二十六章の11 過去を知るのは機械のみ
前回のあらすじ
燃料ユニットを回収して、動力の復旧に成功した一行。再び全員での遺跡探索を再開するが、
遺跡の機能が復旧したということはすなわち防衛機構もまた、復旧していたのだった。
通路に仕掛けられていた、防衛設備からの銃撃がハリャーカを襲った。ハリャーカは床に倒れ……
「う、うおお! びっくりしたあ! これが、銃って奴かあ!?」
「頭を上げるなハリャーカ! そのまま這ってこっちまでこい!」
どうやら怪我はしていないらしい。放たれた銃撃は扉を塞ぐのに使ったトレーニング機器の重りに命中し、ハリャーカはその破片を受けただけで済んだようだ。もちろん、そんな都合の良い場所に勝手に重りが動くはずはない。
「早く……これ重い……」
「片足で上げるなんて……さすがカエル型ってことなのかな」
カエル型異界人、フロッシュ。彼女が機器に飛びつき、カエル型ゆえの長く強靭な足のおかげで、ドアの陰に隠れながらも大きな重りを丁度扉の真ん中あたりまで持ち上げていた。銃撃は続き、重りを持ち上げるワイヤーが切れたと同時に、ハリャーカは射界から逃れることに成功した。
「怪我は無いか!?」
「なんとか……」
「これじゃあ進めないですよ。一体どうすればいいんですか?」
「壊す、やってみる。槍、返して」
「いや……その前に試しておくことが有ります」
試すと言っても大したことではない。動力を一度落とし、その間に破壊できないか試すだけのことだ。動力室に戻って操作し、再び遺跡は闇に包まれる。扉も動力を失い動かなくなったが、挟んでいたトレーニング機械のため通ることができた。そして防御機銃は……動かない。壁に引っ込んだままのそれに、一発ずつ強化矢を撃ちこみ、露わになった内部機構を引きずり出して床にばらまく。
「(さすがにこれだけやれば、動かないはず……)」
再度動力を入れて通路に戻るが、機銃が動き出す気配はない。扉の前まで進んでも反応はなかったため、全員で扉前に移動し奥の扉を開く。その先はT字路になっていたが、交差点の所に机やら椅子やらが乱雑に置かれている。片づけていた途中……あるいはもっと積み上げていたものを、通れるように片づけたという印象。
「バリケードだな。とにかく何でも持ってきて道を塞ごうとしたんだ」
「よほど切羽詰まってたみたいだね~。だけど、勝ったっていうんなら、この基地の人たちはどこに行ったんだろうね?」
「床の修理もされていませんし、勝ったといっても被害は大きかったのでは? そのまま放棄されたのではないでしょうか」
「だとしたら重要設備は破壊するはずだ」
「難しい話はよくわかんねえけどよう、次はどっちに行くんだ?」
「どかした。先、いける」
通行の邪魔になっていたバリケードを撤去し、先へ。二手に分かれた通路はどちらも扉に繋がっているが、そのうち左側に進んでみることにする。扉を開くと、中は机と書類棚が並ぶ部屋になっていた。
「ここは……事務所か何かでしょうか」
「そうだな。軍隊だろうが何だろうが事務作業は必ずついて回るものだ」
「書類とかいろいろあるんだろうけど、あたしらは読めないね~」
「……あ、見てくださいアドルフさん! これ、鍵束じゃないですか!?」
「ん~……なんかそれっぽい……?」
カルミネは壁掛けの箱から、輪に通された金属片を見つけた。確かに鍵束のような見た目、これで扉が開くなら毎回自作の道具に頼る必要もなくなるかもしれない。そして事務所には奥に続くドアが一つ。意匠が施され、他とは違った雰囲気……調べない理由はない。鍵束のうちの一つを使って開けると、そこは大きな机がある会議室と思わしき場所、さらにその奥には司令官か何かのものらしい、絨毯の敷かれた寝室があった。
「いい物、ありそう」
「そうだな……少し探してみるか。隠し金庫でもあるかもな」
棚を引き出し、家具をずらし、絨毯をめくり、埃を舞い上げながら室内を探索し……デスクの下に、床埋め式の金庫を発見した。ダイヤル式のそれは番号がないと開けられないと思われたが……
「ここは私の出番かな?」
「開けられるのですか?」
「機械式なら試してみる価値はあるさ。時間はかかりそうだけどね」
リンランは金庫の上に顔を置き、ダイヤルを弄り始めた。それを眺めることしばらく。
「俺たち、先、他行こう」
「だめです。全員ここで待っていてください」
「俺たち、急ぐ。アドルフ、違うか?」
「ああ、確かに無駄にする時間はない……だが、今は全員固まっているべきだ」
「ミルサ、犯人だったら、どうする」
「一人だし……何もできないんじゃ……?」
「わからない、ミルサ、いろいろできる。額の目、不思議」
「ミルサさんは良い人ですよ! ちょっと言葉が乱暴なだけです!」
「あ~、おしゃべりは勝手だけどさ。あたしは耳を頼りにしてるんだ。できれば静かにしてくれるとありがたいな」
