二十五章の6 夜間強襲戦
前回のあらすじ
逃げた人買いを追跡するイチロー達。馬車に対して速度では有利だったが、ジーノたちを盾に使われて逃げられてしまう。一行は体勢を立て直し、人買い達の拠点を襲撃するのだった。
地面に伏せ、松明の灯りに照らされた射手を撃つ。1発目は手前に落ちた。敵の矢が頭上を過ぎるのを感じる。海風で押し返されるのを考慮し高めに狙いをつけ3射目。横に逸れるが高さは良し。敵の2射目がまた頭上を過ぎた。3発たて続けに放ち、1発が命中。敵が胸を抑え倒れるのと、アルマが敵陣に突入したのはほぼ同時だった。
「はああああっ!!」
迎え撃とうとした1人をすれ違いざまに斧槍の一薙ぎで倒し、人質の檻へ駆け寄ろうとした1人を背後から貫く。それを放り捨て、離脱しながらついでとばかりにもう1人倒し、敵陣を左へ駆け抜ける。
「(流石!)」
敵が混乱している間に、こちらも接近。30mほどまで近づき、アルマの突撃から隠れようとした相手や、乗られようとした馬を射って行く。丁度アルマの突撃と交差するような位置取りになっているため、自分とアルマのどちらかには体を曝すことになる。それを1人ずつ倒していき、弾倉を1つ半使ったころ、敵陣を壊滅させることに成功した。
「ふっ、他愛なし!」
「終わってみれば、圧倒的でしたね」
「無論だ。正しく、そして強くなければ騎士とは言えぬ! さて、子供たちを解放するとしようか!」
アルマは斧槍を振りかぶって錠を叩き壊し、中にいた子供たちを外に出す。怯えていたが、檻の戸が開けられると一斉に飛び出してきた。
「うえーん!!」
「怖かったよおー!」
「よしよし、安心しろ、もう大丈夫だ!」
飛び出す子供たちを抱きとめるアルマ。正義の騎士らしいことができて彼女も満足だろう。子供たちの中にジーノの姿を探すが……居ない。
「(別の所か?)」
周囲を探すが、檻はこの一つだけ。
「(となると……)」
並ぶテントに目を向けると、そのうち一つから男が飛び出してきた。確かジーノに顔を切られたとか言っていた……その脇には赤毛の少年が抱えられている。
「く、来るな! 来たらこいつの喉を掻っ切るぞ!」
「そしたらあなたは撃ち殺されて終わりですがね」
行く手を塞いだが、やはり予想通りの展開になった。アルマも後ろをとったが、男の頭だけを正確に撥ねられるかもしれないが、ジーノは下から喉にナイフを突きつけられている。倒れ方が不味いと、そのままジーノに刺さりかねない。
「諦めろ! どうあがいても最早逃れることなど出来ん!」
「へ、へへ、じゃあとっととやったらどうだよ。出来ねえんだろうが! 道を開けろ!」
膠着状態かと思ったその時。何かが飛んできて男の足元に落ちる。なにか、ガラスの瓶……
「イチロー、それ撃って!」
アルフィリアの声。考える間もなく、矢でその瓶を砕く。中から何か液体がこぼれ出て……陽炎のように揺らめきが昇った。
「な、なん、だ……?」
疑問の声も半ばに、男はナイフを取り落として地面に倒れる。中身が何だったのかは、大体想像がついた。
「危ない危ない。やっぱり私も居た方がよかったわね?」
「これは、毒? いや、眠っているのか……なるほど、これが麻酔薬とやらだな!」
「ええ。少ししたら目が覚めるわ。ジーノは……」
とりあえずジーノの様子を見るが、一目見てひどい状態なのは分かった。顔や胴体には青黒い痣ができており、口から流れる血は口内を切った物だろう。内臓破裂、と言う線は考えたくないが……
「ひどい……すぐ手当てするわね」
「むごいことを……!」
アルフィリアが薬と魔法でジーノを治療する間に、周囲を見渡す。もともとこの野営に居た者と合わさったのか、人数は増えていた。
「(7,8,9……全員動けそうも無し、と)」
倒れた相手は苦しそうに呻き、中には体の一部を失った者もいる。中には手当てをすれば命を取り留めそうな相手も居るかもしれないが、ジーノの治療を後回しにしてまで助ける必要もない。テントの中には食料や細々したものがあるが、それを調べるのは夜が明けてからにする。ジーノの元に戻ると、包帯や湿布、薬に全身を覆われていたが、意識は取り戻したようだ。男の方は厳重に縛られているが。
「う、イチロ、さ……僕……」
「無理にしゃべらなくて結構。寝ていてください」
「あいつらは……」
「安心するが良い、全員打ち倒した!」
「あいつ……消える奴、は……?」
「消える? なんの事?」
「消える奴……逃げようとしたとき、突然、目の前に……異界人……」
「(姿を消す能力を持った異界人が一味に居た? あの異界人か? でもそんな能力があるなら……)」
疑問に答えを出す前に、アルマの背後で地面が盛り上がる……違う、地面に何かが伏せている。
「そこに何か居ます!」
「何!?」
失敗した。倒した敵を数えはしたが、その顔や服装を一つ一つ確かめはしなかった。数が増えていたということは、正確な数を把握できていないという事。全員を倒したつもりになるのは、早すぎた。それは、アルマに背後から飛び掛かり……
「うぐっ!?」
今まで聞いた覚えもない、アルマの苦痛の声がはっきりと耳に響いた。
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