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底辺だけど、異世界であがき抜く  作者: ぽいど
第十章 森林スカベンジ 編
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十章の8 未知との遭遇戦

 気配を感じ、目が覚める。体を起こしても外に続く廊下に光は見えない。まだ夜のようだ……ウーベルトもまだ寝ている。サクラも薄く体を光らせながら丸まっているが、その横の毛布にアルフィリアの姿が見えない。まさか一人でその辺りをうろついてはいないと思うが……一応、少し周りを見てみることにした。

 

 廊下を歩き外を向いたところで、アルフィリアはすぐに見つかった。鉄塔の下に立ち、空を見上げている。安全を確認できたので戻っても良かったが……一応、声だけはかけておくことにする。



「(自分で仕掛けた罠に気を付けないといけないとは……)」



 ロッカーの扉をまたいで外に出て、アルフィリアに近づく。その横顔はどこか、(うれ)いを帯びているようにも見えた。



「……何をしているんですか?」


「うわっ。びっくりするじゃない、急に声かけないでよ」


「(足音をしっかり立てろとでもいうのか……)」


「見てたのよ、この塔……っていうかこの遺跡を、かな」


「何か心配事でも?」


「別に、心配ってわけじゃないのよ。ただ……」



 再び、アルフィリアは塔を見上げる。物憂げな顔とほぼ真上から降る青い月光、青い髪は月明りをそのまま紡いだかのよう。声もどこか儚げな音色に聞こえた。正直な所……明日に備えて寝ておいた方が良いのではあろうが、その選択肢をかき消す程度には、その場の空気は出来上がってしまっていた。



「なんとなく……悲しいなって。こんなに進んだ文明があったのに、結局は滅んじゃって。子孫のはずの私たちは何も覚えてない。この塔一つ建てるのだって、ものすごくたくさんの人が長年研究した技術あってこそのはずなのに、それも全部失われて」



 近くにあった、配管か何かの残骸にアルフィリアは座る。わずかに軋んだ音が、森の静寂の中に消えていった。



「私たちも、いつかこうして消えて行っちゃうのかしら、ね」


「それが自然の摂理ですから」


「……随分あっさりしてるのね」


「そうでしょうか?」


「そうよ。いつか……私たちは死ぬ。それは避けられないにしたって、自分がやってきたこと、生きてきたこと、それが初めから無かったみたいになるのって……悲しいっていうか……むなしいっていうか、さ」


「考え方の一つとして、理解はできますが……そう言った考えを持つのはもっぱら高齢者ではないかと」


「なっ……! 私が年寄りじみてるって言いたいわけ?」


「いいえ、単に雰囲気に流されているだけかと」


「おっ……思いっきりぶった切ってくれたわね……」



 表情がややひきつり、握られた手が小刻みに震えているが……とりあえず、その顔から憂いの影は消えたようだ。



「そもそも論として、代々続く王家やら世間に名をとどろかせた英雄やらでもないのですから、名前や業績なんて残らないのが当たり前です。そんなことをちょっと廃墟を見たからと言ってさも悟ったかのように」


「あー、もう! うっさい!」



 勢いよく立ち上がったアルフィリアは目の前までいかり肩で近づいてくる。こちらの言葉を止めるかのように口に人差し指を押し付け、まくしたてた。



「あんたちょっとはこっちに話を合わせようって気はないの!? こう、気持ちに寄り添う様な言葉かけるとか!」


「そう言われましても……一緒に虚しくなっても仕方ありませんし」


「とか言うくせに、前向きなことを言うかと思ったら微妙に後ろ向きだったじゃない」


「現実的な話をと……」


「あんたって奴は、もう……!」



 何か言いたそうに口を動かしていたが……結局出てきたのは溜息一つ。



「はあ……まあ、そうなのよね。先の事を考えて俯いてたって何にもならないし。忘れられた廃墟だって、こうしてまた見つかることもあるんだしね」


「そして、私たちの役に立ちます……ひとまずは収入源としてですが」


「だから、そういう考え方は夢が無いってば」



 どこか呆れられたような気もするが、いつものアルフィリアの様子に戻った。先ほどの様な空気も悪くはないのかもしれないが、こちらの方が、やはり馴染みがある。そろそろ寝床に戻った方がいいかと思いだしたとき。

 彼女の左ひじで、赤い点が震えているのが見えた。それは腕を伝い、肩へと登り……



「……っ!」



 左を向く。森の中、木々の合間に赤い光。咄嗟にアルフィリアに前蹴りを繰り出す。



「きゃっ!?」



 次の瞬間、前を何かが通り過ぎ、鉄塔で火花を散らす。



「いきな、え、何っ!?」


「中へ! 早く!」



 アルフィリアの手を取り建物へ駆ける。赤い光が追いかけてきて、壁が、地面が小さく爆ぜる。けたたましくロッカードアの鳴子を蹴倒し、操作室へ。



「何事ですかい!?」


「敵襲! 飛び道具を持っています!」


「サクラ起きて! こっち!」



 弩を手にし、矢をつがえ扉から入口の方を覗き見る。息を殺して待ち構えると、玄関から先ほどの赤い光の点。そして暗闇に慣れた目に、ゆっくりとその本体が姿を現す……

 それは生物ではなかった。空中に浮遊したそれは、楕円を半分にして棒をつり下げたようなシルエット。直径1mほどで金属光沢を放つそれは、明らかに人工物だ。棒が動くとそれに合わせて赤い光も動く。まるで、獲物を探しているかのように……



