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底辺だけど、異世界であがき抜く  作者: ぽいど
第二十三章 流血の錬金術 編
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二十三章の1 気まずい生活

前回のあらすじ


 死者に会えるという遺跡を踏破した主人公達。そこは自殺を推奨する宗教団体の物であった。

脅威を排除し、探索を終えた2人だったが、アルフィリアは一郎が『偽物である確信のないまま自身の母親を撃った』こと。『最悪本物でも構わなかった』ことに反発する。

 自身の判断を正しいものと疑わなかった一郎も反論し、2人は重い空気のまま街へと戻るのだった。


異世界生活331日目、春の15日




「前文明の自殺宗教に、そこの使ってた人の姿に化ける人形……ま、悪魔だなんだよりはよっぽど納得のいく話ではあるか」


「は、い……っ……!」



 テルミナスに帰ってまず向かったのは、依頼人でもあるドメニコの所。負傷した足の治療も兼ね、調査結果の報告に赴き……中々に厳しめな治療を受けていた。このドメニコの治療魔法、確かに傷は治すのだが、その際に患者の感覚というものをあまり考慮しない傾向がある……と言うのは、現在進行形で苦痛を味わっている自分の色眼鏡だろうか



「よし、こんなもんだろ。中途半端に塞がってなきゃ、もうちょっと楽にしてやれたんだが」


「しかし、応急処置をしないわけには行きませんから……」


「そりゃそうだ。まあ骨や腱はやられてないし、2~3日で治るだろ。今回は調査の礼ってことでタダにしておいてやるよ」


「ありがとうございます……」



 治療を終え施療院を出ると、表ではデメトリオがカルティナを背負いながら、小さな黒板など授業の準備をしていた。こちらに気付き、会釈をしてくる……



「あれ、今日はお一人なんですか?」


「ええ……それが何か?」


「いえ、お怪我をされてくるときは、大抵あの薬師さんが付き添っているので……珍しいなと思いまして」


「まあ……そう言うときもあります」


「そうですか……じゃあ、お大事に!」



 遺跡での一件以来、アルフィリアとは会話量が減り、内容も事務的な物が多くなっている……端的に言えば距離ができていた。お互いに自分の仕事はしているため、特段不便が生じたわけではないが……



 治療の帰り、地図情報などの清算金を受け取りがてらに組合に寄って次の仕事が無いか調べたがこれというものはなく、直営酒場で昼食をとる。その際同席したウーベルトに、話をしてみたが……



「まあ、そういう時はパッパと謝っちまったほうが良いでしょうなあ。女は怒ると恐ろしいですぜ?」


「そう言われましても……あの状況ではほぼ正解に近い行動だったはずです。多少様子を見た所で結局やることは同じだったわけですし」


「正しい正しくないじゃなくて、そういうものなんでさあ。男は女にかなわねえ、他ならともかく家の中じゃ昔から変わらねえ事ですぜ」


「しかし、謝ると言ってもどうしたものか……」


「まあ、そうですなあ。やはりここは何か贈り物でもして機嫌を取るのが一番でさあな」


「贈り物ですか……」


「何かあるでやしょ? お気に入りのお菓子とか、前から欲しがってた飾り物とか」


「……思いつきませんね」


「ええ? 思いつかないんですかい? 何も?」


「はい……」


「旦那ぁ……一年近く一緒にいるってえのに、好みの一つもわからねえんじゃ、女もいい気はしねえでしょ」


「むう……」



 ウーベルトに説教を受けてしまった。確かにアルフィリアとはそこそこ過ごしたが、彼女の事はあまり把握していない。家の中でそう言ったそぶりをあまり見せないのもその原因の一つだと思うが……それは言い訳だろうか。



「いっそ本人に聞いて……」


「いやいやいや旦那! そりゃよろしくねえ。買収しようって言ってるようなもんだ。贈り物はこっそり、これは鉄則ですぜ」


「はあ……」



 ウーベルトはこう言うが……当てもなく買い物をするわけにもいかない。ここはやはり、同性の意見を聞いてみるべきだろう。どの道、用事もある。食事を終えてウーベルトと別れ、職人街はヘルミーネの工房へ向かった。



