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底辺だけど、異世界であがき抜く  作者: ぽいど
第八章 悪意、そして邂逅 編
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八章の4 アジトにて

 目を開く……目の前は、真っ暗で何も見えない。自分は死んだ……わけではないようだ。首に絞められた痛みが残っているし、手足が縛られて動かない。少なくともあの世でわざわざ縛られたりはするまい。



「(気絶……そうだ、首を絞められて……!)」



 そうなれば、考えられるのは一つ。あの盗賊らしき集団とチリーノたちはグルで、自分は邪魔になったので気絶させられ、アジトかどこかに放り込まれた……そんな所だろうか。



「(これで3度目か、捕まるのは……)」



 危機的状況ではある、が。どうにもある種の慣れが体に備わってしまったらしく、妙に頭は冷静だ……まず、自分の状況をなるべく正確に把握しないといけない。



「(体に痛み……特になし。怪我はしてないか?)」


「(縛られているのは手首と足首。後ろ手。立つことは……出来た)」



 立てはしたが歩けないので、そのまま座る。後はこの部屋がどんな場所かだが……手に伝わる感触は岩と砂のそれだ。少なくとも建物の中ではないらしい。



「なあ、あんた」


「っ……!?」



 女性の声がした。ごく近く、おそらく何mも離れていない。看守、にしてはその声は切羽詰まっており……そして、妙に幼い物に感じた。



「あんたも捕まったん……?」


「……何者ですか」



 暗闇の中、相手の姿は見えない。しかし確かに、体を起こす気配を感じた。



「うちも、ガラの悪い連中に捕まってしもてん。助けが来たんかって思たけど……違うみたいやな……」


「何者か、と聞いたのですが」


「……うちはヘルミーネ・アイゼンヴァッフェ。西のハイマート山脈からテルミナスに旅しとったけど、もうすぐってとこで捕まってこれや」


「……なぜ、関西弁を話すのですか?」


「かんさい、べん? 話し方が変やってことか? そら、ちょっとは訛ってるやろけど……今そんな事気にしてる場合ちゃうやろ」



 謎の関西弁は旅人らしい……どうやらこちらよりも先に捕まり、監禁されていたようだ。姿は見えないが、気配がこちらに近寄って来るのを感じる。



「で、あんたは……なんなん? まさか自分はだんまりなんていう気ちゃうやろ?」


「私は、イチローと言います……探検者、と言うのはご存知でしょうか」


「ああ……話くらいなら聞いたことあるわ。あんたもそうなん?」


「一応は……それで馬車の護衛をしていたら騙されてこの様ということです」


「そうか……山賊退治に来たんちゃうんやね……」



 落胆の溜息。無理もないだろうが……こちらもそれに合わせて落ち込んでいる場合ではない。このまま捕まっていればどうなるか、想像に難くは無い。1人ではどうにもならないところだったが、2人でなら……



「お互い縛られては居ますが……何とか縄を噛み切れないでしょうか」


「脱走する言うんか?」


「このまま黙って、死ぬか売られるかするのを待つよりは良いかと」


「……それも、そうやな。ほな、まずはこの縄を解かんと」



 手足が縛られた状態で、使えるものと言えば、口しかない。要するに縄を噛み切るのだが……まず、縄の場所を捉えること自体がこの暗闇では難しい。ひとまず声のする方に近寄ってはみたが……



「噛み切る、しかないでしょうが……どのあたりに……」


「こっちで合わせるわ。座って口開けとき」



 口を開けると、伸ばしていた膝に何かが座る感触。それから口に硬い縄が押し当てられる。歯を立て、それを噛み切ろうと試みたが……そう簡単に切れるような物ではなかった。噛むというよりはほぐすに近い作業を、不安定な対象に行うのは簡単ではない。唾液が垂れるのにもかまわず、数本ずつ繊維を引きちぎる。

 その作業をひたすら繰り返し、一本、また一本と縄が切れ……鼻先で手が動くと、膝に物が落ちる感触がした。



「よし、取れた……!」



 続いて膝の上で何やら動き……足もほどいたらしい。気配が背後に回り、腕が引っ張られ、縄がいじられる。



「……この暗さで、見えているのですか?」


「うちはモンシアンやからな。光が無くても見えるんや」


「そういう物なんですか……」


「まあ、暗いと色はあんま解らんねんけどな……よしっ」



 手の縄がほどかれ、ほどなくして足も同じくほどかれた。一先ず脱出に向けての第一段階はクリアしたという所だが……まだまだ、障害は無数にある。さしあたり、この真っ暗な空間だが……



「出口は、わかりますか?」


「うん、こっちに道があるわ。ついてき」



 手を握られ、岩肌を伝うようにしてゆっくり進む。ほどなく、橙色の灯りが平行並んでいるのが見えた。木の板か何かで戸にしているのだろう。押してみるが、開かない……



「そら、鍵くらいかけるわな……」


「(体当たりで破る……いや、流石にここで音を立てるのは……)」



 板を1cm弱ほどの隙間を空け、雑多に張り合わせたそれは、決して頑丈そうには見えないが、強引に突破するのは支障が大きい。何か手は無いかと、戸をよく観察する……すると、板の隙間から鍵……と言うよりは小さな(かんぬき)がかかっているのが見えた。もしこれがこの扉同様、雑な作りだとするならば……



