いざ戦場へ
レビンは漆黒の闇の中を走る馬車に乗っていた。左には護衛の同業者。向かいにはドルトムント准将の部下の女性と、同じく護衛。そして馬車の前後にも武装したジープが目を光らせている。
「どうしてこんな夜更けに移動しているのですか?」
「騒ぎを避けるためです」
黒目黒髪の少し厳しい雰囲気を感じる同乗者の女性ーーベルーナ・アルガド中尉が答える。
「随時、徴兵を行っている軍とは違い、これから向かう場所は学校です。転入生は、いやでも目立ってしまいますから。ですので私たちは夜のうちに潜入します」
「なるほど。そして朝気づいたら私は新たな学校の生徒、中尉殿は先生になっていると」
「そうです。そしてリストに載っている護衛対象を守って貰います。期限は無期限。恐らくは終戦するまででしょうけど」
「それは誰の勝利による終戦ですか?」
ベルーナは瞳を険しくする。
「我ら軍国の、に決まっているでしょう。もしかして疑っているのですか、軍国の勝利を? 諜報部の私の前で良い度胸ですね」
レビンは苦笑する。
「申し訳ありません。共に戦うものとして中尉殿を試してしまいました。戦場では敵よりも無能な味方のほうが脅威ですから」
レビンの言葉にベルーナは探るように彼を見る。そして溜息を吐く。
「あなたのお眼鏡にかなって光栄ですよ、錆ウサギ」
「やめてくださいよ。私は嫌いです、その名前」
「白ウサギでいれなかった、あなたが悪い」
「申し訳ありませんね。そうしないと生きていけない人生だったもので」
レビンは頬を引きつらせながらも笑顔を保つ。
「というより、どうして敬語なんですか? 私は兵士で中尉殿は士官ですよね」
「お気になさらず。誰に対しても私はこうなのです」
馬車が止まる。扉が強くノックされる。
「中尉殿、合流地点に到着しました」
「相手は?」
「学園の近衛が六人。身分の証明も終わっています」
「そうですか。では、ここからは近衛の方たちに護衛を任せます。ご苦労様でした」
兵士は短く返事をすると、馬車内の兵士、そしてジープもレビンたちを置いて去っていった。
「学園まで護衛がつくわけではないのですか?」
「いいえ。ですが学園は許可なき者の立ち入りが出来ないようになっています。私たち軍人なんてなおさらです。代わりに学園私設の軍隊がありますが」
「それが、この人たちですか」
扉が丁寧にノックされる。
「馬上のまま失礼します。私は学園の近衛第一大隊第一中隊隊長――ミクリア・フォーゲンハイド大尉です」
月夜に照らされた白い胸甲騎兵姿の女性はまるで本物の騎士のようだった。
「お話は学園長より伺っております。アルガド中尉、グリフィーナ一等兵両名の入園を許可します」
ミクリア大尉は微笑む。
「ようこそ、ユーランシュテ学園へ」