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底辺だけど、異世界であがき抜く  作者: ぽいど
第十二章 探検するための装備を買うための探検 編
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十二章の7 帰還、そして更なる危機

異世界生活106日目、夏の60日



 朝方、テルミナスに到着する。停留所で馬車から降り、まず目指すのは組合の建物。アルフィリアとサクラは先にアパートに戻り、こちらは道中サクラのおやつにされて、すっかり骨だけになったサイモドキ(仮称)の頭を手に、羅針盤の掲げられた組合の建物へと入った。



「随分な大荷物のようですね。ひとまず窓口へどうぞ……」


 『普通、頭丸ごと持ってくる……?』などと、若干呆れ気味の受付嬢、アデーレに案内され、マリネッタの担当する報告用カウンターへ。朝ということもあり報告に並ぶ者も無く、すんなりとカウンターへたどり着き、長い角の先端3分の1を折り取られた頭蓋骨を乗せる。



「あ~、これはぁ~……ツノシシですねぇ」


「ツノシシ?」


「角のある猪、略してツノシシだそうですよぉ? 正確には猪よりは馬に近いらしいですけどぉ……ところで、どのあたりに居たんですかぁ?」


「以前報告した、遺跡近くの森です。詳しい場所は必要ですか?」



 一応、遭遇した場所は記録してある。今回は地図作成が目的ではないためさほど正確ではないが……



「いえいえ~、それには及びませんけどぉ、ただ普段は北の方で目撃される生き物なんですよねぇ。一応魔物に分類される生き物なので、大体の分布は組合でも把握しておく必要がありましてぇ……」


「魔物、ですか……」


「はい~、でも勝っちゃったあなたには、そんなに気にすることじゃないですよぉ。それじゃあ、ツノシシとロヴィスの討伐奨励金が合わせて銀貨22、角が折れちゃってるので……銀貨40、合計銀貨62枚になりますけどよろしいですかぁ?」


「はい。お願いします」


「それでは、手続きをしますねぇ。少々お待ちくださぁい」



 マリネッタは書類の処理にかかり、大きな頭蓋骨は窓口を通らないためジーノの操る台車に乗せられる。赤毛の少年はいつもと変わらず、あふれ出さんばかりの元気をみなぎらせていた。



「おはようございます! 魔物を倒すなんて、着々と実力が上がっていますね! 僕、ますます応援しちゃいますから!」


「魔物……何度か聞いた単語ですが、魔獣とはまた違うのですか?」


「はい、魔物って言うのはベスティアに居る、人に対して敵対的で、さらに角や牙、爪、毒なんかで実際に人にとって危険な生き物を言います。なのでロヴィスなんかも魔物に入るんですよ」


「なるほど……わかりました、ありがとうございます」


「どういたしまして! それじゃあ、これからも頑張ってくださいね!」



 つまり、魔獣と言うのは特定の個体を指す物で、魔物と言うのはその種全体を示す物なのだろう。語感が似ていてややこしいが、自動翻訳に文句を言っても仕方ない。要は、危険な生物だということだ、その呼び方にまで一々気を回す必要はないだろう。

 ジーノは台車に乗せた頭蓋骨と共に立ち去っていく。以前と変わらないように見えるが、父親の事は本人の中で折り合いをつけたのだろうか。いずれにせよ本人が選んだ道なら口を出すことでもないが。



「イチローさん、お待たせしましたぁ。窓口までどうぞ~」



 銀貨を受け取り、組合を後にする。予想以上の臨時収入を得て、次に目指すのは職人街。今回の探検、その最大の目的を果たすことにした。


 職人街にある、小さな工房の戸を叩く。すぐに中から返事がして、住人である桃色髪の小柄な女性が姿を見せた。



「毎度~……あ、イチローはん。うちんとこに来たってことは~……アレの件か!?」


「まあ、そんな所です」


「よっしゃ! まあ入ってんか!」



 以前来た時より、作業用の道具が幾つか増えた工房内。火の燻る竈は材料が投入されるのを待ち焦がれているかのようにも見えた。



「んじゃ、一応確認するで? ブリガンダイン。体に沿わせるような形で沢山の金属板を繋ぎ合わせて作る防具や。厚い布地の下に付けるから表面を染めることもできるし、金属同士がぶつかる音も小さくて済む。手入れも簡単やで。錆びたりしても、そこだけ取り換えれるしな!」



