第13話 休日くらい休ませて
日が沈んで暗くなった帰り道、歩くうちに結衣奈の手がそっと香菜の手に触れ、香菜の手が結衣奈の手を握ってきた。冬の風に晒される手の甲と、香菜の手のぬくもりが伝わる手のひら。不思議な感触に包まれながら二人は歩いた。
次の日、彼女は起きると珍しくカーテンを開けた。特に深い意味はないのだが、なんとなくその気になったからだ。
「寒いなぁ。布団から出たくない・・・」
さきほどまで潜り込んでいた布団を引き寄せ、そのぬくもりに体を預ける。頭まで布団を上げると今度は足先が飛び出し、外気にふれた。
「ううー・・・やっぱ出たくないよぉ・・・。」
寒い冬の部屋に彼女の声が響く。
「おはよー・・・」
「結衣奈、あんたいつまで寝てるの。」
「気持ちよくて二度寝してたらいつの間にかこんな時間に・・・。」
「受験生なのに気楽なものね。」
「休みの日くらいいーじゃん。休日は休む日なんだよー?」
「まだ頭起きてないのね。さっさと朝ごはん食べてしまいなさい。もう2時間もしたら昼食なんだから。」
「どっちも一緒でよくない?」
「よくないわよ。」
梳かしていないボサボサの髪の毛のまま、彼女はトースターに食パンを入れ、焼き始める。ふと頭に昨日の夜頭にとりあえず入れた語句が浮かぶ。口の中で覚えてるか小さく呟きながらトーストを見つめた。
「ああ、そうそう。香菜ちゃんから電話あったわよ。今日空いてる?って。」
「それいつ?」
「20分くらい前かしら。」
「わかったー。ありがとー。」
「遊びに行くの?」
「香菜がこのタイミングで遊びの誘いすると思う?」
「しないわね。じゃあ勉強かしら。」
「たぶんねー、私はなにもわからないからー。」
言いながら焼きあがったトーストを皿に載せ、席に座る。
(あ、焼きすぎたかな。ちょっと硬いや。)
「あ、お父さん、おはよー。」
「おはよう。」
「お父さんも寝坊ですよ。もう少しシャキッとしてください。」
「休日くらい休んでいいだろ。」
「おー、私と同じ意見!」
「休む日だからって、だらけてていいわけじゃないでしょ?」
「だらけよーよ!そこはさ!」
「結衣奈ー、そろそろ勉強しなくていいのかー。受験もう少しなんだろ。」
「あ、うん。やってくるー。」
食べ終えた食器を流しに入れると、結衣奈はそのままリビングを出て自分の部屋に戻った。