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底辺だけど、異世界であがき抜く  作者: ぽいど
第二十一章 ジャイアントキリング 編
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二十一章の1 謎の鎧はお金が欲しい

活動報告にて支援絵の紹介をさせて頂いております

よろしければそちらもご覧ください。

「あいつとママとどっちを選ぶの?」

「……お父さん」


 そう言った瞬間、お腹に強い衝撃が加わって倒れた。どちらを選ばなければいけないかは決まっていて、違う方を選んでも意味はないんだとその時わかった。偉い人もお母さんの方に行けと言った。腹が重い。でももし自由に選べる時が来たら、その時は一番好きなのを……



「……」



 目を覚ます。重い筈で、サクラが体の上に横たわっていた。エサ皿を咥えて……とりあえず、今日の『待て』は長めにすることにして、尻尾を振りながらついてくるサクラと共に台所へ向かった。



 異世界生活255日目、冬の29日



 庭への畑づくりもひと段落し、依頼を探すことにした。冷え込みはますます厳しくなったが、温かい家に引きこもっているわけにもいかない……財布が許すならそれも悪くはないと思うが。

 雪がちらつく中、直営酒場の戸をくぐる。外の寒さとは裏腹に、赤々と燃える暖炉で温かく、依頼を請ける、あるいは遅めの朝食を取ろうとした客がたむろしていた。こちらも依頼を請けようと、カウンターに向かおうとしたとき……



「イチロー殿!」



 何やらうれしそうな声で、テーブル席の方から名前を呼ばれた。そちらを向くと顔を輝かせた女性が居た……光沢的な意味でも、表情的な意味でも。いや、表情は見えないのだが、声からはそうとしか判断できない。とりあえず、急に組合の方で依頼を請けたくなったのでその場で反転し……



「待て待て待て貴公! それは無いだろう!? 私は貴公が来るのを待っていたのだぞ!」


「……どうも、アルマさん。何か用でしょうか」



 席を立ってこちらに駆け寄る全身鎧の女性……名をアルマ(偽名)と言う。以前彼女からとある依頼を請け、大鳥の乗り方を習ったりして……悪い印象は無いのだが、常識にとらわれないというか、無茶ぶりをしてくる人物でもある……



「うむ! 事は前の依頼の時までさかのぼる。大鳥の弁償金、こっそり私費で返そうと思っていたのだが……兄上にバレて大目玉を食らったのだ」


「はあ」


「まったく、悪気があったわけでも無し、あそこまで怒らなくても良かろうに……とにかくそんなわけで、50日間の外出禁止と小遣いを全額返済に充てるよう言いつけられてしまったのだ」


「まあ、無理もないですね」



 家族への不平など口にするアルマ……金貨二桁を小遣いで賄えるあたり、金持ちの出自らしい。



「しかし小遣い抜きでは出かけることもままならんし、大鳥も借りれん。そこで私は考えた! 自分で稼げばよいではないかと!」


「はあ」


「そこで、探検者組合に赴いたのだが……」


~~~~~~



「住所は明かせない? 指紋は出せない? そもそも兜も脱ぎたくない? このアルマと言うのも本名ではありませんね? 舐 め て る ん で す か?」



~~~~~~



「辛辣ではないかあの受付嬢は!?」


「(当然の反応ではなかろうか……)」


「組合員でなければ依頼は請けさせないというし……そこでだ! 貴公が請けて私が手伝い、報酬を分ける! 貴公もより難度の高い依頼に挑戦できて収入も上がることだろう。どうだ!?」



 『すごい名案』だと言いたそう……というより実際言っているのだろう。それなら自分以外の相手にその話を持ち掛けたらどうかとも思うが。



「顔も見せない相手は信用できんと言われたのだ……ならば、一度行動を共にした貴公を当てにするしかないではないか!」


「いや、見せろよ顔くらい……」



 店主のもっともな指摘には顔を逸らして沈黙を守るアルマ……彼女を連れていくかどうかはさておき、依頼のリストを見せてもらうことにした。



「木工組合からの依頼だな。赤星の谷を越える馬車の護衛」


「護衛か……もっと見栄えのする物がいいな」



 アルマが横から口を挟む。既に連れて行ってもらう前提なのだろうか。



「それから、これはどこぞの芸術家からの依頼だな。一定の大きさの大理石を納品しろ……産地の指定付き」


「それは石工の仕事ではないか! もっとこう、探検者らしいものがあろう!」


「次、闘技場からの依頼だな。逃亡した剣闘奴隷の追跡、捕獲の支援」


「うーむ……いまいち気が乗らん。もっと、後味の良さそうなのはないのか?」


「おいイチロー。怒鳴り声の一つも上げて良いと思うぞ?」


「聞き流すのは得意ですので」



 何だかんだと文句を言うアルマだが、要は気にしなければいい話だ。リストの続きを聞こうとしたとき、金属とも違う硬質な足音が入り口から近づいてくるのが聞こえた。



「依頼提出する。なるべく早く集めたい」



 足音の主はカウンターに着くなり、書類を置く。そして抑揚が少なく、金庫のダイヤル音を大きくしたような雑音を含んだその声は聞き覚えのある物だった。



「久しぶりだなイチロー。この依頼に興味は有るか?」



 全身をマントで覆っているが、その下は硬質の殻で覆われた、虫型の異界人フォルミ。所属する傭兵団の依頼で以前同行したことがあり、その際、遠距離とこのテルミナス近郊をとをつなぐ門……一種のワープゲートを発見した。そう長いとは言えない探検者生活で、あれほどの発見をできたのは幸運だったというべきだろう。験を担ぐわけでもないが、とりあえずその依頼を見てみることにした。



