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底辺だけど、異世界であがき抜く  作者: ぽいど
第十一章 古の下水道 編
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十一章の2 初期対応

 生きているものは皆物を食べる。食べるのであれば当然出す物は出す。それは自然の摂理であって、何ら責められるものではない。しかし、では出されたものはどうするのか。結局誰かがその始末を付けねばならないのだ。自分自身か、家族か、あるいは……他の誰かが。

 悪臭に耐え、嫌悪感を噛み殺し……必要なこととされながらも、やるかやらないかを自分で選べるのならば、やらない者が圧倒的多数を占めるそれ。それをやらざるを得ない立場は……やはり底辺と言う他ないのだろう。薄暗い建物の中を歩きながらそんなことを考える。慣れたはずの悪臭がやけに鼻を突く。窓からの光が目を刺し……



「うー……! もう! 臭い!」



 隣の部屋から聞こえてきたアルフィリアのやり場のない怒りの声。どうやら一晩で事態を収拾するのは流石に不可能だったらしい。ベッドから降りて着替え……あまり食欲のわく環境ではないが、朝食に向かうことにした。



異世界生活88日目、夏の42日



 前日は下水がらみのゴタゴタで結局一日つぶしたので、今日こそ防具を探してみようと探検者地区の広場まで出てきたが……今度は探検者組合の方が、何やら騒がしい。



「落ち着いてくださーい! 酒場の方でも手続きをしていますから!」



 カウンターに集る探検者たち。その外周でジーノが忙しく走り回っている。



「いらっしゃいませ。あなたも噂を聞きつけて?」



 一方の受付嬢アデーレは動じた様子はない。ひとまず一体何ごとなのか、彼女に聞いてみることにした。



「今朝一番で、市庁から正式な依頼が出ました。あなたもご存知でしょうが、テルミナス全体で下水の詰まりが発生しており……その解決が依頼内容です」


「そう言う物は、職人がやることなのでは……?」


「異常が広範囲にわたっていることから、原因はこの街の下水道そのものにあると予想されています。しかし問題個所の特定にまでは至らず、さらにこの島の下水道には未知の区画も多々存在します」


「それで探検者に依頼が出た、と」


「はい。参加者全員に銀貨30枚。原因を突き止めたらさらに金貨5枚。解決した場合金貨10枚が支払われます」


「参加しただけで……」



 それならこの人だかりも頷ける。そんな美味しい話をみすみす逃す手はない……もちろん自分もだ。



「随分、かかりそうですね……」


「今からなら、およそ1時間ほどかと」


「……酒場の方に行ってみます」



 流石に1時間……地球で言うなら2時間半もこんな所で待ってはいられない。広場を横切り直営酒場に入ったが……こちらはこちらで惨状が繰り広げられていた。

 


「おいお前ら料理の注文もしろ!」


「馬鹿言え、こんなくっさい店で飯が食えるか!」


「どこも似たようなもんだろうが!」


「良いから依頼だ依頼! 銀貨をみすみす逃してたまるかってんだ!」


「えーい、どいつもこいつも……!」



 カウンターでは依頼を請けようと人だかりができている一方、テーブル席の方ではまだ朝だというのに酒を浴びるように飲み……あるいは飲み終えてテーブルに突っ伏す者だらけ。普段はここまでではなかったが……



「おお、旦那。いやあ、とんでもないことになりやしたな」


「ウーベルトさん。なんなんですか、あの……泥酔を通り越して昏睡している人たちは」


「ああ……異界人が多いでやしょ? 特に鼻のいい連中で、この臭いに耐えかねて……酒を鼻に流し込んで嗅覚をバカにしようとした連中がああなってるんでさ」


「なんとまあ……」



 下水と言うインフラの停止は様々な被害を出しているようだ。今はこのような……ある種の馬鹿騒ぎで済んでいるが、もしこれが長期化すれば衛生面をはじめとして様々な実害が出ることは想像に難くない。



「それで、旦那も参加料の銀貨30枚を目当てのクチで?」


「まあ、そうなのですが……しかし出来る事なら、参加だけでなく解決もしたい所です」


「さすが旦那、目指すところが違う! ですが、流石に場所が悪いんじゃあないですかい?」


「場所って……下水道でしょう? 危険な生物がいるわけでも無いでしょうし」


「どうでしょうなあ……あっしらは継ぎ足して使ってるだけで、大本の下水道は前時代の遺跡だ。それこそ、前みてえな殺人機械が居るって可能性もありやすぜ」


「それは……なるほど」


「まあ、あっしらみたいな一般人はおこぼれだけ貰っておいて、解決は腕利きの方に頼むとしやしょうや」



 確かに、自分一人何もしなくてもそのうち腕のいい誰かが何とかするだろう。わざわざリスクを取る必要はない……のだが。



「しかし、もし皆が同じ考えだったら、どうなるのでしょう」


「その時は……まあ、そのうち誰かが何とかするんじゃあないですかい? 誰だってこんな肥溜めみてえな臭いの中生活したくはないでしょう」


「それはそうですが……」



 話しているうち、いつの間にか目の前にカウンターがあった。



「で、お前らも下水の参加料目当てだろ? ほら、とっとと済ませな」



 随分と投げやりな店主が出した依頼票へサインをすると、さっさと横へどけられてしまう。忙しいからと言うよりは……



「店主さん、何か気に入らないようですね」


「まあ、あれも元々探検者だったってこともあって……割と考えの古い人ですからなあ。こうやって危険のない稼ぎに群がる連中は好まないんでやしょ。実際、普段は探検者仕事をしてない連中もいるようですしな」


「探検者仕事をしていない?」


「ええ。ビビっちまったり、そもそも遊び半分だったりで、探検者らしいことは何もしてない連中ってのもいるもんで」


「まあ……そう言う人の考えも理解はできますが。ところで、参加料はいつ貰えるのでしょう?」


「そりゃあ、事態が収束してからですな。まあ気長に待ちましょうや」



 そのうち誰かが解決するだろうが、それまではこの悪臭と付き合わなければならないわけだ。慣れた臭いではあるのでそこまで耐えがたい物ではないが。



「あ、ここにいた!」



 と、そこへアルフィリアの声がする。いつも通り薬を売りに来たのかと思いきや……一直線にこちらへ向かってきて、手を引っ張って来る。



「な、なんですか?」


「ちょっと手を借りるのよ……何? もしかしてまたどっかに出るところだった?」


「そう言う訳ではないのですが……」


「じゃあいいじゃない。あ、ウーベルト、またね」



 そのままアルフィリアはこちらを引っ張っていく……後ろ目に見えたウーベルトは何やら、生温かい目をしているように見えた。



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