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底辺だけど、異世界であがき抜く  作者: ぽいど
第六章 エランド・オブ・ザ・デッド 編
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六章の8 クリエイター・オブ・ザ・デッド

 謎の手に捕まれて叫ぶアルフィリア、ランタンが振り回されて、影が激しく踊る。



「(近すぎる、鉈で!)」



 その腕を切り落とそうと腰に手を伸ばしたとき。暴れる灯りが照らすその人影が小さく声を出した。



「た、たしゅ、けて……」



 抜こうとしていた手を留まらせる。まるで幽霊のような言葉、ではあるが。そんなものは居ないという……考えてみれば元々の住人が監禁されているという可能性もあった。騒ぐアルフィリアの手を掴み、とりあえずは灯りを安定させる。明かりの中に浮かび上がったのは……長い黒髪の、若い女性だった。





「うう……あのまま地下室で死ぬのかと……」



 ひとまず、地下室で発見した女性を連れ出し、リンラン監視のもと身だしなみを整えさせてから、寝室で事情を聴くことにする。その間に死体を見えないところに引きずり、一応地下室も調べておいたが、これと言った物は見つからなかった。



「さて、何から聞いた物でしょうか」


「そりゃ、まずは名前からよ」


「だね。聞かせてくれる?」


「あ、はい……イルヴァ・メスト……です」



 イルヴァと名乗った女性は、見たところ自分と同じくらいの年齢。長い髪は手入れ不足か元々そう言う髪質か、所々はねている。フクロウの鳴き声の様な、くぐもり気味の声と俯き気味の姿勢が合わさり、どこか暗い印象を受けた。

 そしてそのイルヴァが巻き込まれた被害者なのかそれとも黒幕なのか……ここは、さっさと核心の証拠を突きつけてしまうとしよう。



「では、イルヴァさん……これに見覚えは?」


「え?」



 死体を動かしていたベストをイルヴァに見せる。彼女はそれを見るなり首をかしげる。少し考え……何かに気付いたように身を震わせた。



「し、知りません……」


「嘘ね」


「嘘だね」


「嘘ですね」


「う、うう嘘じゃないですし……! そ、そもそも何なんですかあなた達……人の家に勝手に上がり込んで……」



 言い逃れ、にしては苦しい逆切れだ。頑張って声を出そうとしているようだが、どうにも迫力がない。



「ここ数日、歩く死体が肉を要求するという事件が発生しています。賞金銀貨50枚がかけられて、私たちはそれを追いかけていました」


「しょ、賞金……」


「で、このサクラが臭いを追いかけてここにたどり着いたってわけよ。ちなみに、そこの台所で転がってるからね、その死体」


「し、死体っ!? え、そんな、嘘、なんで……」


「ん~……? 嘘じゃないみたいだね……本当に知らなかった?」


「え、えと、その……」


「どうやら、話を一から聞いた方がよさそうです」


「そうみたいね……歩く死体の噂が出たのって、いつごろだっけ?」


「確か、5~7日ほど前かな。その時、何してた?」


「ううう……」



 かなり言いたく無さそうにしながらも、イルヴァは観念したのか小声で話し始める。事の起こりは、彼女がこのテルミナスに引っ越してきた日……十日前に遡るのだそうだ。



「わ、私、その……いろいろあってテルミナスに引っ越してきたんですけど……この街、怖い人多いじゃないですか……」


「ん~、まあ怖いって言うか、ギラギラした空気はあるかな? 特にここ探検者地区だし」


「それで、えと……できれば家に居たまま色々用事済ませたいな~って……」


「(通販とかないもんな……)」


「それが……なんで肉を要求する歩く死体になって、あんたは地下室に閉じ込められるなんてことになったわけ?」


「……」



 イルヴァが固まった。どうやら都合の悪い事があるらしい……が、観念したのか。さらにどもりつつも、続きを話し始める。



「……新生活だし、お肉とお酒でちょっと豪華に行こうかな、と……」


「……まさか、そんな理由で死体動かして怪談じみた真似させたわけ!?」


「ひっ!? ち、ちがいます、最初は普通の……人型の人形で……」


「それが、どうして死体に?」


「その、お肉買いに行かせてる間に、地下の食糧庫からお酒を、と思って……でも、急に戸が閉まって、重くて開かなくなって……」


「あ~……中に居たのに荷物が崩れて出れなくなったんだ」



 おそらく、あの乱雑に積みあがった荷物が何かの拍子に崩れたのだろう。重い荷物は20kg近くあった。それがいくつも、しかも足場は梯子階段ともなれば、見たところ運動が得意には見えない彼女が、出られなくなっても仕方ないかもしれない。