「巨人種の捜索、排除……?」


「おっとっと、こいつは中々デカい依頼ですなあ」



 もはや恒例となりつつある、いつの間にか現れて解説を挟むウーベルト。とりあえずベテランである彼の言葉を聞くことにする。



「巨人……前に生首を運んでいる所を見ましたね」


「ええ。巨人と言っても大きさはばらつきがありやして。あっしらの倍もない程度の奴から、組合の建物くらいある奴まで色々でさあ。まあ、見た目相応の馬鹿力で……あっしら人間が作った建物を見ると、ぶっ壊しに来るんでさあ」


「それはどのベスティアンも同じなのでは?」


「いやあ、なぜか巨人はあっしら自体には興味を示さねえんで。勿論反撃はしてきやすがね」



 建物は壊すが人間には興味を示さない怪物。奇妙な習性ではあるが、そういう物が居るのだろう。恐らく、拠点をつくるのに相当厄介な存在となっているはずだ。逆に言えば建物を作るのでなければ、わざわざ手を出す存在でもないという事……



「どこかしらの建設予定地に巨人が居て、それを倒してほしいと言うわけですか」


「そうだ。正確な場所がわからず、捜索も条件に入る」


「ふむ、ふむ……! 開拓を阻む邪悪な巨人を討つ! これだ! これがいいぞ!」


「この鎧は誰だ?」


「知り合いです」



 フォルミの短い問いに、こちらも短く答え。依頼の詳細に目を通す。報酬は金貨10枚。向こうが移動手段を用意し、いくらかの支給品もある。目標以外の討伐奨励金は倒した者が取って良い。巨人を倒した場合は特別報酬で金貨60枚。期間は最大15日程度。目的地は……



「移送門の先?」


「そうだ。近く一般に使用が許可される」


「ま、おいしい所は大手に抑えられてるんでしょうな。やるせねえこって」


「古代の遺跡を通っての進軍……心躍るではないか!」



 アルマの言は聞き流し、読み進める。募集人数という欄もあるが……



「『複数可、技術者優遇』?」


「攻城弩を組み立てられる者が要る。こちらには足りない」


「攻城弩……」


「まあ、旦那の持ってる弩をそのまま大きくしたようなもんでさあ。槍みてえな矢を撃つんで、巨人にも効くって寸法で」


「なるほど……しかしそう言った物を扱う要員は普通自前で用意する物では?」


「3組の出動を予定していたが、1人が病気で寝込んでいる。居ないのであれば攻城弩無しの組が1つ出る」



 その1つに自分が回されるのは遠慮したいところだ。だがその前にとりあえず……席を外して、ウーベルトと相談に入る。



「どう思います?」


「前の事を考えるに……」



 以前の依頼では、自分達は囮部隊に配置されたというのがウーベルトの考えだ。だが囮であって使い捨てや捨て駒ではないというあたりが判断の難しい所……



「まあ、やってみてもいいんじゃあないですかい? 少なくとも巨人は群れねえし目立つ、こっちが先手を取れるはずでさあ」


「裏があると考えるなら?」


「巨人の所に行くまで別の障害がある……とは考えられやす。囮で抜けられるってことは地形じゃねえ。何かしらの敵でしょうな」


「何か生贄を捧げなければ通れないような場所、だとは?」


「それならわざわざ組合通す必要はねえ、消えても誰も気にしねえのが日陰地区にはいくらでも転がってまさあ。それなりに戦える奴が必要だってのは確かでやしょ」


「それを切り抜けられるかはこちら次第ですか……」


「巨人倒して金貨70枚は……まあ、武器と馬車を出すにしてもやや安い。しかし3組ってこたあおそらく分散して捜索する腹積もりだ。上手い事見つからないほうに当たりゃ、楽して丸儲けでさ」


 不安要素はあるが報酬は高い。それに、募集されている技術者にも、心当たりがなくもない。カウンターに戻り、依頼への返事をすることにした。



「引き受けてもらえるかどうかはともかく、声をかけてみたい相手は居ます」


「それじゃあ、仮引き受けってことにしておく。なるべく早く返事をくれ」


「……お! 行くのか? 行くのだな!」



 スルーされていじけたのか、カウンターの横で膝を抱えていたアルマが立ち上がり、ついてくる……どう言っても勝手についてきそうなので、アルマ、フォルミ、ついでにウーベルトも連れて4人で知り合いの技術者……すなわちヘルミーネの工房を訪れることにした。

今週も最後までお読みくださり、ありがとうございます。


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