ここに至って、解放戦線にも徐々に不和が滲みだしているようだ。下手な行動に出ないよう、部屋の入り口側に立って室内を見回す……やや時間をかけはしたが、やがてリンランがドヤ顔をして顔を上げ、仰々しく金庫の蓋を開ける……その中から彼女が取り出したのは……
「……鍵かな?」
「確かに、さっきの鍵束と同じに見えますね」
チェーンに繋がれた複雑な形状の金属片。先ほど束になっていた鍵と似た形をしている……
「だが、これ一つだけわざわざ金庫にしまってあったんだ、何か特別なものだろう」
「そうだね~。よし、発見者特権としてこれはあたしが持っていよう」
リンランはそれを首にかける。ほかにこれといったものはなく、酒瓶や軍服らしいものが見つかった程度。ひとまずここの探索は打ち切り、残った通路の方へ進むことにした。
そこは他と大きく異なる部屋だった。中央には丸い大型の装置があり、その上に透けた映像が浮かび上がっている。白い球体のそれはどうやら地球儀……この世界の地形を現しているらしい。陸地を線でかたどっただけの物のようだが、小さな島まで網羅されており、その精度は高そうだ。地図の上にはいくつも菱形や丸、三角のアイコンが表示されている。そしてその地球儀を取り巻くように情報端末と一体化した机が並び、奥には一段高く、ひときわ大きいデスクが据え付けられ、こちらを見下ろしていた。
「どうやら……ここが指揮所か」
「なんだあ、あの丸いのは?」
「ミルサさんから聞いたことがありますよ! あれ、この世界の形を現してるんです!」
「でも……なにもわからないねえ……」
「探す、何か、あるはず」
室内を探索し、有用なものがないか探るが……金銭的価値はともかくとして、何か使えそうなものという意味では、なかなか見つからない。机に仕込まれた情報端末はシュタルテンで起動はできるものの、内容が読めないのでは意味がない。探索の手が部屋の奥にある指揮官用と思われるデスクに伸びるのに、時間はかからなかった。
「さてさて、何か仕掛けがあったり……」
「あったとしても読めないのでは……」
「とにかく見てみる価値はあるはずだ。よし、動かすぞ」
他と同じように、司令用デスクに仕込まれた端末を起動させる。しかし、他は何かしら空中投影の画面が出てきたというのに、こちらはなにも反応がない。デスクに明かりがともっているので起動はしているはずなのだが……
「お、ここでこれの出番かな?」
リンランは何かに気付いたようだ。デスク上に開いていたスリットに、先ほど見つけた鍵を差し込む。すると半透明のスクリーンのようなものがデスクから上がり、さらに床ごとデスクが上昇する……
「お、お、お、なんだあ?」
「のぞき見をされないための仕掛けってことか。さて、何が出るか……」
3mほどの高さになると、スクリーン越しに見える地球儀に変化が出た。アイコンが数、種類とも増え、そのいくつかは海上に表示されている。また色も赤い物、青い物があり、ホムニス側には赤、ベスティア側には青が集まっているようだ。
「ふ~ん、まるで遊戯盤みたいだね」
「こいつは……戦力配置か? 見ろ、この表示は船を現してる。青いのには詳細な情報が付いていて……緑の点線が伸びてるな。これは何らかの位置を示しているのか?」
興奮気味なアドルフ。どうやらこの情報はスクリーン越しでないと見えないらしく、司令官しか見れないらしい。となるとやはり、戦力配置のような重要なものなのだろう。
「とはいえ、どの船も前文明の物、とっくに全て沈んでいるでしょう」
「だろうな……だが見ろ、ここだ!」
アドルフが指さす一点は、ベスティア大陸西の海岸にあるアイコン……位置から見て、この基地を示しているらしい。そしてそこから線が伸び、別の枠に繋がっている。その枠の中には、船のアイコンが一つ。
「ここに、まだ船はある! 基地の中に残っているのなら、まだ使える可能性も高い!」
「けどよう、どこにもなかったじゃねえかよう」
「まだ見てなかった場所があるじゃないですか。ミルサさんならきっと今頃、あそこを開けてるはずです!」
「様子……見に行く……?」
わずかながら希望を見出して、ミルサが調査中の制御室に移動することになった。リンランがカギを抜くと、スクリーンと床が下りていくが……ふと、何か違和感を感じたような気がした。
「どうしたの助手君、行くよ?」
「ええ……」
リンランに急かされて指令室を後にする。この遺跡で探索していないのはあの焼き切られかけた扉の奥だけとなった。その奥に、このアイコンの船が残されているのだろうか……どちらにしても、探索の終わりは近づいている。それは同時に対決の時が近い時も意味しているだろう。自分の考える容疑者をリンランに小声で伝えると、彼女もその考えを肯定する。注意する目標を搾り、集団の最後尾に続いた……
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