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底辺だけど、異世界であがき抜く  作者: ぽいど
第二十四章 甘味を求めて 編
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二十四章の9 前文明の置き土産

前回のあらすじ


 生物研究所の遺跡奥で、まだ稼働している植物園を発見した二人。その隣には部長室と銘打たれた部屋もあった。そこには明らかな生活の跡が残されており、前文明の滅亡後、しばらく人が生きていたことが明らかになった。その人物が残したと思われる日記を情報端末から見つけたのだが、その内容は暗い物だった。

 芋虫を食べて飢えをしのぎ、生き延びていた施設職員の日記。その内容は、徐々に悲嘆に染まっていった。



「『40日目。もう疑いようは無い。世界は滅んでしまったのだ。人類は自らの手で世界を破壊してしまった。救助など来ない、私ももう、生きていても仕方ない』『41日目。死のうと思ったが、その時窓から蜂たちが見えた。彼女らは世界の滅亡など知る由もなく、今日も飛び回って餌を集め蜜を作り、小さな世界で生き抜いている。私はその命をかすめ取って生きているのだ。それを勝手に投げ出すのは失礼な事ではないだろうか』」



 死ぬのは止めたらしく、日記はその後も続く。植物の管理、排泄物の処理、古くなった巣の取り壊し、そんなことをこなしながら生存者のサバイバルは続く。



「『242日目。このところ蜂たちの様子がおかしい。総数が増え、兵隊蜂の割合も増えている。これは分蜂の兆候だが、この閉鎖空間では密度が上がり、個体数の増加は止まるはずだ。どこかに抜け穴があるのだろうか』」


「『248日目。蜂たちが飛び立った! 天井の換気口に向かい消えて行ったが、あそこは主軸部に繋がっている。もしかしたら。調べてみる価値はある』」


「『249日目。換気口は空気ろ過機が壊れ、主軸部に抜けられるようになっていた! だが、外は酷い有様だった。信じがたいことだが樫の丘は抉り取られ消滅し、3階の植物実験棟は残骸となって残っているに過ぎない。昇降機は完全に崩落しており、非常梯子で登った先にあったのは、ただの荒野だった』……はぁ」



 アルフィリアが埃の積もった椅子に腰かけて目頭を押さえる。読み始めて、少なくとも一時間は経っているはず。さすがに疲れたのだろうか。



「少し休みますか?」


「ん~、平気……でも、ちょっと私の理解を越えてるかな……世界を破壊とか。どういう事なんだろう」


「……強力な兵器を世界規模で撃ち合ったのではないでしょうか」


「うーん、いくら前文明でも、そんな」


「さっきの部分、3階とありましたが……それなら『丘は抉り取られ』と言う表現とそぐわないと思うのです。しかし、3階と言うのが『地下3階』だとしたら……」


「文字通り……丘を丸ごと抉り取ったって事……?」



 勿論、推測の域は出ない。しかし……丘の上から見た製材所付近の地形は、どう見てもクレーターなのだ。それが隕石などではなく、人工的に作り出されたものだとしたら。その規模の兵器の応酬は、世界を滅ぼすのに十分だったのではないだろうか。理解を越えたままなのか、アルフィリアは背もたれにもたれ、天井を向いて唸っている。



「想像もできないわ……そんなものを作るのには物凄い積み重ねがあったはずなのに。それを自分達に使って滅んじゃうなんて」


「人間はそんなに賢くないのかもしれませんね」


「皮肉を言いたくなる気持ちもちょっとわかるかも。さて、一応最後の方も読んでみましょうか」



 アルフィリアは身を起こし、日記の残りを読み進める……



「『250日目。緑だ。植物実験棟の残骸から芽がでているのを見つけた。材木資源確保用の改良ヒノキだろう。成長性と生存性を特に高めた植物ではあるが、とにかく、まだこの世界は死に絶えていない』」


「『261日目。ここを出ることにした。もしかしたらまだ人類は滅んでおらず、生き残りが居るかもしれない。どれほどの旅になるかはわからないが、やれるだけやってみよう』」


「『270日目。幼虫の蜜漬けも用意できた。ここを出たら通気口は塞ぐことにする。彼女らを閉じ込めることになるが、まだこの周辺は生息できる環境ではない。研究領域の資源を目減りさせて自滅するよりは良い筈だ。遠い先、また通気口が開いた時には、世界の傷も癒えているだろう』」


「『271日目。出発する』……これで終わりね」


「通気口、調べてみましょうか。問題は蜂ですが……」


「燃やすのは無しよ? ずーっとここで生きてきていきなり燃やされるなんて可哀想だし」


「障害になるなら排除すべきだと思いますが……」



 ひとまず、実験領域……植物園の中に入るため、部長室の反対側の部屋へ行く。そこには、濃黄色の分厚いビニール状の素材でできた、全身覆うタイプの服がかかっていた。目の部分だけが透明なプラスチック状の物で覆われている……日記によればこれで蜂の攻撃を防げるようだが……