「何……あれ……」


「あ、あっしもあんなものは見たことありやせんぜ……」


「恐らく……ドローンの一種ではないかと」


「どろーん……って?」


「つまり……戦闘用の自動機械です。動かせば勝手に標的を探し、見つけたら……」


「殺しに来る……というわけですな」


「はい」



 攻撃の正体は不明だが、金属に火花を散らすほどの威力がある。であれば、たかだか厚手の布など簡単に貫くだろう。



「で、どうしやす。旦那の弩で撃ち落とせやすかね?」


「正直、全くの未知数です。当たっても効くかどうか……」



 見つかるのは時間の問題。撃ち落とせればいいが、出来なければすぐさま突入してきて、三人とも殺される。弩は金属鎧を貫く程度には威力があるはずだが、果たして……あの機械にまで通用するだろうか。



「(通路だから走って逃げるわけにもいかない……よしんば建物から出れても空を飛ぶ相手から、この夜の森で逃げきれるはずが……)」



 逃げることはできない。であれば戦って倒す……明らかに技術レベルが違うこの武器で、果たして太刀打ちできるのかどうか。そうなると選択肢は限られてくる……



「ここに閉じ込めるしかないでしょう。荷物を持ってください」


「閉じ込めるって、どうやって……」


「入って来たらすぐに魔凝石を機械に戻すんです。そして扉を閉めて、もう一度取り外す」


「言うは易いが旦那、それだと誰かがこの部屋で、出てこない様に囮になる必要があるんじゃあないですかい?」


「それは……私がやるしかないでしょうね」


「でも、イチロー……」


「魔凝石を戻して動かす担当と、ドアの操作担当。どちらもオドを出せない私にはできませんので」



 戦っても、逃げても、自分の死亡率はかなり高い。結局これが一番安全……のはずだ。



「こっちに来る……」


「議論してる時間は無さそうだ。旦那の案で行きやしょう」


「頼みます。扉の操作方法はわかりますね?」



 急ぎ配置につく。二人と一匹は扉の反対側で待機。微かな駆動音が、廊下から聞こえ……部屋に、空飛ぶ円盤とでも言わんばかりのそれが入り込んでくる……



「走って!」



 目線ほどの高さに浮かぶドローンに毛布を被せ、上から押さえつける。若干の抵抗を感じる物の、荷物と体重の合計重量の方が勝ったか、ドローンは地面に落ちた。しかし相手もどうにか拘束から逃れようと、体の下で上下左右に暴れ回り、鋭い音と共に毛布に内側から次々穴が開く。



「薬師殿、早く!」


「わかってるわよ!」



 膝で押さえ、鉈を逆手に毛布越しに突き立ててみるが、多少の手応えこそある物の動きが弱まる様子はない。



「(やっぱり手で壊せるような物じゃないか!)」



 周囲に光が灯る。起動には成功した、あとは……



「旦那、早くこちらへ!」



 毛布ごとドローンを蹴り飛ばし、出入り口に走る。後ろで駆動音が上昇するのが聞こえた。肺の中の空気を全て使い切り、扉の外へと体を躍らせた。ウーベルトが扉を操作しているのが見える。扉が閉まる。ドローンが突っ込んでくる。硬い音。



「奴め、挟まりやがった!」


「(まずい!)」



 普通、こういった自動ドアは……何かが挟まったら、自動で開くようになっている。体を跳ね起こし、扉へ突進、挟まったドローンへ鉈の先端を突き出す。硬い感触、ドローンが離れる。赤い光が視界を染め、鋭い音、空気の音。目の前で扉が閉じる。扉の向こうからはじけるような音。



「やった! 薬師殿!」


「ええ! 今止める!」



 魔凝石の部屋から聞こえる唸りが弱まっていく。作戦は、成功したようだ。



「いやあ、上手く行きやしたな、旦、那……」



 胸に湯が流れている。手を当てると、ぬめる感触。湯は、手を当てたそこから、溢れ出してきているようだった。



「旦那あっ!!」



 視界が揺れ、足元が定かではなくなり尻もちをつく。ウーベルトがこちらの上に乗って、胸を押さえてきた。



「薬師殿! 旦那がやられた!!」


「えっ……嘘、やだ! イチローしっかりして!」



 アルフィリアが、魔法を使っている。白い外套に斑点が飛ぶのも気にせず、何度も。何度も。



「駄目、駄目……止まらない! 傷が深すぎる!」


「薬師殿、傷薬は!?」


「こんなに血が出てちゃ……手に出す! じかに押し当てて!」



 息が苦しい。意識して呼吸をしても、まるで酸素を取り込めていないように感じる。



「畜生、駄目か……!」


「そんな……!」


「……旦那、何か……言い残すことは?」



 視点が定まらない、妙に寒い。温かい湯を、ガス代は振り込んだのだったか、そろそろ起きないといけない時間か、遅刻してしまう。母さんが起こしに、痛い、痛い



「……起きる、から……やめて……」



 何かが、青く光っている。呼ばれている。起きないと。良い子で


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