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底辺だけど、異世界であがき抜く  作者: ぽいど
第十八.五章 新生活に向けて 編
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十八.五章の3 引っ越し

異世界生活205日目、秋の69日




「それじゃサンドラ、お世話になりました!」


「はいはい、まあ元気でやりな。顔を出したら茶くらい淹れさせてやるよ」


「(淹れるんじゃあないのか……)」



 荷物を荷車に乗せ、サンドラに挨拶をする。元幽霊屋敷の修理もひと段落し、そちらに引っ越しをすることになった。サンドラにも何だかんだと世話になったが、それも今日まで。これからは知り合いとして関係を続けていくことになるだろう。新たな門出とするには中途半端な季節ではあるが、荷車を引いて引っ越しを開始する。



「う~……おもーい……」


「いつの間にか、荷物が増えましたね……」


「そりゃね……この街に来て、何日だっけ?」


「確か……来たのが、春の終わりごろだったかと」


「じゃあ、ざっと半年か……早いような短いような、ね」



 瓶やら樽やら家具やらを積んだ荷車で坂を上るのは一苦労だったが、何とかそれも終え……屋敷に家具を運び込む。外装までは手が回っていないため幽霊屋敷の風貌はそのままではあるが、内部は住めるレベルには綺麗になっている……と言うよりは綺麗にした。それらの部屋の中、アルフィリアが自室に選んだのは一番広い主寝室。家の持ち主なので当然というべきだろう。自分はその向かい、一番南の角部屋……と言っても、広くなっただけで別に置く物が増えたわけでもないが。だがベッドの質は上がったので、一応生活の質は向上したと言えるのかもしれない。


 サクラの小屋は一旦保留とした。理由は二つ、まず今のサクラの体に合う小屋を作ろうとすると、ちょっとした物置並みの大きさになる事。もう一つは屋敷のドアノブが基本レバー式なので、サクラが自分で開閉できるという事だ。後ろ足で立ち上がり、器用に前足を使ってレバーを下げ、内開き外開き関係なく開けてしまう。そして通ったらきちんと閉めていくのだ。



「開けた扉を閉める様になったら、それは動物ではなく化け物だとされるそうですが……」


「元々魔獣なんだし、それでいいんじゃない?」


「そう、でしょうか……?」



 何にしても、普通に家を出入りする以上小屋を作る必要性が薄く……作るにしても当分先で良いという結論に達した。


 引っ越しで一番変わったのは機械室だろう。『水晶の湯』にあった物よりは小型だが、石炭を燃料とし、湯を供給できるボイラー。屋上の貯水槽に水を送るポンプ……電力も無しにどうやっているのかと思ったが、水槌ポンプと言って、水流と圧力を上手く上方向へのエネルギーに利用しているそうだ。これらは専門家に点検修理してもらい、稼働可能な状態にある。




「石炭に、部品の予備も要るだろうし……出費が増えるわね……」


「家自体の支払いも有りますしね……」


「う~……稼がないとなあ……あんたも消耗品代くらい出しなさいよね」



 他にも図書室、使用人室、応接室などあるが、それらの部屋は当分の間使わないだろう。何しろ収める本も無ければ使用人も居らず、訪れる客もありはしないのだから。



「後は台所とお風呂と……」


「そういえば、結局地下の隠し部屋はどうしたんですか?」


「じつは、開けっぱなしなのよね……他の人に修理してもらうわけにも行かないし。とりあえずタペストリか何かかけておくけど、どう考えても不自然よね……」


「まあ……怪しまれてそこまで踏み込まれたら、もう詰んだような物でしょうし」


「そのうち、棚か何かを足して直接見えないようにしないとね。その時は手伝ってよ?」



 錬金術関係の材料は、全て隠し部屋に持ち込んだ。元家主の死体は流石に誰かに見せるわけにもいかず……アルフィリアは難色を示したが、昔に死んでいたという事、発見された時の危険性の高さなどを鑑み、地下室でそのまま処分することに決まった。錬金術で塵に帰ったそれは、風に乗って……今頃は海を漂っている頃だろうか。いずれにしても、もはやそれが問題になることは有るまい。



「それで……この部屋はどう利用するつもりですか?」


「そりゃあ勿論……私の作業室! ちょっぴり改装して、明かりも置いて……何から始めようかな……」



 運び込んだ家具で足りない物は買い出しに出かけ、また運び込み……丸一日をこの調子で作業に費やした。とにもかくにも、新生活……と言うほど変わったわけでもないが、新たな家への引っ越しは完了。組合へは少々遠くなってしまったが、そこは我慢するべきだろう。初めて横になったまともなベッドは、そう悪くない物だと思えた。



異世界生活206日目、秋の70日



 これまでは朝はサンドラが作ってくれていたが、これからは自分達で用意しなければならない。一応交代で作ることにはしたが、お互いの仕事の都合という物もあり……とりあえず今日は自分が作ることになった。



「おはよー……良く寝れた?」


「はい。そちらは?」


「そりゃもう。ベッドがふっかふか! 疲れが取れたーって感じがする」



 きちんとした食堂はあるのだが、2人で使うには大仰すぎるため、厨房に普通のテーブルを置いてそこで食べることに決めた。席に着いたアルフィリアに、パンとチーズと何かのピクルスを合わせて、肉無しチーズバーガー風にして出す。粥に比べれば重めなメニューだが……麦やら何やらを朝からじっくり煮込んでいる時間は無い。



「家が豪華になっても、ご飯の質は変わらないわね……」


「まあ……私たちは料理人でも何でもありませんし」


「せめていい材料……そしたらまたお金かあ」



 それにつけても金の欲しさよ、とはどこの誰が言ったのだったか。前より状況が良くなってはいるのだが、人の欲望に限りという物は無いらしい。ひとまずは、朝食の片づけを終えてから各々の仕事をこなすべく、家を後にした。



「(まあ、自分の場合仕事があるかどうかと言う段階を越えないといけないのがつらいところだけどな……)」



 残念ながらその懸念は現実のものとなり、依頼探しは空振り……曲がりなりにも自分で家賃を払っていた身分から居候になっている手前、さすがに気まずい物がある。庭の手入れや家の掃除、家周辺の道や建物の把握で過ごすのにも限界という物があり……暇そうだからと言う身も蓋も無い理由により、アルフィリアの納品やら家事やらを背負わされることになってしまった。



「(別に嫌と言うわけではないけど……)」



 雑草と低木も片付き綺麗になった、夕日で照らされる庭。そこにネズミ捕りのカゴを並べながら、色づいた空を見上げる。哀愁でも感じたのだろうか。刈った草の山に座って休憩していると、サクラが膝に片手を乗せて来た。柔らかい肉球と冬毛の生えそろった手の甲をしばし触ってから、夕食と風呂の用意へとかかる。主夫にでもなったような気分だが……少なくとも気持ち的には、楽な物ではないようだ。



今回の清算


物品


コート 0→1



収入


無し


出費


コート購入:金貨8

手袋購入:銀貨10

昼食代:銀貨1

その他生活費:銀貨4


所持金の変動


金貨:18→10

銀貨:26→11

銅貨:9


屋敷生活のため、生活費が銀貨1枚と銅貨5枚に上がった

今週も最後までお読みくださり、ありがとうございます。

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