「(この、ロープで……)」



 いったん戻ってロープを回収、端をほぐして閂の見える隙間に差し込む……そのまま捩るような操作を繰り返し……



「(よし、通った……これで……)」



 閂の向こう側を通し、戻ってきたそれを引っ張って……閂が持ち上がった。



「開いた!」


「簡単な作りで助かりました。ですが……」



 慎重に、顔を出す。自分達が居るのは短い洞窟か何かで、その入り口辺りに……見張りだろう。人影が椅子に座っている……差し込んでいた光は、見張りが持っているランタンの光だった。しばし様子を見るが、その人影が振り向く気配は無い。良く目を凝らせば、それは椅子の背もたれにかけ、居眠りをしているようだ。他に人の気配は無い。



「気づかれて、ないん……?」


「そのようですね……このまま、通り抜けましょう」



 背後からのヘルミーネの声に、前に出て道を開ける。続くようにして、明かりの中に彼女の姿が現れた。



「(……思ったより、小さいな)」



 リンランほどではないものの、かなり小柄だ。背は140cm前後ほど。これまで見たモンシアンは皆男で、筋骨隆々の力自慢、と言った姿だったが、こちらは引き締まり健康的、と言った印象を受ける。男女の違いなのか、単に彼女がそうなのかはわからないが。

 光の加減か、赤みがかった長めの金髪は二つにまとめられ、低い頭身と相まって幼く見えるが……背の低い種族だということを考えると、もう大人なのだろう。



「そーっと……やな」


「ええ……」



 音を立てないよう、這うようにしてその人影の方へ向かう。呼吸も抑え、手足を一本ずつ動かして、ゆっくりと移動し……ほんの1mほどの距離まで近づいた。

 いびきを立てる見張りは、苔のような色をした肌で、顔の造形も自分達地球人とは異なっている。やはり異界人なのだろう。その聴力は不明だが、今の所気付かれていないようだ。



「(盗賊になる奴も、そりゃあ居るか……)」



 そのまま横を通り過ぎようとしたとき……



「んがっ……! やべえ、寝てたか……」


「(な……!)」



 不意に、見張りが目を覚ました。あと10分も寝ていてくれたら、通り過ぎることができた物を。見張りが立ち上がる、顔がこちらを向く。手には縄がある。選択肢は無い。突進。見張りの首に縄をかけ、自分がされたように、背負う。



「グゲ……!」



 背中で見張りが暴れているのを感じる。10秒、20秒、30秒。見張りの手が力なく垂れ、抵抗が止まる。しかし、演技かもしれない。そのまま絞め続ける。40秒、50秒、1分。鼻を臭気が突く。



「もう、ええんちゃう……?」



 数分ほどたったか。頭上からのヘルミーネの言葉に、見張りを下ろした。目を剥き、股間を濡らしたその口元に手を伸ばす……何も、感じない。



「……死んだん?」


「……そのようです」


「そうか。まあしゃーない、異界人の山賊なんて死んで当然や」


「……ええ」



 死体を、自分達が閉じ込められていた牢に放り込む。すぐばれるだろうが、やらないよりはましだ。閂をかけて、見張りの居たところまで戻る。



「(……別にどうということは無い、な)」



 一応は殺人、のはずだ。相手は知性があるし、言葉も通じた。立場的にも自分とそう変わらない相手のはずだ。だが、よく物語であるような後悔が襲うだとか、手に感触が残るだとか、そんなことは無い。縄の感触はただの縄、死体は単に重く運びにくい荷物に過ぎない。手を離せばすぐに消える……姿形が違えば、こんなものだろうか。



「(何にせよ、もう後戻りはできない。まずは周りの様子を……)」



 自分達が居たのは、小さな崖に空いた横穴だった。入り口周辺は掘っ立て小屋と言うか物置と言うか、雨よけ程度の簡単な屋根があり、雑多な品物が置かれていた。



「あっ」


「どうしました?」


「これ、うちの荷物! よかった~、道具もちゃんと揃とる」



 戦利品の仮置き場か何かなのだろうか。そこから、ヘルミーネは自身の体ほどもあるリュックを背負う。重々しい金属音がその中からした。



「音が鳴るような物は……」


「か、堪忍してんか……うち、これ無くなったら路頭に迷ってまうねん……」


「(この状況でそういうこと言うか……いやそれより……)」



 ヘルミーネの荷物がここにあったということはあるいは、と思いあたり、同じところを探すと……



「(あった!)」



 自分の荷物も、まとめて置かれていた。管理が雑なのかそれとも油断していたのか、弩と矢も一緒になったままだ。いずれにしても、取り戻さない理由は無い。矢、弩、鉈と武器も置いてある。不具合が無いか確かめるが……



「(ん……?)」



 鉈を抜くと、見覚えのない汚れ……恐らく血、が付いていた。気絶している間に付いたのだろうが、一体誰の物かはわからない。あまり気味の良いものではないが、それを気にしても仕方ないので、それをぬぐってから鞘に納める。ついでにめぼしい物が無いか軽く探ってみたが、これと言った物は見つからなかった。



「……では、行きますよ」


「うん、後ろについてくわ」



 装備を整えて、洞窟の外へ足を踏み出す。不本意甚だしいが、生きるか死ぬかの脱出劇が始まろうとしていた……

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