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底辺だけど、異世界であがき抜く  作者: ぽいど
第二十一章 ジャイアントキリング 編
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二十一章の9 巨人墜つ

 異世界生活270日目、冬の44日



 かけられるだけの付与術で強化した自分、アルマ、フォルミが攻撃役。ゾンビ化……というのは語弊があるが、とにかく猿人たちで敵をかく乱。そちらが攻撃されている間に、アルマと馬に二人乗りで接近、なるべく近距離から敵に毒矢を打ち込む……フォルミはこちらがやられた時のバックアップ。シンプルな作戦だが、それだけに人為的なミスは起こりにくい筈だ。



「そ、それじゃ……いきます……」



 延髄付近に魔方式が書き込まれた猿人たちが、イルヴァの操作により動き出した。10体の死体が自律行動……と言っても急造のため指定されたコースで目標に向かって突っ込むだけだそうだが。とにかく先陣を切る。枝を伝って巨人の目に入らぬよう森を移動して迂回、こちらとほぼ反対側から一斉に飛び出したそれに、巨人の頭部が向く。一瞬様子を伺って……地面から煙が上がった。



「かかった! 行くぞ!」



 言うが早いかアルマは馬を走らせた。付与術で強化された馬の脚力は一気に最高速に達し一瞬で木々の間を駆け抜け巨人に迫る。しかし耳元で風切り音が鳴るその速度すら、今の自分達には頼りないものに思えた。耳障りな、髪が燃えるような音は既に10回以上聞こえている。百発百中ではない、というウーベルトの推測は正しかったらしいが、いつ囮が尽きてこちらを向いてもおかしくない。



「大丈夫か! 振り落とされてはいないな!?」


「ええ! 今のところは!」



 身長程もある攻城弩を馬上で扱うため、自分が乗っているのは馬の尻近く……少しでも風の影響を減らすためコートは脱ぎ、付与術で強化された脚力で何とかしがみついているような状況で、姿勢としてかなり無理がある。



「肉薄した、取りついて登っているぞ」


「そちらに気を取られてくれれば……」



 上手くすれば目を塞げるかもしれない。そんな期待を持ったが、巨人の体を登る猿人たちは次々と振り払われ、投げ捨てられ地面に転がる。



「(そりゃこうなるか!)」


「こちらを向いた! 掴まれ!」



 その過程で、巨人の視界にこちらが入ったらしい。首だけが異様に機敏に回り、こちらを見据えた。アルマが馬を蛇行させる。体が揺さぶられる中、すぐ横で水が蒸発するような音が鳴る。だが。



「足の腱! 貰ったあ!」



 またぐらをくぐり抜けざま、斧槍での一撃。血を流しながら左ひざをつく巨人の背中が視界を埋める。絶好の機会、逃がすわけには行かない。身長ほどある攻城弩を強化された腕力で無理矢理支え、毒矢を放つ。ヘルミーネは矢の強度低下や重量バランスが変わった影響を心配していたが、矢は巨人の背中に飛び、刺さり……



「(……駄目だ!)」


「当たったのか!? どうなのだ!」


「命中! しかし……浅い!」



 返し付きの木栓がまだ見えている。あれでは毒が注入されない……



「(失敗した! 全滅……!)」


「浅いのなら打ち込めば良いだけの話だ! とはいえ高いな! 一つ、曲芸と行こうか!」


「何を!?」


「合図をしたら足を揃えて矢に向かい跳べ!」



 詳しい説明もないまま、アルマは馬を巨人に向け走らせる。矢は巨人の右肩付近、たとえ馬でも跳びつける高さではない。体勢を立て直しつつある巨人にアルマは馬を肉迫させ……



「今だ!」


「何を!?」


「信じろ!」


「だから何を……ええい!」



 迷うが、目の前の巨人は今にもこちらに顔を向けんとしている。どの道、逃げようとしても背後からやられるだけ。攻城弩は捨て、馬の背に立ち、矢をめがけて跳ぶ……しかしいくら強化されたとはいえ、3階建て近い高さには届かない。落ちる……と思ったその時、空中で足裏に硬い物が当たり支えになる。



「もう一度跳べ! せえ、のっ!」



 細いそれはアルマの斧槍……左右に出た刃の部分で持ち上げているのだとわかった。もう一度足をかがめて跳ぶ。アルマもこちらを押し出し、さらに馬をジャンプさせ高さを稼ぐ。馬、アルマ、そして自分。三つ分の付与術が加算された力が、体験したこともないような勢いの跳躍となって、体を打ち上げ……巨人の頭を、見下ろした。



「(届い……!)」



 鉈を峰打ちの構えにして両手で振り上げ、ハンマーよろしく毒矢を叩きこもうとしたとき。巨人の首が180度近く回転し、目が合う。青一色の目は瞳孔が無く、まるでトンボのそれに似て、妙に非生物的な印象を受けた。その目が、こちらを右から左へ見流し、腹からこの巨人に何度も聞かされた、嫌な音がした。



「(やられた!)」



 遅れて焦げる匂いと焼き付く痛み、腹から何か重い物が落ちる感覚がした。今度こそ、自分は駄目かもしれない。それならば、やるべきことは済ませてしまおう。視線を矢に落とす。のけぞった時に撃ち込んだため、角度が上向きになっているのは好都合だった。鉈を付与術で強化された腕力に落下の勢いと合わせて、振り下ろす。硬い手応えと共に矢は肉へと埋まり。木栓が外れて……毒が流れ込んだようだ。傷口から白い煙が見える。



