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底辺だけど、異世界であがき抜く  作者: ぽいど
第六章 エランド・オブ・ザ・デッド 編
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六章の3 サーチング・フォー・ザ・デッド


「うぅむ……済まねえ、旦那! お声がけはありがてえんですがね。あっしは、ちょいとお力にはなれなさそうでさ」



 目論見通り直営酒場でウーベルトを見つけたものの、帰って来た返事は断りのそれだった。



「野外での行動ならともかく、街中で探すとなりゃあ、聞き込みなんかもするんでやしょ? あっしはこの通り……あまり世間様の評判がよろしく無いもんで。おまけに動物の解体なんかも今回は無さそうだ。正直な所……足手まといになっちまいまさあ」


「賞金首探しに、先達の助言が欲しかったのですが……」


「うーむ、あっしはそっちの方はあんまり……まあ、隠れた相手を探し出して先手を取るって意味じゃ、狩りとそこまで大きくは変わらん筈でさ。後は上手いこと手がかりをつかめるかどうか……これはもう、運としか」


「運には自信がありませんが……わかりました、やってみます」



 当てが外れ、広場でどうすべきかしばらく考える。出た結論はごく妥当なもの……昨夜の目撃場所まで行ってみる事だった。



「(……ここ、だったな)」



 これと言って特徴も無い住宅街。通りの左右には少しガタが来た家が並び、何mか上には洗濯物を干したりするための縄がかけられている。この天気なのでかかっているのはランプだけだが。



「(あのランプから……このランプに来た。そして至近距離で矢を撃って……)」



 地面に目を向けるが、足跡は既に他の多くと混ざり、自分には判別できなくなっていた。死体が逃げるとき、再びランプの明かりに照らされなかったことから、いくつもある路地のどれかに入ったのだろうが……



「(全部調べるわけにも……ん?)」



 路地を覗いていくうち、そのうち一つで奥の方に気になる物を見つける。路地の幅は体を横にしないと通れない程度しかないが、あの奇妙な動きをする死体ならばここを素早く抜けることもできそうに思えた。

 こちらはそうもいかないので、カニ歩きでその路地を行く。



「(これでもし、向こう側からいきなり出てきたりしたらどうするかな……)」



 一抹の不安を覚えながらも、路地の曲がり角辺りに落ちていたそれの所までたどり着く。昨夜自分が放った矢、それがそこに落ちていた……残念ながら折れてしまって再利用はできなさそうだが。体を傾けてそれを手に取ると、矢じりにはわずかに肉の破片のような物が付いている。



「(ここを通った。それは間違いないとして……)」



 そのまま路地を進んでみる。あるいは、その死体のねぐらとでもいうべき場所があるかもしれないと考えたが……曲がり角を曲がってすぐ、招かれざる客に怒った路地の主に出迎えられることとなった。

 金色の目と鋭い爪を持った漆黒の肉食獣……黒猫だ。



「いたっ……! 別に取りやしないって……!」



 どこかの店から盗んできたらしい魚を齧っていた猫は、取られまいとしているのか猛然と引っ掻いてくる。どうにかこうにかその猫をまたいだ時には、顔や手首にいくつもの赤い筋を作る羽目になってしまった。

 そこまでして手に入れた成果はと言えば、この路地が隣の通りと繋がっているということがわかった。ただそれだけだった。

 そう簡単に行くはずがないとはわかっていたものの、いきなり暗礁に乗り上げてしまった。一先ずその辺の木箱に腰掛けてひっかき傷に薬を塗っていると、目の前に小さな人影が立つ。



