二十一.五章の4 新型披露
異世界生活293日目、冬の67日
「これで、行けますか?」
「うん、うん……設計に問題はない筈や。材料もある。後はうちの腕の見せ所やな。期待は裏切らへんさかい、安心してや」
何度かの改案、試作を重ね……いよいよ制作本番となる。粘金を溶かした材料が工作道具で加工され、部品へと姿を変えていく……自分ができることはもうない、後は完成を待つのみとなった。
「それにしても、ヘルミーネってホント凄いわよね。こんなテキトーな図案からきちんとした設計図にしちゃうんだから」
「……一応頑張って描いたつもりなんですが」
設計図というか、部品同士の概念図のような物を作りはした。自分にしては良くできた方だと思っていたりはする……そしてヘルミーネがそれを元に厳密な設計図を描きあげ、そして今に至る。
「それにしても……なんか変わった形よねこれ」
「私の世界の武器を模しています。銃と言うのですが……技術的に再現は不可能だったので、それらしいものをと」
「ふ~ん……どっちかっていうと前の……鉄の大鮫で動いてた武器に近い感じ?」
「そうですね。あれを利用できたら一番良かったのですが……さすがに無理でしょうか」
「そうね~……仕組みが分からないもん」
鉄の大鮫についていた防護銃座は、銃身が二つのマシンガンのように見えた。しかし破壊したそれは、内部に機械らしい機械がなく、何かしらの魔法の力で攻撃しているのだろうということくらいしか推測できなかった……そして武器と言えばもう一つ。
「もしくは、あの巨人が使っていた光。あれでもいいのですが」
「あれも……うーん、なんていうのかなあ……無理は無理なんだけど……」
「気になることが?」
「あの目、多分目に見えるだけで、目じゃないと思うの。本格的に解剖したわけじゃないけど、やけに薄くて……裏側が血管なんだけど、それが魔方式なのかな? それに目のあたり、血のマナがやたら濃かったの。なんていうか……不自然なくらい。まるで何か目的ありきっていうか」
「下水道の生物のような?」
「そう、そんな感じ! あ~あ、もっとよく調べればよかったかな」
「もしまた同じような敵が現れたら、調べることも出来るでしょう」
「かもね……でも無暗に挑んだりしないでよ? 危ないから」
「わかっています」
ベスティアにはまだまだ、謎が多く眠っているらしい。武器を新造した以上探検者を続けることになるのだが、またいずれそういった謎に触れることが有るのだろうか。恐らくまた危険に曝されるだろう。しかし、こうして装備を強化し、乗り越えて行けるのであれば。それが悪いことばかりではないと思っている自分が居ることは、否定できない事実だった……
異世界生活300日目、冬の74日
ヘルミーネと共に町の一角にある射撃場を訪れる。以前笑いものにされたこの場所。それ以来足を運んでいなかったし、運ぶ気もなかった。しかし……今回は少々事情が異なる。
「おおっと? なんだか見た顔だと思ったら、弩の坊主じゃねえか。どうした? 今日は酒を奢ってくれねえのか?」
酒場と弓道の練習場がくっ付いたようなその建物に入った途端、横から明らかな嘲笑交じりの声が聞こえた。弓を持った筋肉質な男、以前訪れた時『弩を使って射手を名乗るな』と言ってきた相手……だったと思う。
「なんや、前に来たことあるんかいな」
「夏ごろに一度、200日以上も前の事をよく覚えているものです」
「おいおい、無視はねえだろ~? そっちのちっこいのが酌をしてくれてもいいんだぜ? そしたら弓の引き方くらい教えてやるよ!」
「おいおい、お前幼女趣味かよ?」
射撃場内に爆笑が響くが……その中心となった男にヘルミーネは指を突きつけた。
「誰が幼女や! どんだけ弓が使えるか知らんけどな……あんたよりもこのイチローはんの方が、よっぽど上手く矢ぁ撃てるで! なんなら勝負したろか?」
「あ~ん? 言うじゃねえかチビ。それじゃあ、ちょっと試してやろうじゃねえか。おいイチローとやら、尻尾巻いて逃げるなら今の内だぜ? この前みたいによ」
「……望む所ではないですが、受けて立ちます」
「はっ、ほえ面かかせてやるよ! おい、射撃場を使うぞ!」
「弩に弓が負けるわけねえだろ!」「身の程を教えてやりな!」「負けたらそのモンシアンを裸で踊らせてやるか?」
完全にアウェイと言った空気の中、射撃場に立つ。大小の的がランダムに並んでおり、勝負は先に10個の的を射抜いた方の勝ち……連射を不得手とする弩にとって圧倒的に不利どころか、勝負にすらならない条件……ただし、それは普通の弩ならの話。
「お情けだ、お前が先に撃っていいぞ」
「それはどうも」
完成した武器を鞄から出す。その瞬間、場内の空気が静まり返った。見たこともない武器を目にしたのだから、困惑しているのだろう。もしこの中に地球出身の者が居れば、銃を持ち出してきたと思うかもしれない。
「では、行きます」
構える。前後に分かれたグリップを握り、真正面の的に照門と照星を重ね、引き金を引いて矢を放つ。命中……
「はっ、1発当てたから何だ……」
横から何か言っていたが、この武器の真価はここからだ。内蔵した歯車が付与術により自動で回転し、弓を引く。どこか弦楽器のような音を立てて弦が引き絞られれば、ショットガンよろしく前側のグリップを引きよせる。溝を彫られたシリンダーが回転して弩の中に矢を送り込み射撃可能に、発射と発射の間はせいぜい1秒弱。肩に当てた銃床によりスムーズに次の的に狙いを移し、矢が突き立つ乾いた音をたてる。
「なっ……!」
慌てて矢を放つ男。相手も的は外さない。しかし、最初の一発のリードは崩れず……こちらが10個目の的を射抜いたのに一拍遅れて、男が10個目の的に矢を当てた。
「(……さすがに、連射速度は熟練の弓にまだ及ばないか)」
「おい……何だ、その……武器は!? 弩なのか!?」
そんな内心を他所に、男は狼狽した様子でこちらを見る。信じられない物を見たという顔色は、先ほどまでの酒気を帯びた赤色とはまるで違う物だった。
「よくぞ聞いてくれました! これぞこのうち、ヘルミーネが手掛けた……名付けてイルフィーネ弓や! 弩の使いやすさと威力、弓の連射性を併せ持つ、新時代の弓やで! 最高で12連射! さらに撃ち切っても……イチローはん、やって見せたってんか」
「ええ」
空になった弾倉を取り外し、新しい弾倉と交換。弾倉上部の仕切り板を引き抜いて再び構える。交換に要するのは大よそ5秒程度。的に向き、再び連射。次の弾倉に変えた時には、後ろは大分ざわついていた。その弾倉も撃ち切り、武器を置く。
「……まあ、こんな所でしょうか」
「この通り、矢束ごと変えてずっと撃ち続けられるんや。弓を引く必要もないから腕も疲れん! 興味ある人は、職人街のうちの工房まで来てんか。待っとるで~」
事情と言うのがこれ。要するに工房の宣伝に付き合わされたのだ。あまり、こういった見せびらかすような行為は好きな方ではないのだが……こうしなければならないわけがあった。
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