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底辺だけど、異世界であがき抜く  作者: ぽいど
第二十五章 少年少女の主張 編
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二十五章の2 家出少年?

前回のあらすじ

 

 探検者組合で働く少年ジーノ。彼の父親もまた探検者だったが、探検中に命を落としていた。探検者にあこがれるジーノはそれを聞き、しばらくの間迷いを持っていたようだが……やはり憧れは捨てきれていないようだった。

異世界生活371日目、春の55日




「貴公! 貴公貴公貴公!」



 依頼が無いか酒場に来るなり、けたたましく絡んでくる人物。全身を鎧で包んだ、謎の女騎士ことアルマ……その正体はどこかのお嬢様だというのが、ウーベルトの見立てだった。



「聞いたぞ! 悪の錬金術師を成敗したらしいではないか! さらには前文明の遺跡を見つけ出し、宝を持ち帰ったとか! なぜ……何故私も呼んでくれなかったのだ!?」


「いや、呼ぼうにもあなたどこに居るかわかりませんでしたし……」


「くぅ……! 私とて、外せぬ用事というものがあるのだ……!」



 アルマのプライベートはさておき、何か仕事が無いか尋ねてみるが……店主が依頼票を出す前に、一人の女性が駆けこんできた。



「すいません! こちらにジーノは……うちの息子は来ていませんか!?」


「何だ? ジーノって言うと、あいつか。事務所の方に居るチビか」


「はい……! 昨日から帰っていなくて……!」


「何と!? もしや……誘拐か!?」


「いや、ただの家出でしょう」



 色めき立つアルマに、昨日あったことを伝える。行動をすると言っていたジーノだが……随分と短絡的な手に出たものだ。



「なるほどなあ。心配するな奥さん、子供の家出なんて2,3日もすりゃ帰って来るさ。心配なら衛兵に通報しておきな」


「そんな……そうならいいんですが……」


「母が子を心配するのは当然のことよな。そうだイチロー殿! 我らも一肌脱いで探すのを手伝うというのはどうだ?」


「いや、手伝いませんよ……依頼でもあるまいし」


「貴公、それは薄情であろう!」


「いいや鎧の嬢ちゃん。こりゃイチローが正しい。俺たちは金を貰って仕事をしてるんだからな。金も払わず動くのが当然と思われたら困るんだ」


「う、むむむ……」


「いえ、いえ……良いんです。皆さんに迷惑はかけられませんので……」



 やり取りを見ていたジーノの母は頭を下げ、酒場を後にする。探検者になりたがっているジーノだが、まさか一人でベスティアには行くまい。小遣いが尽きれば、腹を減らして帰るだろう。アルマは釈然としないようだったが。

 結局この日はこれと言った依頼も無く、家に引き上げることになった。



異世界生活372日目、春の56日



 朝、ドアがノックされた。出てみればそこにいたのは衛兵……過去何度か事件で遭遇したことのある隊長だ。隊長といっても衛兵の総元締めではなく、小隊長や係長程度の意味らしいが。一瞬身構えたが、彼は丁寧な口調で話し始めた。