 その後もしばらく説明は続くが、とにかく機能性や防御力においてバランスが取れたお勧めの防具なのだそうだ。そして……



「で、値段なんやけど。前にも言った通り……」


「それなのですが、材料をお渡しするのでその分安くはなりませんか?」


「お、材料の持ち込みか。なんかできる職人って感じやな~……でもまあ、とりあえずその材料を見せてもらおか」


「これなのですが……」



 荷物から、採集してきたインゴットを手渡す。ヘルミーネはそれを取ると怪訝そうに眉をひそめた。



「んん……? これ、鉄ちゃうな。軽い……軽銀って程でもない……何やこれ?」


「粘金です。遺跡によく使われている」


「ああ、あれか! でもこれ、雑やけど延べ棒やん。どっから手に入れたんや?」


「遺跡を探索したところ、貯蔵庫を見つけました。その戦利品です」



 禁術の錬金術で精製しました、などと正直に話すつもりもない。適当な嘘で誤魔化しておく。



「なるほどなあ……よっしゃ、やったろうやん! 探検者が命懸けで手に入れた素材、活かして見せるのが職人の技ってもんや!」


「ありがとうござます。それからもう一つ……鉈を作ってほしいのですが」


「鉈? 前に使ってた剣鉈はどしたん?」


「探検で失くしました」


「さよか。でも鉈でええんか? 接近戦に使うんやったら、短めの剣とかにしてもええんちゃう?」


「あまり、使い勝手を変えたくなくて」



 鉈よりは剣の方が戦闘向きなのだろうが、それでも使い慣れた……と言うほど使ってもいないが、わずかながらに経験を積んだ武器だ。戦闘以外の作業にも使えるということもあり、出来れば同じように使える物を持ちたかった。



「まあ、それもそうやな。ほな鎧と一緒に作っておくわ。同じような感じの剣鉈でええんやろ?」


「ええ、お願いします」


「よっしゃ。じゃあ後は……採寸やな。色々測るさかい、ちょっとそこに立ってんか」



 メジャー片手のヘルミーネは胴回りなど、防具に必要な数値を計測していく。金属板を体に沿わせる以上、この辺りは厳密にやっておく必要があるのだろう。



「あ~……ちょい屈んで」


「(背が低いと採寸も一苦労か……)」


「肩幅は……と。よし、こんなもんか。武器防具は初仕事やからな、気合い入れたるで~」


「初、ですか」



 初仕事と言うのは少々不安を覚えるものの、今は早めに防具が欲しいのも確かだ。少なくとも雑貨屋の店主は、物は良いと言っていた。その言葉を当てにしておくことにして、インゴットを託し工房を後にする。見立てでは完成までは10日ほど、とのことだ。



「ええもん作ったるさかい、期待しててな!」



 背後からの見送りの声は自信と明るさに満ちているように思える。それが品質に反映されるのならばよいのだが。

 炭の臭いと職人たちが立てる作業音の中、ひとまずはアパートへ戻る。残り3分の1となった夏の日差しは、幾ばくか、弱まってきているように思えた……



異世界生活116日目、夏の70日



 結局、これと言った手ごろな依頼も無く、10日間をテルミナスで過ごすことになった。一応本を読んだりして勉強もしては見たが、やはり収入が無いというのは精神的に良くない。

 昼下がりもそろそろ終わろうかと言うころ。サクラを散歩に連れて行こうかと首紐に手をかけた時、大きな鞄を背負い目元にひどくクマを作ったヘルミーネの姿が門に見えた。



「お邪魔します~……あ、イチローはん、丁度良かった! 注文の物、もってきたで!」



 言うなり、ヘルミーネは中庭に入ってきて鞄を置き、中から取り出したのは、布で丁寧に包まれた服……ではない。外見は分厚い服に見えたが、手に取った瞬間布や革ではありえない重みがかかる。



「これが……」


「ブリガンダインや。早速つけてみてんか」



 形は袖の無いベスト状で、前を複数のベルトで閉じる形になっている。裏地には小さな金属板が鋲で敷き詰められていて、それが重み……そして防御力の源であるとわかった。服の上から身に着けてみると、肩に軽い荷物を持った程度の負荷はかかるものの、金属板は上手く体に沿わされ、屈んだり伏せたりと言った動きにも支障はない。音も精々、屈んだ時に若干鳴る程度に抑えられている。



「問題なさそうやな。色は特に注文無かったし、今の服と同じ深緑にしといたで。装飾は無しやけどかまへんやろ?」


「そうですね、こう言った物は実用品ですから」


「よっしゃ、ほな防具はこれで良いとして……こっちが剣鉈や」



 次いで手渡されたのは革製の鞘に収まった剣鉈だが……こいらは前の物と少しデザインに違いが出ていた。刀身はどちらかと言うと白っぽい銀色、全体的に刃の幅と厚さが増している。また持ち手はただの木の棒から、指に沿うよう波打った、革のグリップに変更されていた。