「着かた、わかる?」


「大体は」



 胴体前面が開いており、そこから体を入れて密閉する作りになっている。口にはフィルター付きのマスクも装備されており、研究所と言うだけあって本格的な作りだ。それを着こんで、植物園の中に足を踏み入れると、目の前には下に降りる階段。



挿絵(By みてみん)




 階段を降り切る前に蜂が近寄ってくる。手で払ってみると、その手に掴まり針を突き立て……




「(何もない……な)」


 防護服は貫通せず、ペンか何かでつつかれた程度の感触で済む。防護服の効果は確かなようだ……ガラス窓の向こうで覗き込んでいるアルフィリアに手を振って大丈夫だと伝え、天井を見上げると、ドームの天井、強い光を放つライトの間に黒く穴が開いているのが見えた。



「(あれだな)」


 壁にハシゴとキャットウォークがあってそこにたどり着けるようになっている。穴は人一人が張って通り抜けられる程度の大きさは有り、そこへよじ登り丸い通気口の中を這って行く。時折巨大蜂と鉢合わせし、刺されながら押しのけ……そうしているうち小部屋、と言うよりは何か機械を置いておくスペースに出た。機械には羽のような部品があるため、恐らくはファンか何かだったのだろう。既に機械は朽ちて隙間が空いていた。



「(この方向だと、来た道を戻る形になるか?)」



 機械を乗り越えて進むと、やがて通気口は途切れ、ここに入るときに降りて来た広い空間……日記では主軸部と呼ばれていた場所に出た。壁に開口部があり、すぐ上に根と土が絡まり合った天井がある。



「(荒野に空いた穴から、ここまで再生したのか……)」



 これで、蜂の移動ルートは把握できた。あとはどう対応するかだが……一度アルフィリアの所まで戻ることにし、入って来た通気口から出て、植物園を見下ろすと、等間隔に植えられた木々の間に蜂の巣が見えた。一応調べておこうと、そちらに近寄ると……



「(小さい?)」



 地上で見つけたものに比べて随分と小さい。精々頑張れば両手で持てる程度で蜂の数も少ない。植物園と言う狭い空間に適応した結果なのだろうか。そして巣の下に、何か容器があるのを見つけた。



「これは……」



 近寄ると、それは何かの樹脂のような物で出来たバケツ大の物で、蜂の巣の底から垂れる透明でべた付いたものが溜まり、溢れて水たまりを作っていた。錬金術なら、分解して正体を解析できるかもしれない……バケツを手に持ち、追いかけてくる蜂を払いながら植物園から出る。アルフィリアの姿は『部長室』で見つかった。



「あ、お帰り。大丈夫だった?」


「ええ。何をしているのですか?」


「まだ何か資料が無いかなと思って。それで……なに、それ?」


「蜂の巣から垂れる液体を貯めていました。分解すれば正体がわかるかと思いまして」


「巣からね……どれどれ……」



 アルフィリアが錬金術でその粘液を分解し、輝く粒子になったそれがいくつかの塊に別れる……



「えーっと……半分くらい糖分……後は水分と、各種栄養……蜂蜜に近いのかな?」


「食べられるのですか?」


「うん、毒になりそうなものは無いし……」



 アルフィリアは指でそれを掬い、口に運ぶ。鑑定結果に自身があるからこそなのだろうが……不用心と言うべきか肝が据わっていると言うべきか。



「んん……! 甘ーい! ただ甘いだけじゃなくてコクがあって……これ美味しい!」


「そんなにですか?」


「うん! これお土産に……あ、まって。これ、直営酒場で使えるんじゃない!?」


「そうですね……」



 試しに自分も舐めてみる。蜂蜜と言うべきか、酸味をなくしたヨーグルトと言うべきか。とにかく、これ単体でも菓子として通用しそうな味だ。砂糖代わりに使うなり、ソースにするなり、色々利用できそうな気はする。



「しかし、あの蜂の巣から採れるものですよ? どうやって……」


「これみて、『味方への被害を防ぐため、蜂に仲間だと思わせる物質を精製した。霧状にして吹きかけることで襲撃されることなく行動が可能』材料や構造式もあるから、錬金術ですぐに作れる。これで問題は解決よ!」


「ははあ……」



 あの蜂は明らかに生物兵器として作られていた。であれば対処法が同時に用意されていても不思議はない。アルフィリアはそれを量産し、養蜂業を始めさせるつもりのようだ……



「大分無茶だとは思いますが……」


「お菓子食べたいでしょ?」


「……はい」


「じゃあ決まり! とりあえず上に上がりましょ」



 調べられるところも調べ終えたため、めぼしい物品を荷物にまとめて、一度ウーベルトたちの所へ戻ることにした。ロープで地表へ戻った頃には既に日が傾き始めており、待ちくたびれた様子で出迎えられる。



「遅かったじゃねえですか旦那!」


「とりあえず、成果はありました。解決になるかどうかはこれからと言う所ですが」


「出来ればもう帰りたいです……」


「心配しないで、多分もう大丈夫だから」



 ひとまずは製材所に戻り、対応について協議する必要があるだろう。研究所の廃墟を背にし、来た道を戻ることにした。


今週も最後までお読みくださり、ありがとうございます。

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