二十一章の2 ヒロインチーム結成?
職人街にある一軒の工房。ノックして出てきた桃髪の少女に、今回の経緯を伝える。巨人を探し、見つければ倒すという事。そのための攻城弩を扱う人材が欲しいという事……物は多いが整理され、冬場だというのに炉の熱で汗すら浮かぶ室内で、小柄な彼女は腕組みして考え込む。
「巨人かあ……好き好んで会いたい相手ちゃうけど、攻城弩なんてめったに触れへんしなあ……ちゃんと護衛してくれるん?」
「私と……それからこちらのアルマさんも、来ると言っています」
「うむ! 私は強いぞ! 任せるが良い!」
「私も行く。戦闘で後れは取らない」
「いや、そっちの2人は知らんけど……まあ、イチローはんも来るっていうなら、ええよ」
「旦那、信頼されてるようですな?」
「そらな。うちイチローはんには命救われてんねん」
「ほう、ぜひ詳しく聞きたいものだ」
「ま、旅の途中にでもな。出発はいつ?」
「5日後、冬の34日だ」
「わかった、ほな都合つけとくわ」
ヘルミーネを誘うことに成功した。これによりこちらの参加も確定し、準備をしなくてはならなくなったが……
「……足りぬな」
「はい?」
解散しようとした所で、アルマが呟く。
「騎士たる私! 射手たるイチロー! 異界の戦士たるフォルミとやら! ウーベルトは偵察として……魔術師だ! 我ら一団として、魔術師が足りぬ!」
「はあ」
どうにもこのアルマと言う人物、正義のヒーロー的な物に憧れがあるのか、そういう形を整えようとする。
「まあ、間違っちゃあいやせんがね……特に壊されちゃいけねえ物や無防備な奴を守らなきゃなんねえって時は、特に付与術師が居るとやりやすさが段違いでさあ」
「彼女ですか……」
誰のことを言っているかはわかる。確かに彼女の腕はいいのだが……この前大金を得たばかりだ。果たして乗って来るだろうか……
「居るのか!? よし行こう、すぐ行こう!」
アルマが耳ざとく聞きつけたため、駄目で元々とイルヴァの家を訪れる。小さな一軒家が集まる地区、そこにイルヴァの自宅兼店舗『イルヴァの魔法事務所』はあるのだが……ノックをしても返事がない。
「……出てこぬな」
「出かけてるんでやしょうか?」
「多少の偏見を混ぜて言いますが、そこそこの大金を得たのに積極的に出かける様な人ではないと思います」
「では、居留守か? さてどうした物か……」
ドアを蹴破るわけにもいかない。しばし考え……餌を吊るしてみることにした。
「メストさーん! 仕事の話で来ましたー! 金貨70枚のお話なのですがー!」
中で机に足をぶつけたような音がした。居留守がばれたのを悟ってか、中で足音がし……扉が薄く開かれる。
「……ど、どーもー……びゃあっ!?」
空いた扉が悲鳴と共に閉められそうになった時、ウーベルトが足を挟み込む。
「まあまあまあ魔術師殿! まずは話だけでも!」
「嫌です! 何ですか後ろの怖いの!? 私に何するつもりですかー!?」
考えてみれば、ウーベルトと自分は面識があるからともかくとして、その後ろに全身鎧と全身マントの虫型人など居れば威圧感を与えるかもしれない。イルヴァをなだめすかすのには、およそ10分の時間を要した。
とりあえず4人そろって上がり込み、初対面の面子の紹介とヘルミーネにしたような説明を繰り返す。巨人と聞いた瞬間イルヴァの顔は曇ったが……
「巨人……う~……でもなあ……今お金ないしなあ……」
「……あっしが言うのもなんですが、魔術師殿はついこの間金貨50枚近く貰ったはずじゃあねえですかい?」
「え、えーと、貰いましたけど……」
バツが悪そうに目を逸らすイルヴァ。確かに、あれから30日ちょっとしか経っていないが……
「まず、良いお肉食べました……金貨1枚くらいするの。美味しかったです……」
「肉か、良い肉は軽めに焼いて塩コショウで食べるのが良いな! 赤ワインのソースも悪くないが」
「それから、興業区の『優雅なる微睡』で半日コース……生まれ変わった気分でした……」
「高級エステじゃねえですか……確か半日でも金貨10枚は……」
