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底辺だけど、異世界であがき抜く  作者: ぽいど
第十章 森林スカベンジ 編
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十章の4 未知との遭遇?

異世界生活77日目、夏の31日



 ふと、目を覚ます。辺りは暗く、焚き火の明かりが水面に反射していた。その周りに二人と一匹の影……



「そういうわけで、あまり他所の文化を揶揄するようなことは言わないのが吉ですぜ。考え方が違って当たり前、何が逆鱗かわからねえんだ。後ろからグサリ、なんてことになりたかあねえでしょう」


「う、ん……」



 葉の間から見える月光はかなり高い位置から降ってきており、もう夜遅い時間であることがわかった。なんとなく目も冴えたため、二人に背後から声をかける。



「……人をなんだと思ってるんですか」


「うおっと? 旦那、お早いお目覚めで……聞いてやしたか?」


「ええ。別に文化だの価値観だので喧嘩をするつもりは有りませんよ」


「へへ、こいつは失礼を……」


「まだ、交代には少し早いんじゃない?」


「しかし、目が覚めてしまいましたし……二度寝する時間でもないでしょう」


「そう仰るんでしたら……ちょいと早めに交代と行きましょうか」


「そうね……あ、イチロー。これちょっと借りてたわよ。見つけた植物の場所とか書いておいたから」


「ああ、ありがとうございます」


「どういたしまして。じゃあおやすみ」



 二人と交代し、焚き火の横で立つ。火に木の枝を足して周囲を見回し……見えるのはわずかに照らされる木々、聞こえるのは水音とどこかで鳴く鳥の声のみ。


 どのくらい経ったか……燃え尽きた灰は随分とうずたかくなった。何事もなく過ぎていく時間はどうしても気分を弛緩させる。何もないに越したことは無いのだが。



「(ん……?)」



 星が見えた。しかしここは森の中、月明りならまだともかく、星など枝葉に隠れて見えない筈だ。そして、その星は……動いた。



「……!」



 息をのむ。ゆっくりと直線的な動き……"それ"は動物だ。猫のように夜に光る目を持つ動物、しかし猫のように一対ではなく一つ。だが……



「(赤く光る生き物なんて……いるのか?)」



 実例を知らないわけではない。だが、あれは線状の光を纏っていたのに対し、今回は一つの発光する点のように見える。弩でその光に狙いをつけ、引き金に指を……



「(いやまて、正体も解らず撃って……この弩で死なないような相手だとどうする?)」



 今の所、相手がこちらに来る様子はない。慎重策を取る余裕はあるはずだ。弩を向けたまま後ずさりし、低い位置にあるハンモックを踵で蹴る。



「うおっと……? どうしやした、旦那」


「あの光を……何かが居ます」


「むう……?」



 瞬くようにときおり姿をけすその光は、少なくとも川の向こう側、木々の間に居ることがわかる。



「……魔獣、でしょうか?」


「それにしちゃ、ちと違和感がありやすが……このままこっちに来ないことを祈りやしょう」



 弩を構えたまま神経をその光に集中させる。ゆっくりと直線運動を続けるそれは、やがて木に隠れて見えなくなった……



「……行った、でしょうか」


「そのようですな……」



 一息つき、焚き火のもとへ戻る。ウーベルトもしばらく様子を伺っていたが、危険が無いと判断したのか、再びハンモックで横になり……それ以後何かが現れることは無く、朝日が森の中を照らし始めた。



「赤い光? うーん……ぱっと思いつく物は無いなぁ……」



 朝食後キャンプの後始末をしながら昨夜の事を伝える。アルフィリアが何か知っているかと思ったが、その期待は外れてしまった。あの光の正体は気になるが……



「正体不明の相手がこの森に居るわけですが……このまま探索するか、引き返すか。どちらにしますか?」


「うーむ、気になるのは確かですがねえ……たった一日歩き回っただけで帰りました、じゃ組合も良い顔はしないでしょうなあ」


「危険は避けたいけど……イチローが主体でしょ? あんたの方針に従うわ」


「(どうするか……)」



 『森をまっすぐ進んだら川があり、赤く光る謎の存在が居ました』では流石に報酬も渋いことになるだろう。あえて正体を突き止めようとは思わないが……ここまで来るのにも経費がかかっている以上、戻るのは本来の目的をそれなりにこなしてからにしたい。

 この考えが、いわゆる悪役や嫌な上司の死亡フラグ的なそれであることは自覚しているが……

 