「(効いてくれればいいけど……)」



 その結末を見届けることはできないだろう。いかに魔法で強化されたとはいえ、空中で身動きは取れない。ましてや腹を薙がれたのだから。頭が下になる。このまま地面に落ちて、終わり。そう思ったが、襟首が持ち上がり、落下に急制動がかかった。



「死ぬまでは諦めるな」


「フォルミさん?」



 フォルミが自分より上に居て、襟をつかんでいる。ジャンプして受け止めたのかと思いきや、落下ペースが明らかに遅い。無数の布が風にはためくような音が聞こえ、そちらに目を向けると……フォルミの背中から、透明な物が出て羽ばたいている……



「着地に備えろ」



 地面へ二人倒れこむ。結構な衝撃だが、頭から落ちるよりはましだろう。地面が地震のように揺れている……それが巨人がのたうち回っているせいだと気付くのに時間はかからなかった。



「効いた……」



 巨人は倒れ、まだ暴れ続けているが……もはやまともに動くことはできないようだ。その胸にアルマが駆けあがり、斧槍を突き立てる。それがトドメとなったのか、巨人は仰向けになったまま倒れ、動かなくなった。



「寝ていろ、残りの者を呼ぶ」


「いえ……恐らく私は駄目でしょう」


「火傷を負っているが死ぬほどではない」


「は……?」



 てっきり、様々な物が飛び出ているかと思ったが。目を落とすと、腹が焼けただれているものの、想像していたような傷ではなかった。



「(どうなって……?)」


「イチロー、大丈夫!?」


「比較的大丈夫と言うべきでしょうか……」


「何よ比較的って……ほら、見せる見せる!」



 火傷に薬がしみる……二重の意味で。ひとまず負傷者は自分だけなのを確認。結果として大勝利に終わったと言ってよいのではないだろうか。こちらは痛いが。



「間近で改めて見るとでけえな……」


「やったぞ! 巨人殺しだ! 私が討ち取ったぞ!」


「見てましたけど、大分おいしいとこどりじゃ……」


「……無論イチローの勇気ある行動あってこそだ! 見事だったぞ!」


「あの時は死んだと思いましたが……」


「多分粘金は耐えたんやろ。で、布地部分だけが燃えて、受け止めた熱ごと落ちたんや。これが鉄やったら溶けてへばりついて、エグイことになっとったで、きっと」


「修理できますか?」


「落ちた部品拾わなあかんな。おーい、ワン公! ちょいと手かしてくれんか~?」



 ヘルミーネはサクラを連れて落ちた装甲板を探しに行った。アルフィリアによる治療が概ね終わったところで、フォルミが合流する。



「馬車は燃え落ちた。何か移動手段を考えなければならない」


「それに関しては考えが……しかしあなたに羽があるとは思いませんでした」


「普段は使わない。脆く、滞空時間を延ばす程度の力しかない。それに畳むのに時間がかかる」


「でもおかげでイチローは助かったわ。それで……これからどうするの? 帰るのよね?」


「馬車に変わる移動手段の考えとは?」


「イルヴァさんに、もうひと働きしてもらおうかと」



 ヘルミーネとサクラが剥がれ落ちた板金を集め終えた所で、馬車に変わる移動方法を提案する……正確にはこれ以外に全員を運ぶ方法が無いので、事実上命令になるのだが。



「うぅ……こき使われてるぅ……」


「が、頑張ってイルヴァ! ……でももうちょっと揺れ押さえられない?」


「むーりーでーすー。そもそも二足歩行は不安定な上に踵の腱も切れてるのに……」



 移動方法。それは巨人をゾンビ化することだった。燃えのこりの食料をかき集め、巨人に分乗……巨人と言っても、手に乗れるのは精々一人ずつ。後は肩に捕まってもらうしかなかったが。左右の手で3人、肩に2人、アルマの馬に2人乗り、森を藪のごとくかき分けて巨人の死体は進む。人間が歩くような歩調だが、背が5~6倍あるので速度も比例。どうにか食料が尽きる前に帰ることができそうだった。



「最初は良い眺めだと思いやしたが、ずっと掴まりっぱなしってのは中々こたえるもんがありやすな……」


「動かしてる私はもっと疲れるんですからね……肩とか揉んでくれても良いと思います」


「良いんですかい? じゃああっしが謹んで……」


「あ、やっぱいいです」


「くぁ~っ! つれねえですなあ!」



 セクハラの概念はこの世界にあるのだろうか、などと思いながらも夜営の準備をする。防腐処置はしていないので徐々に腐っていくのだが、さしあたりポルタ・ルーチェにたどり着くまでは大丈夫だというのがイルヴァの見解だ。その死体だが……アルフィリアは興味を惹かれるらしい。



「うーん、身体構造は人間に近い……けどやっぱりこの目よね」


「まだ乗るんですから程々にお願いします」


「わかってるわよ。でも気にならない? あんな威力の光を出す目なんて」


「なると言えばなりますが。解剖して何かわかるものなのですか?」


「わかるじゃなくて調べるの。無から有は生まれないもの。食べ物の栄養が元だとして、一体どうやってあそこまでの強さにできるのか……」


「あー! ちょっとー! 急造魔法式で不安定なんですから体弄らないでくださーい!」


「ご、ごめーん!」


 イルヴァに怒られたアルフィリアだが、その後もこっそり血を抜き取ったり、内臓の一部らしいものを隠しているのを目撃した……幸いなことに不具合が起きることは無く、その巨体のためか、他の敵に遭遇することもなく、帰路を進んだ。


今週も最後までお読みくださり、ありがとうございます。

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[一言] 一つ目巨人、とんでもない化け物だったな レーザーとか言う反則級の攻撃力に加えて巨人としてのお起きさに防御力まで高いという
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