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底辺だけど、異世界であがき抜く  作者: ぽいど
第二十一.五章 強化計画
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二十一.五章の3 試行錯誤

 異世界生活288日目、冬の62日




「まあ、とりあえずあんはんの言う通りに作っては見たんやけど」



 ヘルミーネはいくつかの品物を机に並べる。弩本体を模した模型、中央に穴の開いた2cm四方程度の固定パーツ、そしてそれを数本分まとめてセットする凹字型の保持具。保持具の底面には板バネと仕切り板が仕込んであり、本体に取り付け後仕切り板を抜いてバネで押し付ける仕組みになっている。構造としてはオートマチック銃の弾倉に近い……と思う。



「それでは……」



 早速取り付けて、動作させてみる……結論から言えば、この構造は失敗だった。矢を中に送り込むため、弩本体には矢の全長分の穴が必要になる。下から矢を押し上げる以上、当然弩の底に穴が開くわけで……ラックの底面を伸ばし、竹筒を割ったような構造にして、発射と同時に底を塞ぐようにしたのだが、結局矢は固定パーツを下から押し上げているにすぎないので、そこへの力が止まると落ちてしまうのだ。



「やっぱあかんかったか」


「矢羽根の後ろにつけるのではなく、筒状にして全体的に支えになるように……」


「待ち待ち、そんなことしたら矢自体が重なって、威力も射程も落ちてまう、本末転倒や」



 やはり素人考えでは駄目なようだ。試作品を隅に片付け、改めて連射機構について頭を捻る。



「せやから、上に乗せる形にしときって。そんな真上や真下を撃つ事なんてそうないやろ」


「前回のように樹上から襲われたり、空を飛ぶ敵を相手取ることもあるかもしれません」


「まあ、そうやけれども。出来てない武器で身は守れへんで」

 


 妥協するべきか。そう考え始めた時、工房のドアがノックされる。



「はいは~い」



 ヘルミーネがドアを開けるとそこには見知った姿が1人と1匹。アルフィリアがサクラを連れて立っていた。



「あら、アルフィリアはん。どないしたん?」


「ちょっと御用聞きにね。何か要る物とかある?」


「そうやな~、火傷用の薬はまだあるし……あ、化粧水が切れそうやった。あと乳液も頼むわ」


「化粧水と乳液っと……で、そっちは何してるわけ?」



 メモを取るアルフィリアの視線がこちらを向く。そう言えば行き先は伝えていなかった……事情を説明すると、あきれ顔を浮かべる。



「そんなことやってたの? 引退するって言ってたのに」


「やはり続けようかと思いまして……」


「まあ、うちとしてはお得意さんやし続けてくれるんはええんやけど。ちょいと難題で困っとるんよ」


「連射できる弩ねえ……私、そういうのはわかんないからなぁ。いっそ弓自体をいくつも重ねてみるとか?」


「そしたら重さがえぐいことになるしなあ……」



 3人で困っている間、サクラは工房の中を歩き回っている……普段見ない道具やらに興味があるのか、臭いを嗅いだり手で触れたり……



「あ~、こらこらワン公。あんまその辺のもん触りなや。うちの大事な商売道具なんや」



 する前にヘルミーネに捕まった。お仕置きとばかりに頬を弄られている……ほほ肉が伸びて、口に並んだ鋭い牙が見えた。大人しくしているが、ちょっと困っているようにも……



「どうしたのイチロー、ヘルミーネをじっと見て」


「いえ、見ているのはサクラの方で……」



 頭の中で曖昧な物が形を帯びていく。それが霧散してしまう前に、声に出してみた。



「動作する面と作用する面を分けてしまってはどうでしょう」


「あん? どういうことや?」


「つまり……」



 サクラの顎を見ていて思いついた。上あごと下あごのように、ラックを二層に分け……弓の弦に繋がるのは上あご部分、そこを巻き上げに使い、矢を押し出すのは連結した下あご部分。これにより、矢を収めるスペースに弦の移動を考慮しなくて良くなり、横側の空間が使用できる。つまり……リボルバーの構造が適用できるようになる。




「なるほどねえ……」


「回転する保持具に矢を収めて、回して打ち出す……確かに面白い構造やとは思うけど……けどなあ……」


「問題がありますか?」


「部品が大きくなるやろ? 重さがな。動かす部品を追加するってことはそれだけ弓も強せなあかん。そしたら部品自体も強せなあかんし、そしたら重量がかさんで……イタチごっこや」