「続行します。引き続き川下を目指しましょう」



 荷物を背負い、水の流れに沿って歩く。光る物を見つけるという点については昼間の方が不利……あの光が何なのかはわからないが、夜行性であることを祈るばかりだ。


 何かが襲ってくるでもなくそのまま足を進める。変わり映えのしない光景は時間感覚を惑わせるが、おそらく二時間程度歩いたはずだ。時折方位を確認したところ、川は概ね南西に向かっている。このまま進むのなら、数日程度で海岸線に出ると予想できるが……それを確認するには食料が足らなさそうだ。



「あ、ねえあれ」



 川辺で少し休憩をしていた時、アルフィリアが上を向いて指をさす。



「どうしました?」


「あれ、あれよ。木の実がなってる」



 指さす方を見ると、高い……地面からざっと3~4mはある枝に、黒く小さな物がいくつもくっついている。



「ふむ。あっしが取ってきやしょう」



 ウーベルトはその木に取りつくと、身軽な動きで枝から枝へと移り、その黒い実へと近づいていく。



「片手が指二本しかないのに、器用よね」


「何事もコツってもんがあるんでさあ……よし、落としやすぜ」



 木の実はちぎられ、外套の裾を広げたアルフィリアのもとへと落ちていく。手に取ってみると、それは一粒の物ではなく、キイチゴのように小さな粒が集まってできたもののようだ……



「ムラサキイチゴね。甘酸っぱい、食べられる木の実よ」



 こちらも鍋を手に、濃すぎる紫で黒く見える果実を受け止め……鍋に半分ほどたまったら水で洗い、口へ……運ぼうとしたとき、降りてきたウーベルトが手を出して「待った」の一声。



「せっかくだ、探検者の豆知識って奴をお教えしやしょう」


「豆知識?」


「へえ、食える草と食えない草の見分け方でさ」


「まさか派手なキノコは毒、とか……」


「いやいや、もうちょっとちゃんとしたやり方で……最初は臭いを嗅ぐ。きつい匂いの物は避けた方が良い……で、まず皮の薄い手首や肘に乗せて10分ほど待つ……」



 その後も長々と講釈は続くが、要するに少しずつ敏感な部位に付けて反応を見、少し食べては反応を見、ということを繰り返し、最終的に吐いたり倒れたりしなければ食べても安全、ということらしい。時間がほぼ一日かかるので最後の手段だそうだ。



「何それ。普通に毒草と食用植物を覚えた方がよっぽどマシじゃない」


「まあ、そうですがね。みんな薬師殿みてえに頭が良いわけじゃないんで。これ一つ覚えておけば最悪何とかなる、ってのがミソなんでさ」


「そもそも、できれば現地調達は無しにしたいですが……」


「そうは思っても、いつかそう言う時が来るのが探検者稼業ってもんで。覚えといて損はありやせんぜ」



 サバイバル談義をしながら果実を摘まむ。少々青臭さを感じるが、酸味と甘みが半々程度の木の実は指が進んだ。興味ありげに鍋の中を覗きこんでいるサクラへ、試しに一粒手に乗せて出してやると……



「あ」


「食べちゃった……狼って、果物食べても良いんだっけ?」


「ふーむ、まあ犬は何でも食いやすし、食べ過ぎない分には平気でやしょ」



 追加が欲しそうに尻尾を振り、鼻先をこすりつけてくるサクラだが、やはり基本肉食の狼に何個も与えるのは健康によくないだろう。手のひらを向けて「そこまで」の指示を……



「サクラ~、おいでおいで」



 無視して、アルフィリアの差し出したイチゴを食べに行った。



「ところで旦那。木に登った時に妙な物を見かけやしたぜ」


「妙な物?」


「葉の間からだったんで良くは見えなかったんですが、何か……ひときわ高い物がありやした。方位は……」



 ウーベルトが示したのは川下の方。距離は不明だがおそらく一両日もあればたどり着く程度だろうとのこと。

 普通に考えれば正体は植物だが、近くで見て確かめるまでは先入観は持たない方が良いだろう。昨夜の赤い光、あれとの関連性も気になる……



「(いや、それこそ先入観って物か)ひとまず、その何かを目的地に設定します。その後どうするかは、食料の残りと相談して決めましょう」


「森から頭を出すような何か、か……」


「いやあ……こいつは思いもよらない展開ですな。まあおかげで迷うことは無くなりやしたが」



 木の実を平らげ、出発する。ウーベルトが見つけた何かに向けて、川沿いを進んでいった。


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