「ほい、金貨20枚確かに! で、靴の修理はと……あ~、結構派手に穴開いてんなあ……ま、何とかなるか。裸足で帰るわけにもいかんやろし、ちょい座ってまっとき」



 ヘルミーネにツケの支払いを済ませ、ついでに遺跡の戦闘で穴が開いた靴の修繕を頼む。革材を出してきて形を整えていく彼女に、意見を聞いてみることにした。



「ところで……」


「お、なになに? 他にも何か注文ある?」


「いえ、なんというか……贈り物を貰えるとしたら何が欲しいと思いますか?」


「贈りもん? なんか()うてくれんの?」


「いえ、その……一つの参考にしたいというか」


「何や参考かいな、期待させといてからに……そうやな、うちやったら……ご飯とか誘ってくれたらうれしいかな。その辺の飯屋とかちゃうで? ちゃんとした……興業区にあるような店な」


「高級店と言うことですか……」


「まあ、値段はそこまで問題ちゃうねん。そういう店って、こう……良い関係の男女が使ったりするやろ? 男に連れてってもらうなら、そういう所やとこう、意識してくれてるんや~、て……って恥ずかしいな! 何言わすねんアホ!」



 革を切り取った端材が顔に飛んできた。ちゃんとした店での食事、確かに悪くない手ではあるのだが……何しろ、本人を誘うというハードルが存在する。相手に断られてしまっては、元も子もない……やはり物を贈るという形が良いように思える。更なる意見を聞くべく、次の知り合いを当たることにした……



出費


 ヘルミーネへのツケ支払い 金貨20

 靴修理 銀貨4





「贈り物? そりゃもう宝石ですよ。宝石が嫌いな女の子なんて居ませんから。妥協して金の飾り物」


「またド直球な……」



 付与術矢を補充にイルヴァの所に寄ったのだが、そこで出た意見はと言えば、恐らく対象を全人類に拡大しても当てはまりそうな物だった。



「な、なんか馬鹿にされた気が……言っときますけど、誰でも喜んで受け取るから人気があるんですからね……気持ちが大事とか言いますけど、相手が喜ぶのが大前提な訳で……変な物渡されたらもうその時点で駄目、評価対象外です……」


「なかなかシビアな意見ですね……」


「そりゃもう。贈り物ってつまり、自分の気持ちでしょう? それに安物を選ぶようじゃ、所詮気持ちも安物ってことじゃないですか……要は相手のためにどれだけ苦労できるかですし……」


「しかし……いきなり宝石やら金やらを渡すのは、重く取られないですか?」


「え? 私嬉しいですけど。今ここでおっきい宝石とか出されたら、ちょっと(なび)いちゃうかも」


「あなたの価値観に少なからず疑問を覚えた所ですが……まあ、言っていることには納得がいきますね」


「でしょ!? あ、ちなみに私、今綺麗な髪飾りが欲しい感じなのでよろしくお願いします」


「自分で買ってください」


「うぅ、冷たい……」



 宝石、アクセサリ……確かに鉄板ではあるのかもしれない。しかし大きな問題が一つ。今自分は金貨3枚弱しか持っていないということだ。正確には付与術を依頼するので2枚強まで減る。



「(依頼請けないとな……)」



 何をするにも金は要る。誠意とは金額、とはよく言ったものだ……明日から仕事探しをすることは決まり、今日の所は一度帰ることにした。


買い物


 威力強化矢 7本 銀貨21枚




 家では、以前耕した庭の一角にアルフィリアが小さなスコップで穴を掘っていた。建物の背に囲まれた敷地はやや日当たりが悪いのだが、その一角は十分日光が届く。どうやら家庭菜園を始動させるつもりらしい。



「戻りました」


「おかえり」


「手伝いましょうか?」


「ううん、いい」


「……組合で精算を済ませて来たので、そちらの取り分を」


「ん、机の上に置いといて」



 遺跡以来、こんな調子が続いている。怒るでもなく、必要な会話だけするという様子……実際の所は怒っていて、こちらから何か行動をしろと言うことなのだろうが。とにかく、早めに機嫌を直さないとそのうち堪忍袋の限界というものが来る。なるべく刺激しないようにしながら、一日の残りを過ごすことにした。


今週も最後までお読みくださり、ありがとうございます。

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