「良い案だと思ったのですが……」


「ま、軽くて強い素材があればええんよ。イチローはんなら、それ取ってこれるんちゃう?」



 ヘルミーネはどうやら粘金を所望らしい。当初面倒くさそうだった表情は、どこか楽しそうな物に変わっていて、武器開発に熱が入り始めたように見えた。



「……アルフィリアさん、付き合ってくれますか?」


「しょーがないわね~。鉄の大鮫?」


「はい、あそこなら日帰りで行って帰ってこれますので」


「乗り気やん! ほな、待っとるで」



 日帰りとは言え、朝から夕方まで程度の時間はかかる。出発は翌日にして、今日は家に帰ることにした。



異世界生活289日目、冬の63日



 大鳥厩舎で大鳥を2頭借り、以前使ったコースで南を目指す。冬も後半に入ったとはいえ、風吹く海上の飛行はまだまだ体を冷え込ませる。幸い何か危険な相手に遭遇するということはなく、以前休憩した辺りまで飛んでくることができた。生憎、あの日のような豪華な食事とは行かないが。



「……で?」


「はい?」



 パンに塩漬け肉を挟んだサンドイッチを齧りながら、アルフィリアがそう一言。それなりに付き合いが長くなったが、流石に一文字ではその意図を察せず、聞き返す。



「引退するって言ってたじゃないの。止めにしたの?」


「ええ、まあ……」


「ふ~ん」



 海風に、空を飛ぶため纏められたアルフィリアの青い髪が揺れる。その表情から察するに、どうもあまり機嫌は良くないようだ。



「何か、問題があったでしょうか?」


「べっつに~。ただ、ちょこちょこ大怪我してくるのがもう無くなるかなって思ってたから」


「ご迷惑をおかけします」


「迷惑じゃなくて心配してるの! まったく、せっかく引き際だったのに」


「まだ初期費用を賄っただけで、追加で資金が必要になる可能性は否めませんし……」


「そしたらその時に考えればいいでしょうに、もう。それとも、何? 前に言ってた価値がどうのこうの、まだ気にしてるの?」


「……そういうことを言われると否定も肯定もしづらいのですが」


「あっそ」



 残ったサンドイッチを一息に口に押し込み、咀嚼するアルフィリア。こんな時になんではあるが、ハムスターめいて割と愛嬌のある顔になっている。



「まあ、あんたがやるっていうなら止めるわけにもいかないんだけど。あ~あ、私とずっと一緒にいてくれるのはサクラだけか~」


「首輪でも付けますか?」


「ほんとに付けてやろうかこいつめ。それじゃ、そろそろ行きましょうか」



 休憩を終えて、再び大鳥で空へ舞い上がる。目印である大蛇岬で旋回し、前文明の輸送機、あるいは爆撃機か何かの残骸である『鉄の大鮫』へ。防御機銃は既に破壊されており、安全に接近できる。胴体に着地して大鳥を繋ぎ、機体の構成材料である粘金を採取する……まずはアルフィリアの出番だ。



「よし、離れて!」



 上空へ大鳥で退避し、錬金術の爆発が翼を折るのを見届ける。さすがにインゴットで持ち込むのは不自然なため、錬金術で機体部品の付け根を破壊し、スクラップとして分割して持っていくことにしたのだ。



「(あんまり大きな部品は避けて……重さも考えないとな……)」


「早くしてね~、海風結構冷えるから」


「先に帰りますか?」


「待つわよ。こういう風に周り全部海ってのも、悪くない眺めだし」



 微妙にせかされながら、作業を続ける。アルフィリアは傾いた翼を伝って海面に近づき、波うつ水面を眺めている。



「あ、魚」


「そりゃあ、海ですから魚くらいいるでしょう」


「この下、サンゴ礁っていうの? なんか変わった岩が並んでるのよ。今は冬だけど、夏になったら泳いでみたりできるかも。きっと綺麗よ」


「テルミナスにも砂浜はあるでしょう」


「人目を気にしたくないの」



 地名よろしく鮫でも出なければよいのだが。いずれにしても夏はまだまだ先、その時まだ自分が居るのかわからないが……もし居たら、このことを思い出してもいいだろう。そうこうしている間に、大鳥2羽で運ぶなら限界という程度には集まった。日が暮れる前に帰りつけるよう、休憩もそこそこに大鮫を後にした……


今週も最後までお読みくださり、ありがとうございます。

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