてある問題を、指で数式を書きながら解いていく。
参考書の上で数式を描く指が、外界に触れて冷たくなってゆく。
ふと彼女は、いつかの帰り道に触れた、香菜の手のぬくもりを思い出した。それを逃さないように胸の前で手をあわせ、そっと息を吐いた。
「きっと大丈夫。」
自分に言い聞かせると、いつのまにか到着していた受験会場の門をくぐった。