「延べ棒が余ったから、それで作ってみたで。柄頭を付けたから、いざとなればそこでぶん殴ることもできるわ」


「少し、剣に近くなったでしょうか?」


「刃がちょっと大きくなったからな。けど材料が軽いから重さはそう変わらんと思うで」



 柄を握りこんでみる。突起は指の隙間にフィットし、振りやすさは随分と向上していた。試しに薪を一本持ってきて刃を振り下ろしてみるが、一振りで両断という申し分ない切れ味を発揮する。



「……良いと思います。前の物より、扱いやすいくらいです」


「そっかそっか、気に入ってくれてよかったわ! ほんなら……そろそろお会計の話なんやけど~……」


「ええ……」



 この話は避けて通れない。想定外に鉈も頼むことになったが、それでも原材料は持ち込みで済ませたのだ。無理のない金額に収まっているはずだ……



「お代、金貨13枚になります!」


「……はい?」


「金貨13枚!」



 高い。確かに予定外に剣鉈の注文も出したが、それにしても材料は……革等はともかくとして主原料である金属は持ち込んだ。値段が変わらないならまだしも、高くなるというのは予想外だ。




「……待ってください。材料持ち込みで安く、と言う話だったはずです。最初は金貨10枚だったでしょう」


「何言うてんねん、それは普通に鉄で作った時の話や。粘金なんてけったいな素材持ち込まれて、うちがどんだけ苦労したか! 叩こうにも中々(やわ)ならへんし、削ろうにもやたら固いし、この10日間これにかかりっきりやってんで!」


「いや、ですが……」


「とにかく、イチローはんと言えど、払うもんはきっちり払ってもらわんと。あんたの体に合わせて作ってるんやから、他所に売るわけにも行かんのや。これでも知り合いやし、随分安うしてるんやで?」


「(……どうするか)」



 価格について詰めておかなかったのは迂闊だった。しかし金貨13枚など、出せと言われて出せる金額ではない。契約書を作ったわけでも無し、ここは一度水掛け論にしてしまうべきだろうか……



「あら、ヘルミーネ。どうしたの? もめ事?」


「アルフィリア、いやなイチローはんに鎧を作ったんやけど、高い~って言われて難儀しとんねん」


「ええ? 何、イチロー。材料まで用意しておいて、完成品の値段に文句言ってるの?」


「……いつの間にか、随分仲良くなられたんですね、2人とも」



 水掛け論にはできなくなった。アルフィリアの性格から言って、そういった……いわゆる『ずるい』行動は気に入らないだろう。どちらかと言うとこちらが無理筋になる上、お互いに仲の良い女性と言うのを敵に回すのは、絶対にろくなことにならない。



「……組合からお金を下ろしてこないと足りませんので、待っていてください」


「さよか、ほなちょっと上がらせてもらおかな」


「あ、私の部屋に来なさいよ、お茶でも淹れるわ。イチローの部屋なんてベッドしかないんだから」



 背後でお茶会の準備が始まるのを聞きつつ、組合に向けて歩き出す。散歩をお預けにされたサクラが、どことなく恨めしそうにこちらを見ているような気がした……




「金貨12枚と……銀貨50枚です」


「ほい、確かに。ああそうそう、錆びたとか壊れたとかあったら、いつでもきてな! 安く修理したるさかい!」


「出来れば、そんなことにならなければいいのですが」



 良い物は高いというのが世の常ではあるが、それにしても想定外の出費だ。帰っていくヘルミーネの背中を見て、溜息をつく……



「ああ、イチロー、どこ行ってたんだい」


「サンドラさん? なんでしょう」



 そこへ現れたのはアパートの大家、サンドラ。食事の時に世間話をすることはあるが、日中特に用事もなく話しかけてくることはない相手だが……



「なんでしょうじゃないよ、家賃の期日が近いんだ、高い鎧を買う金があるんなら、ついでに家賃も払ってもらいたいもんだ」



 思考が、一瞬止まる。



「(前に、家賃を払ったのは……そう、春の80日。今が夏の70日だから……あと、10日……)」


「今度は分割は勘弁しておくれよ、金貨1枚、しっかり払ってもらうよ」



 地球で、誰かが言っていた……『お金は寂しがりだから仲間の居る所に集まりたがる』と。これもその一例なのか、財政難という鎧では到底防ぎきれそうにない敵を相手に、早急な対応が必要となってしまった……





今回の清算


矢:18→22 (買い足したものの、戦闘により消耗)

保存食:20食→21食



収入

銀貨22(ロヴィス4体分、ツノシシ1体分の討伐奨励金)

銀貨40(ツノシシの角売却代金)

銀貨40(地図埋めの取り分)


出費

金貨:12(ヘルミーネへの支払いとして)

銀貨:91(ヘルミーネへの支払い、および買い出しや道中の宿代、その他雑費として)


所持金の変動

金貨:12→0 

銀貨:52→63


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