「失礼、ジーノと言う少年について、少々お話よろしいかな?」


「ジーノさんの?」


「え、ジーノ君、どうかしたの?」



 どうやら自分やアルフィリアの件についてではないらしく、ひとまず招き入れることにした。



「え~、では……54日に何をしていたかお話願えますか?」


「何と言うほどでも……朝、組合の直営酒場に依頼を探しに行き、見つからず家に戻って昼食……その後彼の実家に糸を買いに行きました」


「なぜ彼の店に? 普段から利用を?」


「ええ、まあ」


「お茶どうぞ……それで、何があったの?」


「どうも。54日に家を出たっきり、戻っていないんですよ。母親から捜索願がでましてね。それで、今の所足取りを追っていると言うわけです」


「え、それって……行方不明!?」


「今の所、家出、事件事故の確定はできていません。それで……糸を買いに行って?」


「帰りに、彼と話しました。探検者になりたいが親に反対されている、と言っていましたね」


「なるほど……それから?」


「特には。ああ……行動して認めさせないといけない、とも言っていました」


「行動ですか……何か心当たりは?」


「さあ……話し方からして、探検者になる既成事実を作ろうとしたのではないかとは思いますが」


「ふむ、既成事実ですか……ありがとうございました。また何かあったらお尋ねします」



 お茶を飲み終わった衛兵は立ち去った。どうやらジーノは思ったよりも粘っているようだ……どこかに転がり込みでもしたのだろうか。



「心配ね……」


「まあ、自分から親元を離れる独立心は大したものですが、それに対する危険もまた彼自身が負うことになるのですよね」


「……探しに行ってあげようとかそういう気は?」


「連れ戻したらそれはそれでジーノさんの意志を無視することになりませんか?」


「それは……う~ん……いやでも子供よ? 間違ってるときは正してあげないと」


「それは家族の役割であって私たちが首を突っ込むことではありません」


「屁理屈屋め~……」



 不満そうにするアルフィリアだが、変に首を突っ込んで警察と関わるのも避けたい。気を取り直して依頼探しに出ようとしたとき、玄関に見知った姿があった。



「こんにちはぁ、イチローさんのお宅……ですねぇ。お邪魔していいですかぁ?」


「あなた組合の……」


「はぁい、笑顔が売りの看板事務員、マリネッタでぇす! 今日はイチローさんにお願いがありましてぇ。お時間いいですかぁ?」


「はあ、構いませんが……」



 なにやら、今日は来客の多い日だ。彼女とはあまり交流が無いため、何事かと思ったが……どうも彼女も、ジーノの件で来たらしい。



「というわけでぇ、ジーノ君を見つけて連れ戻してくれないかなぁと」


「何でまた?」


「だって心配じゃないですかぁ。ジーノ君はこう……皆に可愛がられてますし?」


「心配するのはわかるとして、なぜ直接来るんですか。依頼を出せばいいでしょう」


「組合や組合員が依頼を出すのは原則禁止なんですよねぇ。断りにくいでしょ? なので、直接の『お願い』なんです」


「抜け穴ってわけね~……でもいいじゃない。どうせ暇してるでしょ?」


「……『お願い』だとして。そのお願いを聞くだけの見返りはあるんですか?」


「そうですねぇ……じゃあ……私とアデーレさんが一日何でも言う事聞いちゃう券とかどうでしょう!?」



 両手を顔に近づけてかわい子ぶるマリネッタ……実際美人よりは可愛い寄りの容姿のため適切なアプローチではあるのかもしれないが……



「……なんか、いかがわしい雰囲気がしたんだけど」


「何故アデーレさんまで……?」


「うちで一番心配してるのアデーレさんですのでぇ。でも彼女固いんですよねぇ。もうちょっと融通利かせちゃえばいいのに」


「まあ、わかりました……やってみましょう」


「イチロー?」


「お願いしますね。ジーノ君の元気な声が無いと、組合って気がしなくて……あ、何でもとは言いましたけど、いやらしいのは駄目ですよぉ?」



 話を締結した後で追加条件を出すのはいかがなものかと思うが……とにかく引き受け、マリネッタは手を振りながら帰っていった。



「……『なんでも』に釣られたんじゃないでしょうね」


「組合内部に貸しを作っておくのも悪くないと思いまして。どうせ暇してますし」


「あっそ。じゃあとにかく行くわよ。サクラ、おいで!」



 呼ばれると、足音と共に庭で日向ぼっこをしていたサクラが駆けて来る。人探しならば狼の鼻を利用しない手は無い。ひとまず、ジーノの店に行ってみることにした。

 

 ジーノの母は店におらず、祖母が店番をしていたが、随分と憔悴したように見える。事情を聴くが、目新しい情報は入ってこなかった。



「本当にねえ、あの子は……血は争えないってことなのかねえ……」


「大丈夫よ、私とイチローが見つけて連れて帰るから!」


「どこか、行き先に心当たりは?」


「友達の所や遊び場を探して見たんだけどね……あの子にまで何かあったら、もう……」


「では、何か彼の私物をお借りできますか? できれば衣類など」


「ああ、構わないよ……」



 ジーノの使っていたシャツを借り、サクラに臭いを覚えさせる……捜索を始めようと、店を出た矢先。アルフィリアは複雑そうな表情でつぶやいた。



「男って、親と仲が悪くなる物なのかしら」


「別に男に限らないと思いますが……それで、見つかったとしてどうやって連れ戻すつもりですか?」


「そこはほら、男同士の話し合いとか……ジーノは探検者にあこがれてるんでしょ? イチローの話なら聞くんじゃないかしら」


「しかし……私はあなたを始めとして仲間と運に恵まれて、そこそこ上手くいっていますからね。現実は厳しいから諦めろと言っても説得力が無いのではないでしょうか」


「うーん……せめて大人になるまで待てって言うとか?」


「……ここは大人も連れて行ったほうが良いでしょうかね」



 こういう時には先達の力を借りるのが一番。探検者として失敗も経験したウーベルトならば、あるいは実感を伴った説得力というものがあるかもしれない。直営酒場に行くと、彼の姿はすぐに見つけることができた。



「おお、旦那に薬師殿! お揃いってこたあ仕事の話ですかい?」


「まあ、仕事と言うか……」



 とりあえずの事情を離すと、ウーベルトはしたり顔で腕を組んだ。



「ふーむ、なるほどなあ……いや、あっしも人の親、その親御さんの気持ちはよーーくわかりまさあ」


「そう言うわけですので……」


「ええ、見つかったらどうぞあっしの所に連れてきておくんなせえ。探検者の厳しさってもんを、きっちり言って聞かせまさあ」


「あ、探すの手伝ってはくれないんだ……」


「あっしは探偵ではありやせんからなあ、その辺はお任せでさあ」



 ウーベルトの反応も、妥当な物だろう。今回の報酬は山分けにもできない。多少面識があるとはいえ、他所の子供を無償で探し回ろうなどと言うお人よしの暇人は……



「話は聞かせてもらったぞ!」



 居た。



「なんだ貴公、やはり探すのではないか! ならばそうと言わぬか! 私も手を貸すぞ!」


「アルマ!」


「久しいな、巨人のとき以来か?」


「人探しに、その鎧は無駄ではないですか?」


「何を言う。弱きを守るため動くことこそ騎士の本懐! であれば、常に戦場に居るが如く心持であらねばならぬ! 故にこの装いに一片の無駄も無い!」

 


 正直な所、あまり人探しにおいて役に立ちそうな気はしないのだが……別に邪魔になることもないだろう。アルマも連れていくことにし、ジーノと最後に出会った場所から、臭いを追うことにした。


今週も最後までお読みくださり、ありがとうございます。


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