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底辺だけど、異世界であがき抜く  作者: ぽいど
第五章 勇気を出して初めてのベスティア 編
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五章の3 植物の採取

異世界生活50日目、夏の4日



 軽く朝食を食べてから、宿泊費と合わせて銀貨2と銅貨5枚を支払い、南の森を目指して歩く。空は晴れており、特にトラブルの雰囲気も無いまま、人が歩いてできた道を進んでいった。

 プリモパエゼが見えなくなった辺りで、前方に建ち並ぶ木々と、その外縁に建てられた小屋が見えてきた。大体、居住地の近くの森には木こり用の小屋がある物なのだそうだ。

定住するための場所ではないが、森を探索する拠点にはなるかもしれない。

 


「さて、ここからキノコを探すわけですが……ベテランの意見としては?」


「白くて目立つキノコなんで、注意深く地面を探せば見つかるはずでさ。まあ、人が通るようなところのは取り尽されてるかもしれやせんが」


「ま、とにかく行きましょ。最悪迷いさえしなければ良いんだから。地元の人が木こりに来るくらいだし、危険は無いんでしょ?」


「それも……そうでしょうか? ですが、一応は」



 弩の弦を引いてから、ウーベルトを先頭にして森の中へと入る。地面を覆う草だか細い木だかわからない植物を鉈で薙ぎ、足元に注意を払いながら歩みを進めた。

 出会う動物と言えばせいぜいが鳥程度。サクラも特別何かに反応する様子は無く、倒木に腰掛けて昼食をとることになった。



「そういえば……薬師殿は見たところ旅は不慣れってわけでもなさそうでやすが、身は守れるんで?」


「ん~……直接やりあえってのは無理ね。見ての通り力には自信ないし、魔法も……治癒魔法は多少使えるけど、敵を攻撃するような魔法は殆ど覚えてないわ。せいぜい火の粉を飛ばすとか、鈍器でぶん殴る程度の衝撃魔法だとか、その程度ね」


「まあ、そんなもんでやすか……」


「その代わり薬は沢山持ってきてるから、安心して怪我するといいわ! 治癒魔法と合わせて使うと効果が高まるのよ?」


「怪我が前提のような言い方はしないで欲しいのですが……怪我と言えば、ウーベルトさん。腹の怪我はもう良いんですか? いくら薬が強力とはいえ、酷くやられていたように見えましたが」


「ああ、施療院で治療してもらったんですっかり治ってまさあ。ご心配は無用ですぜ」


「施療院と言うのは?」


「ああ、どこぞの神様の神殿が運営してて、安く病気や怪我を治してくれるんでさ。日陰地区にあるのが難点だが、魔法の腕は確かなんで」


「ふーん。そういう所に薬を卸したりするのも有りかしらね……」



 テルミナスにはまだまだ知らないところがあるようだ。今度資金と時間に余裕ができれば、市内を探索することも必要になるだろう。ともあれ昼食は特に問題も無く終わり、再び森の中を探索する事しばし。ウーベルトが地面を見てかがみこんだ。



「ありやしたぜ旦那。こいつがウサギノボウシでさあ」



 指さされた地面には、白っぽく、全体的に丸みを帯びたのキノコが生えていた。傘の直径は10cmほど、文字通り兎に帽子でも作ればこのくらいになるかと言う大きさだ。どちらかと言えば帽子と言うよりターバンだが。



「じゃあ、これを取って帰ればいい、と」



 地面に手を伸ばしてそれをもぎ取った、その瞬間。傘の先端が破れ、埃のようなものが噴出して手にかかり、思わず手を引く。



「ははは! 驚きやしたかい旦那? このキノコはこうやって胞子を噴き出すんでさ。なに、毒でも何でもねえから安心して下せえ」



 どうやらこのウーベルト、変にへつらったり持ち上げたりし無くなった代わりに、ベテランらしい意地悪と言うか弄りというか、そういうことができる気安い関係だと認識したらしい。悪い事ではないのかもしれないが、もうちょっと初心者への配慮という物をしてほしかった。

