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底辺だけど、異世界であがき抜く  作者: ぽいど
第十三章 人の価値、命の価値 編
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十三章の2 班決めは大体嬉しくないことの方が多い

異世界生活119日目、夏の73日



 朝から空を覆う、重そうな灰色の雲の下ベスティア門へと歩く。怪しい天気も気にせず、大陸を目指そうとする人々が集まる停留所の、中央から離れた一角に、黒い斧が描かれた幌馬車の一団を見つけた。



「おお、旦那! こっちですぜ!」



 その一団の中に、卑屈そうに腰を曲げた男の姿……ウーベルトを見つける。この馬車で間違いはないようだ。そこへ合流すると、自分達の様な探検者が複数……これが、今回の同僚たち、と言う訳らしい。



「あっしを除けば13人……まあ、探検者の一団としちゃ多い方ですな。で、それに加えて……」



 傭兵団のメンバーだろうか。同じ肩甲を付けた者が9人。うち2人は先日事務所であったモンシアンとアルバーノと呼ばれていた人物。残り6人は面識がないが、うち1人は目を引くというべきか、異様と言うべきか……とにかく、明らかに他とは違う風貌をしていた。



「ありゃあ……いったいどんな世界から来たんでしょうなあ」



 その人物は、薄めの甲冑の上から、大きなマントで体を覆っているように見えた。しかしそのあまりに軽快な動きと、白色と言う鎧にしては珍しい色。そして防具としては明らかに不必要な、口周りの牙……それとも顎か。その中央にある複雑な可動部。それを見たことで、それが甲冑ではなく体であると、ようやく気が付いた。



「虫の、異界人……」


「あっしも、ああいうのは初めて見やすな……」



 虫はあまり大きくなれない、と聞いたことがあるが……実際そこに居るのだから、何かしらそれを可能にする物があったということだろう。

 虫の異界人から目を離し、雑然と待機している探検者たちの中で荷物の確認をしていると、覚えのある声が少し離れた場所から聞こえてきた。



「ほら、もうみんな集まってるじゃないか!」


「焦んなってカーラ、まだ時間じゃねえんだからよ……すんませーん、黒斧傭兵団ってこっちでいいんすかね?」



 少し、記憶を手繰り……その声の主の事を思い出す。緑髪の軽そうな男はポンペオ、日焼けした女の方はカーラ。共に以前の祭りで一緒の馬車に乗った相手……もっとも、ただそれだけと言えばそれだけの相手だ。



「おや? おやおやぁ? なーんか場違いな人が居ませんかねぇ?」


「やめてやりなよポンペオ、あんなのほっときな」



 ……向こうにとってはそうでもないらしいが。2人ともわざとらしい口調で、こちらにあえて聞こえるよう嘲りの言葉を放つ。不愉快ではあるが……実際彼らの前で失態を見せたのは確かだ。あえて言い返したところで、何にもならないだろう。



「あ~、全員そろったな! ちゅう~も~く! 俺がこの傭兵団団長の、アルバーノだ!」



 それに、言い返す前にアルバーノが木箱の上に立ってその場にいる者の視線を集めた。左右に4人ずつ傭兵団のメンバーを並べた彼は、腕組みをして演説を始める。



「当然! ここに居る奴は何をしに行くのかわかっていると思うが! 改めて言っておく! 俺たちはロヴィスどもをぶち殺し! その豚小屋以下の巣を一つ残らず焼き払いに行く! どうだ、楽しみだろう!」



  何人か、ノリのいいのが腕を突き上げて気勢を上げる。それに満足したのかしていないのか、語勢を強めたアルバーノが言葉を続けた。



「いいか! ロヴィスは雑魚だ、だがこの中に30匹以上のロヴィスと一度に戦ったことがある奴は居るか!?」



 今度は沈黙。仲間と顔を見合わせる者も数人居る……その沈黙をアルバーノが破った。



「まあ、そうだろうな……お前たちはそこそこ腕に自信があるんだろうが……集団での戦いはお前たちがやってきたこととはまるで違う! 統率を失えば……死ぬ! 相手が、ロヴィスだろうとだ!」



 沈黙が一段重くなったように感じる……そこで、アルバーノが意味ありげに笑った。



「だが安心しろ、ただかき集めて『じゃあ行って来い』なんて無茶ぶりはしねえ。これからお前たちを五つの組に分ける! 呼ばれたやつは前に出て来い! まずはお前と、お前と、お前! 俺と来い! 次に……」