「うぅ……ランタンも切れて真っ暗で、手探りで七日間……」


「そ、そっか……なんていうか、大変だったわね、うん……」


「しかし、ずっとここに閉じ込められていたのであれば、なぜ死体に?」


「えっと、多分……ずっとほったらかしたからだと……」


「それって、このアーティファクトの事だよね?」


「はい……これ、『人型の物体を指示に従って動かす』物で、『着ている物が動かなくなりそうになったら、自動で乗り換える』って機能もあって……」



 つまり、何らかの理由で最初の人形が破損なり何なりし

「乗り換え先」として死体が使われてしまったということだろうか。



「まって、じゃあ最初は肉を買いに行かせたのよね? それが何で夜中に徘徊してるわけ?」


「えっと……もっと良く見せてください……」



 イルヴァはベストを手に取り、指で銀の糸をなぞりながら見つめる。白い輝きは恐ろしく複雑な図形を描いており、図形の端から伸びる銀糸が別の図形に繋がっている。アルフィリアの使う回復のようだが、全体の雰囲気が違い、さらにその精微さは段違い。おそらくずっと高度な技術なのだろう。



「やっぱり……あっちこっち駄目になってる……」


「それで、命令が狂ったということですか?」


「……私が地下に居て終了処理もできなくて、延々指示を繰り返して、肉を探していたんだと……」


「それで夜中に運搬されてる、闘技場の死体に『乗り換えた』ってこと?」


「じゃ、無いかな……と……」


「待った、君の言い分だとテルミナスに着てすぐにその、最初にあった人形とやらを動かしたはずだ。それなのに、いわば暗部である死体置き場を知っていたなんておかしいよ」


「偶然、その……運搬、されてるのを見て出所を見つけたんだと……」


「ただ指示に従うだけでなく、自己学習能力まであるということですか?」


「は、はい……」


「うーん、それってすごく高度な魔法のはずだけどな……」



 リンラン、アルフィリアとも技術的な判断がつかない以上、イルヴァの言の真偽を確かめることはできない。自立学習する人工物、地球においてもようやく芽を出したような技術が、この世界に存在するのかどうか……

 そこまで考えたが、冷静に考えてそんなことは別にどうでもいいのだと気づいた。



「少なくとも、歩く死体事件の原因は彼女のようです。然るべきところに引き渡して、それで事件解決としましょう」


「そうだね。少なくともその点は間違いないみたいだし」


「ひっ、引き渡し……!?」


「うーん……でも、死体が動いたのって何の罪になるのかしら?」


「まあ世間を騒がしたってことで……どうなるかなあ、罰金か……払えなきゃ鞭打ちかな?」


「む、鞭うっ……!?」



 怯えた声を出すイルヴァだが……それが法律だというのなら仕方ない。どこに連れていけばいいのかはわからないがそれはリンランが知っているだろう。



「事故だったのに、ちょっと可哀想じゃないかしら?」


「そうは言いましても……実際騒ぎになって賞金がかかってるわけですし……法律ってそういう物ですし」


「大体、そんな高性能なアーティファクトを持ってるってのも怪しいんだよね。見たところ金持ちってわけでも無さそうだし……いや、お金持ちじゃないから人を雇えないのかな? うーん」


「あ、その……これ、私が作りました……」


「え?」


「このアーティファクト作ったの……私……」



 予想外の言葉が飛び出た。確かにアルフィリアが現代に作られたものだとは言っていたが、その作成者が目前に居るとは……いや、だからこそリンランの言う、手に入りにくいアーティファクトを所有する謎が解けた、とも考えられるが……



「作ったって……でも、そんな簡単に……あなた、いったい何者なの?」


「え、えと……去年、レナトゥスを卒業して……」


「ええっ!? レナトゥスって、あの!?」


「驚いたな……なるほど、あそこで勉強したなら作れるのかもね」



 二人が驚きの表情を浮かべる……が、例によって専門用語……と言うよりは固有名詞だろうか。レナトゥスと言うのが何かわからない。卒業と言うからには学校なのだろうが……困惑を察したか、アルフィリアがこちらを向いた。



「レナトゥス魔法学院。世界一有名な魔法の学校よ。レナトゥスを卒業してるってことは、一流の魔術師ってことなの」


「それにしちゃ、なんていうか……しょっぱい家だね。もっと良いとこで、華々しい仕事に就けるはずだけど」


「うううっ……」



 地球で言うMITだとかケンブリッジだとか、そんな所なのだろうか。だが、そんなレベルのエリートにしては確かにやっていることがどうにもそれらしくない。



「そ、そういうとこは……面接とかもあって……それで、上手く行かなくて……実家にも帰れないし、研究室は教授にイビられるし……普通の仕事は学校の名前に傷がつくからするなって言われるし……」



