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底辺だけど、異世界であがき抜く  作者: ぽいど
第二十四章 甘味を求めて 編
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二十四章の7 地下研究所

前回のあらすじ


 別の巣が残っている可能性があるため、再度調査に向かう一行。案の定、別の蜂が行動しているのを見つけたのだが、その後を追って見つけたのは、蜂の巣ではなく地面に空いた穴。その中に潜ると、明らかに人工的な空間を発見したのだった。

 遺跡に入って、直線の通路を進む。右手には扉があり、前には扉があったらしい枠と、その奥に小部屋。


挿絵(By みてみん)



 まずは手前の扉から調べることにしたが……開かない。鍵のような物は見当たらないため、どうやら単に扉がゆがんでいるらしい。



「廊下の様子と言い……地震でもあったのかしら?」


「あるいはもっと……まあそれはさておき、こじ開けられそうです」



 鉈を隙間に入れて梃子の要領でこじ開けることで、潜り込むだけの隙間が空いた。中は小部屋で、休憩所かなにかだったのか、テーブルと椅子、壁際には水道やシンクのような物。ポットらしいものがそこに転がっていた。



挿絵(By みてみん)



 そしてそれらの他に、転がっているものがもう一つ。



「(死体か……)」



 白骨化したそれは、目だけを出す水色のつなぎのような物を着ていた。たまにテレビでやっていた、食品工場見学系の番組で見るあれだ。胸元には名札と思わしい物。他に何かないか探ってみると、骨はバラバラに崩れてしまった……しかし、丸めたメモ用紙らしいものが、手の中から転がり出る。何か書いているようだが、前文明語で読めない。




「イチロー? 何かあった?」


「今出ます」



 特にめぼしいものは無いようなので、アルフィリアにメモを渡して読んでもらうことにした。状況的に、遺書の類なのだろうが……



「『私は……』ここは個人名ね、飛ばすわ。『私の家は樫の木通り2の13の33。妻と4歳の娘がいる。二人に、私は最後まで君たちを愛していたと伝えてほしい。もう、飢えと渇きに耐えられそうもない。この愚かな戦いが早く終わり、誰かがこれを見つけてくれることを願う』」


「……役に立つ内容ではありませんでしたね」


「こんな小さな紙だもの。可哀想だけど、結局誰にも見つからないままだったのね……」


「……ひとまず、奥に進みましょう」



 休憩室を後にして、奥へ。壁に噴き出し口のような物が並ぶそこは、自殺教のあの部屋を思い出すが……



「まあ、流石にいきなり毒ガスは無いでしょう……」


「そうよね、見た感じ部屋壊れてるし……」



 おそらくこの部屋は扉で密閉するのだろうが、その扉は部屋の中に歪んで倒れている。内側の扉も歪んだのか開かず……分厚さから見て、今度は腕力でこじ開けるのは無理そうだ。



「ここを破れそうですか?」


「うん。そんなに分厚くないし、大丈夫」



 ここはアルフィリアの錬金術の出番だ。扉を構成する物質を分解し、マテリアと呼ばれる構成単位……要するに原子や分子のような物にしてしまう。粒子が空中を漂い、幾つかの塊になって落ちる。その向こうにはさらに直線で続く通路と、その左右に部屋が向かい合うように配置されていた。



挿絵(By みてみん)





「殺風景って言うか機能的って言うか……」


「地下ですからね。スペースを無駄にはできないのでしょう」



 ひとまず、右手手前の部屋に近づく。ドアの横にはプレートがかかっており、前文明の文字が刻まれていた。



「『第一研究室』……だって」


「研究室……なるほど、そんな雰囲気ですね」



 もともとは自動ドアのような物だったのだろう、引き戸のように横に動くドアはひどく重い。どうにかそれをこじ開けると、中は立って使うような高さの長テーブル、そしてその上や床に機材が散乱していた。画像投影技術を持った前文明の物らしくシンプルな造形をしているが、研究室で使われるからには高精度な……何かしらなのだろう。



挿絵(By みてみん)





「えーっと……固有名詞やら専門用語が多いわね……まあとにかく、何かを抽出したり分析したりする機械みたい」


「研究室らしいですね……しかし何を研究していたのでしょう」


「うーん、書類の類は無いわね……他の部屋も見てみないと」



 いくつか装置を動かしてみたが、詳細はわからず……しかし、ひとまず危険は無いらしい。次は向かい側の部屋、こちらは『第二研究室』で第一と同じような作りになっていた。機材は違う種類のものが置いてあるようだが、どう違うのか見分けることはできない。そして次は第一研究室の隣……



「えーっと……『増大室』……『生育室』かな?」


「聞きなれない単語ですが……ひとまず、開けてみます」



 例によって重たい扉をこじ開けると、やはり何かしらの機材が並んだ部屋なのだが……研究室とは趣が異なっていた。機材は水槽のような透明の箱が付随したもので、その水槽の中には干からびた何かの死骸が転がっている……



挿絵(By みてみん)