 傭兵団1人に付き探検者3人。その組み合わせで班が作られていく。3組目、4組目……



「残りの3人はフォルミとだ! 卵から(かえ)ったひな鳥みたいに付いていけ! わかったな!」



 自分は最後、虫の様な異界人と一緒だ。ウーベルトは正式な参加者ではないので数の外。残る2人は……カーラとポンペオ。



「カーラと一緒なのは良いとして……こいつとかよ、なんか冴えないオッサンもついてるしよぉ」


「遠距離武器組を一緒にしたんだろうね。ま、盾くらいにはなるでしょ」


「……よろしくお願いします」


「あっしはウーベルトと言うもんで……お見知りおきを、へへへ……」


「お互いの紹介は済んだか?」



 あまり良いとは言えない空気の中……妙に、耳障りな声がした



「私はフォルミ、今回お前たちを率いる。現地では私の指示に従え」



 言葉として理解はできるのだが、同時に耳へノイズが入り込んでくる。複数のカスタネットをランダムに鳴らしたような、どこか無機質に近い音。



「あ~、その、フォルミさん? なんすかねその、カチカチ言うのは」


「気にするな。言葉の意味は通じているはずだ」


「なーんか、妙なのと組まされたねぇ……」



 カーラの言葉通り、フォルミは異質、と言う単語がまとわりつく。甲冑の様なその姿もだが、声自体も、機械音声のようと言うべきか……抑揚が妙に少なく、性別もどちらともつかない。自分より若干背が低く、やや細身の手足は女性的な印象が無くも無いが……それは虫から進化したため、なのだろうか




「よーし! 班分けは終わりだ! 出発前に質問がある奴は居るか!?」


「ああ、お尋ねしたいことが一つ! ロヴィスの討伐奨励金とかどうなるんでしょうかね?」


「ロヴィスの耳はこっちですべて集める! 他の物は早い者勝ちだ! だが、戦闘中に戦利品を漁ってる様な奴は俺が後ろからぶち殺すからそう思え!」


「へへ、承知してやす」



 戸惑っている間に、ウーベルトが重要な情報を聞き出した。討伐奨励金が貰えないのは惜しいが、全体の統率のために戦闘中の小銭拾いは戒めねばならないということだろう。



「他にはないな!? よーし、全員馬車に乗れえ!」



 簡単な顔合わせを済ませた後、班長5人に御者4人、探検者15人、計24人が4台ある馬車に分乗し、海峡に渡された巨大な橋を進む。旅程など、細かいことに関しての説明はない……金が欲しければ黙って従え、とそう言うことだろうか。




「一応、星を頼りに道順は覚えておきやすが……馬車と徒歩じゃ比べるのも馬鹿らしい。はぐれたりしないよう、お気をつけ下せえ」


「まあ……仮にあなたが覚えていたとして、放っていかれたらそこまでですがね」


「旦那ぁ、そいつは言いっこなしですぜ。あっしはあの森で誓ったんでさあ、旦那だけは二度と裏切らねえ、って!」


「まあ、あてにはしていますが……どの道、徒歩で帰ることになれば食料が尽きて終わりでしょうがね」


「そこはそれ、雨水を(すす)り蛇でも蛙でも食って生き延びてこそ探検者ってもんで」



 あまり体験したくない探検者の心得を聞きながら、馬車は一列になって東を目指す。プリモパエゼはそのまま通り過ぎ、南東に向けて進む馬車が止まったのは、雲の切れ間から見えていた太陽が地平線に消えたころ。荷物を下ろして、キャンプの準備が始まった。



「物資があるというのは良いですね……」


「いや、まったくで」



 薪にテント、食料、諸々キャンプに必要な物な物が馬車から積み出され、手早く夜営の準備が終わる。たき火で煮られる鍋は具だくさんのシチューが煮立ち、大振りの塩漬け肉と共に供された。



「うめ、うっめ!」


「あたいの作るのよりもかい? ポンペオ」


「カーラのは別格だって!」


「(普段の食事とは全然違うな……)」


「食事をしながらで良いので聞け」



 班ごとに分かれて食事をしている時、フォルミが匙を置いて話を始める。たき火を反射する肌……ではなく外骨格と呼ぶべきなのだろうか。表情がなく、顔から突き出た複眼をはどこを見ているのかも良くわからない……必然言葉からしかその意図を読み取れないので、食事しながら聞き流すと言う訳にはいかない。食事の手を止め、耳を傾ける。



「共同で動くにあたり互いの力量を知っておかなければならない。よってこれから毎日夕食後、及び昼間の休憩中に私と訓練を行う」


「訓練ん~? 俺たちは金をもらって仕事に来てるんっすけどねえ」


「しないのならば良い」


「おれっち、や~らね。カーラもだよな?」


「ああ、そうだね。どこでロヴィスどもが襲ってくるかわからないのに、訓練で体力を使いたくはないよ」


「お前はどうだ、弩使いの……名前は?」


「イチローです。訓練とは、何を?」


「私と一対一で戦う」



 少し考える……確かに体力を温存しておいた方が良いのだろう。予定では10日程度、戦闘に1~2日使うのなら5日にも満たない。その程度訓練したところで何にもならないように思えるが……しかし班長の意向となれば逆らうわけにも行かないだろう。



「わかりました。どのくらいの事ができるかわかりませんが……」


「では、食事が終わったらすぐに始める」



 それだけ伝えると、フォルミは再びシチューを食べ始める。顔を固定したまま、口を細かく動かすさまはやはり昆虫……どことなく、肉食性のそれに思えた。


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