 ……だんだん涙声になってきた。



「それで、結局寮を出る期限になって……『非凡な才能を持つ人物に、既存の枠にとらわれない活躍をして貰うための取り組み』とか言って、こんなとこまであからさまな厄介払いされて……」


「……リンランが泣かせた」


「ええっ!? あたし!?」


「せめてちょっとでも気分変えようとお肉買おうとしたら、こんなことになるし……卒業制作のアーティファクトは壊されるし……」


「……やっぱりリンランが泣かせた」


「いや、これはあたしのせいじゃないよね?」


「グスッ……勉強頑張ったのに……どうして私だけ、こんな目に……」



 泣き出してしまった……とはいえ、これがただの出まかせということも十分あり得る。立場を有利にするために泣いて見せるというのは良くあることだ。特に、理屈や実力で敵わなくなった時には。

 どの道賞金を得るためには然るべき報告をしないといけないのだから、結局彼女は捕まってしまうのだろうが……その一方で、もう一つの考えもまた浮かんだ。国で一番の魔法の学校、そこで学んだということはつまり、そこにコネもあるということだ。であれば、もしかしたら。



「(地球に帰る手掛かりになるんじゃないか……?)」



 学校と言うからには多数の資料があるはず。勿論、ろくに字も読めない自分にとっては、専門書籍など到底手を出せないが……卒業生であるイルヴァにならば、読み解くこともできるはずだ。

 自分がこの世界にどのようにしてきてしまったのかは、一切わかっていない。だが少なくともこの世界に特有の技術、すなわち魔法が大きくかかわっているのだろう。一先ずの生存に追われ、棚上げになっていた課題を解決する糸口になるかもしれない相手、それを銀貨50枚と替えてしまうのは、惜しい。



「まあ、とりあえず行く所に行って、事情の説明はそっちでして貰おっか」


「ひいっ……お、お願い、見逃してぇ……こんなことにするつもりじゃ……」


「うーん……別に私も酷い目にあわせたいわけじゃないけどさ……」


「うう……」


「……ここは、見逃しませんか?」


「ん? なんだいイチロー、この子助けたいの?」


「少なくとも……咄嗟に地下室に駆け込んで言い訳をしたというわけではなさそうです。数日居た形跡はあったわけですし」


「けど、こっちもひどい悪臭の中張り込みとかまでしたもの、何にもなしで帰るのって、なんか納得できないじゃない?」


「(勝手に来たくせに……)このアーティファクトを提出すれば、それで事件解決ということになるかもしれません。すいませんが、イルヴァさんもこれは諦めてくれますか?」


「は、はい……」


「ま、そもそもイチローが探してたんだし、それでいいって言うなら私はいいわよ?」


「ありがとうございます。それで、リンランさんは……」


「ん~……まあ、いいよ。差し迫って何か問題になりそうもないしね」



 アルフィリアは好意的に、リンランは……どちらでも良かった、とでも言いたさげだ。あとは、このアーティファクトを手に入れたいきさつを適当に考えて、組合に報告すればいい。もし怪しまれても、実際もう死体がうろつくことは無いのだから、そのうち認められるだろう。



「では、これは預かります……リンランさん、他に何かないですか」


「そうだね……わかってると思うけど、もしこれでイルヴァが逃げたりしたら、彼女自身はもちろん、君にもあらぬ疑いがかかると思うよ? それでもこの事件……真相を隠蔽するのかい?」


「はい」


「に、逃げたりなんてしません……」


「そっか、わかった。それじゃあ、次の問題に移ろう」


「次の問題……?」


「死体、このままにはしとけないよね? 不審死体は絶対調べられる。調べられたらアレが闘技場の選手だったってのはわかる。じゃあどうしてこんな所に? ってなるよ」



 そういえば、そうだ。この家の玄関脇には、ここまで歩いてきた死体が転がっている。これは幾らなんでも怪しい。自分が警官だったら、間違いなく家の住人を徹底的に調べるだろう。



「……どう処分しましょうか」


「まあ、元あったところに戻すのが一番穏当だろうね?」


「元って……島の反対側よ!?」


「仕方ないじゃないか。他のどこにあっても怪しいんだから」


「荷車か何かを借りて……」


「もう日付も変わったような夜中にかい?」


「く……」

 


 夜明けまで、精々5~6時間……地球時間で、といったところか。あの死体置き場までは、感覚では10kmほど。ただ歩くだけなら余裕だが……この死体を担いでいかなければならないとなれば話は別だ。



「(どうみても60kgは超えてる……歩く速さは半分……で済むか……?)」


「さ~、どうする?」



 リンランはどこか意地の悪い表情を浮かべているようにも見える。まるで、この状況をどう乗り越えるのか見ものだ、とでも言わんばかりだ。



「(……どうしようか……)」

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