「やっ、今日の仕事は猫探しかなにか?」


「リンランさん……」


「冗談冗談。で、なにしてるの?」



 昨日に引き続き、リンランと遭遇した。ポーチの付いたベルトをたすき掛けにし、何か用事で出かけていると言った様子だが……



「実は……昨日話していた、歩く死体を探していまして。賞金がかかったらしく、生活費の足しに、と」


「なるほどねえ……じゃ、一緒に探してみる?」


「一緒に、ですか?」


「実はあたしも探してたんだ! ……迷惑ってわけでも無いよね? こんな所で困ってるんだからさ」



 小さく笑うリンラン……確かにその通りなのだが、戦闘になることも予想される。果たして彼女は……



「ああ、心配しないで。自分の身くらい自分で守れるから。伊達に一人旅はしてないよ」


「(お見通しか……)」


「あ、お金は山分けで。どうする?」



 ウーベルトの協力が得られなかったのでその代わり……と言うのもなんだが、彼女は便利屋として色々していると言う。ならば聞き込みなどでも頼りになるかもしれない。



「では……一緒に探してみましょうか」


「決まり! じゃあ早速、お互いに持ってる情報を交換しようか」


「情報と言うほどの物は……ただ、昨夜隣の通りで遭遇したので」


「へえ……それで?」


「矢を撃ち込んだらその路地からこっちへ逃げました」


「なんだか、路地と矢に縁でもあるのかな君。それで、この矢がその打ち込んだ奴? 見せて」



 リンランは受け取った矢を眺め……なぜかその臭いを嗅ぐ。



「ふぅん……腐肉の匂い。いくら暑くなってきたとはいえ、半日でこれは無いね。てことは、本当に死体が歩いてる、と」


「疑っていたんですか?」


「そりゃあ、死体が徘徊するなんてトンデモ話ねえ。けどどうやら本当らしいね、これが君の仕掛けた、手の込んだ悪戯でないのなら」


「それで……信じたところで。そちらの情報とは?」


「うん、それは……ちょっと長くなるし、道すがら話そうか。君も時間を無駄にしたくは無いでしょ?」



 歩き出すリンランに続き、街を行く。左手に塔を見ながら進んでいるということは、北に向かっているようだ。



「あたしも噂……まあ、実は直営酒場のハゲマスターから聞く前から知っててね、ちょっと調べてたんだ」


「それは……なぜですか? まだ賞金もかかってなかったはずですが」


「んん? だって、ほら……面白そうだから」


「そんな理由で……」


「面白いってのは大事なことだよ? で、最初は誰かが死体っぽく振舞ってるとか、噂に尾ひれ背びれが付いたんだと思ってた。なんせ見たって人はそれなりに居たけど、証言はバラバラ。背格好や、時には性別まで、ね。けど本当に死体だって言うのなら話は別になる」


「複数いる、ということでしょうか?」


「いや、それは無いと思う。聞いて回った限り、その日に見た目の違う奴が見つかったって話は無いからね」


「一体の見た目が変わっている?」


「あるいは短期間に別々の個体に入れ替わってるか」

 


 どちらにしても、一筋縄では行かなさそうな予感がしてきた。死体が動き回っているという時点で異常な事件ではあるのだが、外見まで変わるとなればどのように手を進めればいいのか……解らない時は聞くに限る。



「では捜査を始めるとして……これからどうしますか?」


「人の死体なのは間違いないみたいだし、その出所を探す。ま、そんなものが放置されてる場所なんて決まってるけどね」


「北、ですか?」


「そ、君と再会したところ。日陰地区さ」



 そのまま歩くにつれ、周囲の建物の様相は変わっていく。汚れてはいるものの全体的に活気のある探検者地区と違い、建物の色味も失せ、どこかどんよりとした印象のエリア……日陰地区。



「今日は雲が出てるけど……塔と丘が日光を遮るんだ。それで地価が安くて、余りよろしくない奴等が住み着くようになった。それで、日陰者の街、日陰地区ってわけ」


「(ダブルミーニング、か)」


「まあ、さすがにずっと日陰って場所は殆どないんだけどね」


「それで……ここからは?」


「そうだね~、この辺までくると大抵……居た居た」



 明かりの届かない路地に近づくリンラン、その路地からは、汚い足が伸びている……



「ねえねえ、ちょっといいかな? 聞きたいことがあるんだけれど」


「あぁ~……?」



 体を起こして光の下に出てきたのは何というか、その足の持ち主としてふさわしいというべきか。端的に言えば浮浪者が姿を現した。



「この辺りで、死人が歩くって噂聞いたことない?」


「死人がぁ? 知らねえな」


「そ。お邪魔したね」



 リンランはさっさと話を切り上げて歩き出す。こうして道行く人に次々聞いていくつもりなのだろうか……



「そんなあっさりで、いいんですか?」


「何も知らないのを問い詰めたって仕方ないしね」


「たった一言で?」


「まあ、なんとなくわかるんだ。それに寝起きだし、嘘を考える時間も無く答えた。動揺した様子もないし、その辺りを総合的に判断して、ってとこ」


「解るもの、なんですか」


「こう見えて経験豊富なんだよ~? こっからはちょっと根気がいるけどね」



 道行く人、寝転がっている人、それらに聞いて回るがこれと言った手掛かりは無いまま、やがて鐘が五つ続けて鳴った。



「うーん、よろしくないね~」


「手当たり次第では、やはりだめなのでは……それとも、こうやって適当に動いて、向こうから接触するのを待っているのですか?」


「あ、そう言う手もあるか。でも今回は相手が死人だからね~。あっちこっちで情報収集してるなんて思えないし、向こうからってのは望み薄かな?」


「では……」


「まあ、何にも当てがないわけじゃないよ。ほら、あの建物見えるかい?」



 リンランの指さす先には、他とは様相の違う建物がある。周囲の掘っ立て小屋と言うかあばら家と言うか、とにかく粗末な家と違ってしっかりとした石造り。広さも高さも周囲より二回りは大きい。尖塔を備えたそれはなんとなく教会と言う言葉が頭に浮かぶが、そう呼ぶには薄汚れすぎている気もする。そんな感想を持ちながら正面に立ち、大きな木の板二枚でできたドアに手をかけようとしたとき。内側から勢いよく開け放たれると同時に、人影が二つ転がり出て来た。



「痛って! 怪我人に何すんだ!」


「俺は病人だぞ病人!」


「やかましい! そんなにピーピー喚く病人怪我人がいるか! とっくに治ってるんだ、いつまでもベッドを占領するんじゃない!」



 文字通り、転がりながら出てきた男二人が文句を向けるのは仁王立ちした……背はこちらと同じくらい、太くも細くも無く、着ている薄着は着古して変色し、と少なくとも外見は冴えない男。茶髪に混じった白髪から結構歳はいっていそうだが、この辺りの人間にはあまりない、覇気とでもいうべきものがあった……


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