 嘆息して薄黄色い胞子をはたき落とし、改めてそのキノコを見る。傘の中央付近が破れていて、兎が帽子に耳を通すため開けた穴のようだ。



「とにかく、早く必要な分とってしまいましょう」


「そうそう、それから私の分もね!」


「おや、薬師殿も料理に使うんで?」


「ううん、薬の材料に使うのよ。店で買える物なら買ってもいいけど、無い物はね」


「なるほどなるほど、あんたの薬にはあっしも助けられやした! 是非今後とも良い薬を作ってくんなせえ!」


「ええ、任せて頂戴! 傷薬だけじゃなく、毒消し胃薬虫下し、色々手を出す予定だから!」



 張り切るアルフィリアと共にキノコを袋に詰めていく……が、地面にある物をあらかた取り終えても、袋は殆ど満たされていない。



「次を探しましょうか……」


「なんか……思ったより地味なのね、探検者って」


「駆け出しの仕事でやすからね。ま、疲れるだけで危険がないならいい仕事でさ」



 森の中を巡り、キノコの生えていそうな場所を探す。それ自体はかなりの数見つけられたが、生えているのは目当てとは違うキノコが殆ど。食べられるらしいものから、見るからに毒と言わんばかりの紅白模様まで様々なキノコを、アルフィリアは鼻歌混じりに自身の革袋に詰め込んでいた。

 それら戦利品と共に、森の外にあった小屋まで戻ったときには、すでに日が沈もうとしている時間帯だった。



「四分の一に届かないくらい……ですね」


「まあ、前向きに考えやしょう。この調子なら四日で全部集まる、てなもんで」


「しかし、この近くは大体見たと思いますが……もっと奥に進むしかないでしょうか」


「……よし! そろそろ焼けたんじゃないかしら」



 簡単に翌日の打ち合わせをしていたが、串に刺して焚き火で焼いていたキノコが食べごろになったようなのでひとまずそれに手を伸ばした。味付けは塩を振っただけだが、強めの弾力が噛んでいて飽きない。



「おお、美味い! やっぱりとれたては一味違いやすな!」


「コリコリしてて……あ、駄目よサクラ、野菜はお腹壊しちゃうから」



 香ばしい香りは狼にも好ましく感じられるのか、地面に立てた串に顔を近づけるサクラ……その試みはアルフィリアにより阻止された。後ろ足で立って、高く持ち上げられた串に飛びつこうとするその姿は狼と言うより犬らしさの方を強く感じる。残念ながら、近くの木にリードを結ばれた状態では、掲げられた串には届かないようだ。

 何にしても、平和な夕食だった。ウーベルトから探検者にどんな薬があればありがたいか聞き出すアルフィリアに、自分の冒険譚を得意げに語るウーベルト……妻子持ちということは黙っておいた方が良いのだろうか。

 話に夢中のアルフィリアが構ってくれないと知ったサクラはこちらへと寄ってくる……背中を撫でると長い尻尾が左右に振られた。



「ほら、サクラの分……何か動物が取れればよかったんだけどな」



 鯨の干し肉を食べさせ、空を見上げる。赤い月の照らす下、二人と一匹の楽しそうな声が空へと抜けていく……この日は木こり小屋に泊まることにし、三人横並びで質素な小屋に寝転んだ。



異世界生活51日目、夏の5日



 この日も朝から森に入り、キノコを探す。近場は取り尽したと見て、さらに森の奥を探すべく、一直線に進んでいった……

 

