第9話 一台目のハードル
すいません!だいぶ遅くなってしまいました!
冬から春にかけ、風の色が変わる。乾いた灰色の冬の風は暖かさを含んで、ピンク色の柔らかい風に変わっていく。
「冬休みも開けて、今日から1月だ。受験まであと少しだぞー!」
朝礼のとき、担任から告げられた言葉に結衣奈は焦りを隠せなかった。
最近流れる隠すこともしないクラスの焦りは、結衣奈をさらに追い立てた。
「過去問どんな感じ?」
「う〜ん、一応合格点は取れてるかな。香澄は?」
「私は余裕だよ〜。模試も大体A判定だし。でも綾香だってB判定でしょ?いけるじゃん!」
「ねーねー!瑞希〜!今日塾一緒に行かない?」
「いいよ〜!ついでに行く前に小物買っていっていい?」
「いいよ〜」
冬休みを境に、教室は一気に受験モードに入った。明るさの内側に秘められた、ピリピリした空気。教室に飛び交う会話の多くは受験に関すること。高校受験という人生のかかった試験を前にしてクラスが引き締まらないはずがなかった。
「で、結衣奈、あんたはどうなの?担任の先生の声に少し焦ったような顔してたけど。」
「私?私は大丈夫のはず、一応B判定は取れてるし過去問も大体合格点取れてるから。」
「で、それで油断して当日失敗する。まあそれでも受かるのが結衣奈なんだけど。」
「ひゃ!それ言わないでよー!」
「でも自分で言ってるじゃない。中学のときだってそうだったって。確か漢字の模試のときは落ちたんだっけ?余裕かましすぎて。」
「で、でもあと10点だったんだよ?そんなにかけ離れてるわけじゃないし!」
「でも落ちたのは事実でしょ?」
「はう・・・。」
「とりあえずさ、今日の放課後、図書室で勉強しよ?あんたが落ちて私だけ受かるっていうのも嫌だし。」
「香菜はいいよね〜賢くて。」
「あんたの間違いかたがどんくさいだけよ。前の期末テスト、あんた何個計算間違いした?」
「10個ぐらい・・。」
「ほら。」
「と、とりあえず今日の放課後頑張ろー!」
結衣奈は、香菜に容赦なく突きつけられた現実を振り払うように少し大きな声をあげて立ち上がった。
「受験、か。」
暦の上では1月だが、風は12月よりもさらに冷たくなっていた。
彼女はいつもの通り、新聞販売店の隣で空を見上げていた。だが、朝からの曇り空は、彼女に星空を見ることを許さなかった。スカートのポケットに入れた手もほんの少ししか温まらない。あまりの寒さに彼女は家に少しでも早くつこうと歩みを早めた。
「あ、また返信返ってきてる〜!でも、あとで!今は勉強しないと・・」
夕食前、スマホを覗いた彼女はいつも通りの大量の通知を一つずつ見ては消していった。
様々なアプリを自らアクセス禁止にしていくなかでYouTubeだけは禁止していなかった。当初、結衣奈はYouTubeもアクセス禁止にしようとしていた。だがあまり根を詰めすぎると体を壊す、と心配した母親がせめて休憩する場を、ということでYouTubeだけは使えるようにさせたのだった。