やっと一息
「ここで良い?」
「はい、大丈夫です」
お嬢様学校としてはシリアスな話が続いてしまったが、それも一旦休憩。
レビンとシーナは中庭にあるベンチの一つに腰を下ろす。
「「いただきます」」
二人は紙袋から菓子パンを取り出してかじりつく。
「このパン、美味しいですね!」
「購買のカレーパンは人気なんだよ。今日は半日授業でライバルが少なかったからラッキーだね」
暖かい陽射しの下で外はカリっと、中は少し辛くもコクのあるカレーパンにレビンは幸せを噛み締めていた。最前線では味わうことの出来ないことだ。
「このカレーパン辛いから飲み物欲しいよね」
ふふん、とシーナは鼻を鳴らすと持ってきていたハンドバックから合金製で円筒型の水筒を取り出す。蓋を外して、それに注ぐ。
「はい紅茶」
「ふぇ?」
差し出された紅茶にレビンは戸惑う。
「レヴィちゃん飲み物持ってきてないでしょ。だから、はい!」
「いえいえいえいえ! 大丈夫です! シーナさんに悪いですよ。どこかで水でも貰ってきます」
「良いんだよ。このぐらいで貸し借りの話しとかしないし」
「で、ですが……」
悩んだレビンだったが、これ以上好意を拒絶することが出来なかった。
「ありがとうございます。いただきます」
レビンは両手で温めの紅茶を受け取ると口の中を湿らせる。
「美味しいですね。紅茶は初めて飲みましたけど」
「そうなんだ! レヴィちゃんの初めてになれて嬉しいな!」
シーナの言い方には少し物申したかったが喜んでくれているので紅茶と一緒に飲み干した。
「まあ、貴族様たちはもっと良い紅茶を飲んでるんだけどね」
シーナは返してもらった蓋に再び紅茶を注ぐ。
「そうなんですか?」
「うん。貴族の人たちは購買とか学食じゃなくて特別な会場があるんだよ。私も一度行ったんだけど、すごかったよ。壁の絵画とか天井のシャンデリアに真っ白なテーブルクロス。周りには執事さんとメイドさんが居て、食事はフルコース」
「憧れますね。もう行かないんですか?」
レビンの質問にシーナは一度溜め息を吐く。
「もう勘弁だよ。決まった場所で決まった時間で決まったマナーで決まった料理を食べるなんて私には堪えられない」
シーナは紅茶をごくごくと飲む。
「あ、あのシーナさん!?」
「ん? どうしたの?」
レビンの頬が朱に染まる。
「か、かか間接キス!」
シーナは声を震わせるレビンと水筒を交互に見ると、悪戯っ子ぽく微笑む。
「レヴィちゃんは純情だね~。今度は本当にキスしてみる?」
ぼふんとレビンの顔は真っ赤になり、湯気が出そうなほどになる。
「えええええ!? で、でも女の子同士でそういうのは!!」
「そう? ここじゃ珍しくないけど」
「へ? そうなんですか?」
つい、レビンは呆けてしまう。
「まあ、お嬢様学校で余り男の人と接する機会がないからね。あ、でも同性愛ってわけじゃないんだよ? 姉妹みたいな関係になるだけで」
「それは良かったです」
レビンは胸を撫で下ろす。どうやら学園長のように百合好きな人ばかりではないらしい。
「食べ終わったら行こうか。何か見たいものある?」
「いえ、特には」
レビンの答えにシーナは腕を組んで思案する。
「じゃあ部活を見てみようか。この時間なら活動中だし」