逃走
登校二日目、寮から高等部校舎への道中。
レビンは逃げていた。それはもう全力で。
「待て! レヴィ・グリフィーナ!!」
「逃がすな! 捕まえろ!」
「回り込め!」
追いかけてくるのは軍帽軍服姿の女生徒たち。
「どうしてこうなってるんですか!?」
遡ること三十分前。
レビンは戦場での慣れなのか朝早く目を覚ます。
「まだ早いか」
壁に備え付けられた時計を見ると、時刻は六時前。
ここから校舎までは歩いて三十分ほど。途中で路面電車に乗れたら半分ほどで着いてしまう。
「暇だな~」
今から二度寝する気にもなれず、だからと言ってすることもなかった。
「着替えだけでも済ませるか」
レビンは顔を洗い、登校準備を終わらせていく。
「これで良し!」
姿見の前で制服と髪型を確認する。
「……終わってしまいました」
ゆっくりしていたはずが未だに時計は六時半。七時過ぎに出れば朝のホームルームには間に合う。
「?」
レビンが次の行動を悩んでいたとき、部屋の扉がノックされた。
レビンは小首を傾げる。今日からベルーナとは別行動のはずだったが。
二度目は少し強めのノックだった。
「はーい! すぐに出ます」
レビンは扉の鍵を解錠する。
「どちら様です…か」
廊下で立っていたのは学園指定制服の上に軍国の支給品である灰色ブレザーの将校制服を着た五人の少女たち。腰にはベルトを巻き、制帽には軍国の象徴である鷲と髑髏の帽章が存在感を放っている。
「二年一組のレヴィ・グリフィーナで間違いないな?」
正面に立っていたレビンより背の高い少女が誰何する。ブラウスのリボンを見るとレビンと同じ二年生であるらしい。つまり、軍服を着ているが学園の女生徒で間違いない。
「そうですが、何のようでしょうか?」
レビンは声のトーンを下げる。本物の軍人にコスプレなど女生徒たちの気が知れない。レビンにとっては失礼にしか思えなかった。
「部活総長がお前に会いたいと仰られている。ついてきてもらおう」
部活総長とは初めて聞く名であったが面倒ごとには変わらないだろう。潜入しているレビンにとっては厄介ごとは避けていきたい。
レビンはちらりと相手のブレザーの襟を見る。
「"少佐"。私は兵役に属していません。従う理由があるのですか?」
レビンの言葉に女生徒たちは明らかに動揺する。
それもそのはず。基本軍服には襟や肩に階級章が付けられている。軍人としては階級章のマークを覚えるのは当然だが、彼女たちにとってはレビンは一般家庭の少女。言い当てられたことに驚いても仕方ない。
「お、お前だって軍国人なのだ。平民とはいえ従ってもらうぞ」
何とか表情を戻したようだが、声に震えが見られる。
ここは意地悪してみようとレビンは考えた。
「もし、私に諜報部の後ろ楯があるとしたら。そして、軍国親衛隊でもない女生徒が我らが党を馬鹿にしてコスプレしていると報告しますが?」
「いや!? これは別にふざけているわけではない! 私たちは真面目に国を思って。というか何でそんなに詳しいんだ? お前は普通の家の出ではなかったのか!?」
顔を真っ青にした少佐? が今度は真っ赤にして叫ぶ。
うん、これ以上は弄らない方が良いだろう。
「全部、冗談ですよ。新聞やラジオが好きなのでかじってるぐらいです」
そこでレビンはこっそり時計を窺う。まだ少し早いが良い暇潰しにはなった。
「従わないというなら連行するまでだ! 連れていけ!」
大佐が命令すると部下である四人の女生徒がレビンを取り囲む。
「学校に遅刻してしまうのですが」
「気にするな。まだ猶予はある」
「転入してきたばっかなので色々と見て回りたいのですが」
「後で"護衛"をつけて案内してやる」
「……そうですか」
話が通じないようなのでレビンが先に折れる。
「分かりました。従いますので鞄を取って貰っても良いですか?」
大佐が顎で命じると、レビンは部下の一人からショルダーバックを受け取る。
「では、」
レビンはニッコリと笑う。
「部活総長という方にお伝えください。後日伺いますと」
レビンは女生徒たちの間を潜り抜け、脱兎のごとく逃げ出した。