「あそこは出張もやってくれるのだ。腕も良いし、便利だぞ!」
「それで、流石に使いすぎたかなーって思って……残りは投資に回すことにしたんです」
「投資とは?」
「家事をしてくれるアーティファクトの開発です……使用人は雇うとお給料が要るじゃないですか? 買い切りで済むようになったら、結果的に安上がりですし、売れると思ったんです……」
「ほう、面白そうだな!」
目の付け所は良いのだろう。地球においては限定的に使える物ばかりだが、この世界の魔法であればより万能な……それこそ、メイドロボとでもいう様な物を作り出せるのかもしれない。
「それで……試作まではいったんですけど~……」
イルヴァは口ごもり、壁の方を見る。そこには前までかかっていなかったカーテン……窓ではなかったのは確かだ。めくってみると……
「おおっと、こいつぁ……」
「……駆動系の調整が、難しくて……」
壁には、拳が入りそうな大きさの穴が開いていた。恐らくここは借家、もめることは間違いない。
「なに、失敗は成功の母! これを次に活かせば良いのだ!」
「次を作るのにも……お金は必要なんですよね……」
「……では、参加ということで。出発は5日後です」
「はい……準備沢山しないとなあ……」
新製品開発に失敗したイルヴァが仲間に加わった。これで総勢6人、それなりにそろった方だろう。一度解散とし、当日集合することになった。酒場で正式に依頼を請けたあと、一度帰ることにしたが……
「う~……」
帰って出迎えたのは、食堂で机にあごを乗せているアルフィリアの姿だった。
「……何があったのか、聞いた方が良いですか?」
「見て、これ」
アルフィリアが机の上を滑らせたのは一冊の帳簿。どうやら、家計簿のようだ。
「ちょっとずつだけど、最近赤字なのよ。ここの返済もあるし、最近サクラもよく食べるしね」
「大きくなりましたからね……」
「量産は軌道に乗りそうだけど、売る方がね。私が動ける時間にも限度があるし……やっぱり、単価の高い物を売っていかないといけなさそうなの」
「作れないのですか?」
「作れると言えば作れるんだけど……材料が無いのよ。やっぱり高い物作ろうと思ったら、相応に珍しい物を使わないと」
「あなたのやり方なら、材料の希少さはさほど関係ないのでは?」
「まあ、そうなんだけど。仕入れる物が変わらないのに売り物が増えたら変でしょ?」
「それは、確かに……」
禁術を使っていると、気軽に商品も増やせないらしい。せめて少しでも、売り上げに貢献するべきか。
「それはそれとして、また遠出をすることになりそうです。薬の補充をお願いできますか?」
「ん、今度はどこ行くの?」
「ベスティアで、南方に行きます。移送門を使うとか」
「ふぅん……ふーん」
アルフィリアが意味ありげな笑みを浮かべた……なんとなく、次に言い出すことが想像できた気がする。
「よし、私もそれ付いていくわ」
「危険です。巨人を倒しに行くんですよ」
「あんたもいつの間にか大層な仕事するようになったわね……でも巨人を材料にしましたって言ったら、それなりに高くできそう」
「でしたら、私が何か持ち帰ってきますので……」
「私だって、たまには出かけたいのよ。あんたのことだから、また大怪我しそうだし」
「それは……否定できませんが」
「はい、決定!」
押し切られた。確かに回復魔法も使えるアルフィリアは居ると助かる。助かるのだが……護衛すべき対象が増えるのは果たして吉と出るか凶と出るか。当然サクラもついてくるため、久しぶりに2人と1匹揃っての遠出となる。食料などを多めに用意しておくことにし、当日に備えることにした。
買い物
保存食 90食分 銅貨360
アルフィリアの薬 20回分 銀貨10
矢 4本 銀貨4
威力強化矢 2本 銀貨8
マッチ 9本 銅貨9
消耗品一覧
矢 50本
付与術付き矢 10本
食料 182食分
アルフィリアの薬 30回分
マッチ 50本
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