「生育であってたみたいね……見た感じ……トカゲ、ネズミ、鳥……こっちはウサギ? 何もないのもある……?」


「実験用にしては、種類が多様すぎますが……」


「研究室って言うくらいだし、珍しい生き物を集めて研究してたとか?」


「動物園ではないんですから……」


「どうぶつえん?」


「……世界中から珍しい動物を集めて、見て楽しむ娯楽施設です」


「へ~……良いな~。私も行ってみたいな……」


「この世界にあれば行けたのですがね」


「む~ぅ……」



 部屋の中に、管理用らしい端末を見つけたが……餌の記録と行動観察程度しか書いていない上に、それぞれ番号で呼ばれているためどれがどれなのか判断がつかない。



「……あ、これ。『標本0254、巣をつくる。研究領域に移動、観察を続ける』」


「巣……ですか」


「研究領域だって。どこの事かしら……」


「わかりませんが……ここの近くにある可能性は高いでしょう」


「そうね、もっと調べてみましょうか」



 部屋を出て、反対側の部屋を調べる。アルフィリアも読めない部屋名で、正面には巨大な機械。中心となっているのはゴルフバックほどの大きさの透明な筒が乗った台座とそこに繋がる多数のチューブで、機械の側面には何か……細長い物を差し込めそうな穴が開いていた。



挿絵(By みてみん)




 とにかく仰々しい部屋だが、用途、使用方法共によくわからない。アルフィリアと言えば、端から順にその端末を起動しているが……



「うーん……『心拍』とか『体温』とかあるし、生き物を入れておく部屋だったのかしら」


「医務室、にしては物々しい気もしますが……」


「ん~……ん? まって、天井……」


「どうかしましたか?」


「えーっと、あれがああで……こっちに作用するから……」


 アルフィリアが、天井を見たまま歩きだし……配線に(つまづ)いてこけた。気を取り直して天井を見る……そこには複雑な紋様が、金色の光沢で描かれていた……



「やっぱりこれ、錬金術の式だわ。でもちょっと変わってる……」


「変わっているとは?」


「なんていうのか……私が普段やってるのが、麦と塩と水からパンを作ってるとしたら、こっちはパンを切ったり、具を挟んでサンドイッチにしてるっていうか……」



 今一何が言いたいのか良くわからない例えだが……とにかく、ここは錬金術を用いて特殊な作業をする部屋だったようだ……



「んーっと……あ、この大きな機械に繋がってるのね。作用点はこの……ガラスの筒かな」


「一体、何の機械なのでしょう」


「私もよくわかんないけど……とにかく、このガラス筒の中で何かを……作るのよ。そしてそれを管理して……研究、してたのかしら」



 少なくとも、当時としても相当に高度な事をやっていたであろうことは予測できる。しかし、今となってはそれも過去の話。いつまでも用途のわからない機械を眺めていても仕方ないため、次の部屋に向かうことにした。


 廊下に三つずつ並んだ部屋のうち奥の物を調べる。入り口から見て右手側は倉庫のようで、冷蔵庫のような物が並んでいる……そのうち一つを開けてみると、濁った液体が入った、円筒形の容器が整然と詰め込まれていた。



挿絵(By みてみん)





「……この容器、さっきの機械の穴とほぼ同じ大きさですね」


「ほんとだ。中身は何かしら……」


「錬金術で分解してみたら、わかるのでは?」


「うーん……毒物の可能性もあるから安易にはできないわよ。何か中身について書いてたり……」



 容器や棚を調べてみるが、ヒントになりそうな表記は無く、管理用らしい番号が書かれているだけだった。先ほどの部屋に戻って機械に容器をセットしてみると、丁度良く収まったものの……端末の一つに赤いエラー表示が出ただけだった。



「番号が表示されてるだけね。何もわかんないわ」


「専門知識ありきと言うわけですね……まあ、ここが研究施設なら当然でしょうか」



 冷蔵庫の中身を鑑定するのは後回しにし、その向かい側の部屋を調べる。そのへやは三重構造になっており、一つ目の部屋には機材……動かしてみると、隣にある二つ目の部屋の中の映像が様々な角度から映し出された。監視カメラのような物らしい。その二つ目の部屋とは、扉と大きなガラス窓で隔てられているものの、その窓は既に割れて破片が散らばっている。


 二つ目の部屋は殺風景で、機材らしい機材も無く、どこか牢獄のような印象を受けた。奥には大きなシャッターがあり、その奥が三つ目、小さめの部屋になっているのだが……そこは金属でできた箱のようで、その内側は妙に黒ずんでいた……



挿絵(By みてみん)





「牢屋……かしら?」


「その割には、鍵らしいものもありません。それに奥のこの空間……」



 黒ずみを指でこすると、黒い粉が付く……煤だ。ここで何かを燃やしたのだろう……まさか暖炉でもあるまい。



「研究所で燃やすもの……まあ、用の済んだ実験用品などでしょうね」


「研究してたのはあの生き物たち……ってことは、死んだらここで燃やしてたわけね……」


「あるいは死んでなくても……ですね」


「……こんな所見てても仕方ないか。次に行きましょ」


「そうですね」



 これで廊下に並んでいた部屋は全て調べたことになる。残るは廊下の突き当り、入り口と同型の扉で塞がれた向こう側。おそらく、より重要な物があるであろう場所へと、足を進めることにした……


今週も最後までお読みくださり、ありがとうございます。

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