 ウーベルトが屈みこみ、地面を見たまま何か考え込んだのは、キノコが集まっている場所を2,3見つけた時だった。



「……何か気になることでも?」


「いやね。さっきからキノコを採った跡が見受けられるんで。どうにもあっしら以外にキノコを採ってるやつがいるようですな」


「私たち以外って……うーん、猪とか?」


「いや、こいつは獣の足跡じゃあ……もっと人に近い」


「地元の人が来てるのかしら?」


「いえ、それはおかしいでしょう。私たちが来た時、プリモパエゼ近くのキノコは残っていたんですから」


「……旦那、どうやら用心した方がよさそうですぜ」



 どこかのんびりとしたキノコ狩りはここまでのようだ。他のキノコは無視して狙いをウサギノボウシに絞ることにしたが、それでもそう簡単には集まらなかった。



「何とか、もっと急げないでしょうか」


「うーむ……もっと急ぐとなると……この、サクラはどうでしょう」


「サクラを?」


「うーん、物を探すのにサクラってことは……匂いを追わせるの?」


「へえ。と言っても訓練も何もなしでどこまでできるかですが……」

 


 口々に名前を呼ばれたサクラは順番にこちらの顔を見て、首を傾げた……ように見えた。地球でも高級キノコを探すのに犬を使うことがあるらしいが、果たしてサクラにもそれが可能なのだろうか。

 過ごした時間こそまだ短いが、少なくとも全く懐いていないわけではない。ダメで元々と、ウサギノボウシの匂いを嗅がせてみた。



「これと同じ匂いのキノコを探すのよ。わかる? サクラ」


「静かに行く。もし、自分たち以外の動物や人に気づいたら地面に伏せるんだ、いいな?」



 生暖かい息をかけながら、手のひらに乗せたキノコの臭いを嗅ぐサクラ。最悪食べてしまうかと思ったが、それは無いようだった。しばらく嗅いでから上を向き、体の光る線をゆっくり明滅させながら、あたりを歩き回る。

 少しの間そうしていたかと思うと、アルフィリアを引っ張って歩き出した。必然、彼女が先頭になってしまうため、ウーベルトと二人でその左右に付く。

 


「それで……一体だれがキノコを?」


「さあて……考えられるのは好き好んで森の中に居る変わり者か……」


「それだったら、地元の人が知ってるはずでしょ」


「そのとおりで。となれば見つからないようにすごしてる罪人盗賊の類、もしくは……」


「……ベスティアン?」


「へえ、いずれにしても厄介ですぜ旦那。なんせ相手は獣と違って知恵がある」


「……出会わずに済みたいものですね」



 警戒しながら小走りに森を進む。街を出る前に見た巨大な頭部。あんな怪物が、この森に居るというのだろうか。言葉は少なく、口の中が渇いて粘つくのを感じる。手に持った弩は、人相手なら通用するのは実証済み。しかし人以外に対してはどこまで効くのかは未知数。そう考えると、手元の武器が随分と頼りない物に思えた。


 サクラの歩く速度が少し遅くなり、何かを確かめるように蛇行して歩き始める。そのまま藪をいくつか通り抜け……その先には一面にキノコの生えた小さな広場があった。



「これは……全部ウサギノボウシ?」


「そうみたいね……サクラ、偉い! よくやったわ!」


「いやはや、こいつは驚きだ。見つけたのもそうだが、訓練も何もしていないのにこうまで旦那達のいうことを理解して従うたあ……こいつは、連れ帰って正解だったかもしれやせんぜ、旦那」



 お手柄のサクラをアルフィリアは撫でまわしている。広場には、十分袋を埋めるだけのキノコがあり、それら手分けしてかき集め、詰め込んでいった。



「後、どのくらいで終わりそう?」


「あと半分といった所ですね……」


「まったく、猫の手も借りたいくらいでさ」


「(こっちでもそういう表現をするのか……)」



 三人で忙しくキノコを採る傍ら、サクラは地面に寝そべっている。狼の手ならそこにあるが、さすがにキノコ採りには使えまい。視線を地面に戻したとき、ふとさっき言ったことを思い出す。『何か来たら伏せろ』の指示をサクラが今も守っているとしたら。

 サクラの目線は森の奥へと向けられ、耳も垂直に立てられている。その森の奥で何かが動いた気が……否、目を凝らせばはっきりと、草が揺れるのが見えた。


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