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底辺だけど、異世界であがき抜く  作者: ぽいど
第十八.五章 新生活に向けて 編
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十八.五章の2 ちょっと昔の話

組合の直営酒場に入り、昼にはやや早い時間のためか、人のはけた店内で席に着く。



「おお? なんだ、衣替えか」


「替えと言うより追加ですが……昼の定食を一つ」


「おう、ちょっと待ってな」



 注文が厨房に通り、ほどなく湯気の立つ皿がトレーに乗って出て来る。今日の定食は貝柱のシチュー。煮崩れた芋の溶け込んだスープが濃い目の味でなかなかに食べ応えがある。今日はまだ人も少ないためか、店主はどこか暇そうに見えた。ここが『直営』酒場と呼ばれている以上、この店主も組合職員と言うことになるのだろうが……



「組合には元探検者も多いと聞きますが……店主さんもそうなのですか?」


「あん? まあな、もう10年以上前になるが……この肉体美は現役の時から変わっちゃあいねえぜ」



 ポージングなど決める店主……日中も冷えるようになった店内だが、張り付くような半袖シャツ姿は変わっていない。筋肉が多いと発熱量も多いのだろうか。



「だが、何だ急にそんなことを」


「引退のきっかけと言うか……引き際とでも言うべきものを学んでおこうかと思いまして」


「おいおい、まだ若いのに引退の算段なんてするんじゃねえよ。俺がお前ぐらいのころには、もっとガツガツしてたもんだ。金! 酒! 女! って具合にな」


「ですが、私とそう変わらない歳で引退した探検者だって居るでしょう。組合のアデーレさんもそうだと聞きました」


「……誰から聞いた?」


「本人から……ああいえ、私とそう変わらない歳と言うのは推測ですが」


「そうか……あいつも乗り越えようとしてるってことか」



 店主は何やら遠い目などして、自分用のグラスなど出し始めた。どうやら、長話が始まるらしい……



「アデーレが探検者組合に来たのは8年ほど前のことだ。そん時も今と変わらねえツンケンした態度だったが……まあ、初々しさって奴はあったな」


「マリネッタさんとは、そのころからの付き合いだと聞きました」


「ああ、割と早くに知り合ってたよ。魔法使いのアデーレと盾戦士のマリネッタ、いいコンビだったな。性格的にも硬いアデーレをマリネッタが解してる感じでな」



 あの2人は当初からああだったようだ……長年関係が変わらない友人と言うのは良い物なのだろう……おそらくは。



「2人でとんとん拍子に評判を上げて言ったんだが……ある事件が、あいつらの運命を変えちまった」


「ある事件?」


「ああ……探検者ってのは上手く行けば大金が転がり込む。だから上手く行ってる奴は妬みも買うのさ。そのなかにゃ……実力行使に出る奴も居た」


「……きな臭くなってきましたね」



 利益確保のために実力行使をする者が居るのは、前回のリンランとの一件で体験済みだ。それは、たかが数年で急に現れたり消えたりするものではないのだろう。



「現場にいたわけじゃあねえから、本人の供述だが……路地で3人の男に襲われたそうだ」


「評判になるほど腕が良かったなら、返り討ちにできたでしょう」


「ああ、だがな……アデーレはできなかったんだ。あいつの魔法は威力が高すぎてな、人に使えば間違いなく殺しちまう」


「正当防衛になるのではないですか?」


「法律がどうとか正義や悪がどうとか、そう言うもんじゃねえ。人を殺すってこと自体ができなかったのさ」


「それで……」


「駆けつけたマリネッタがやった。盾ってのは、つまりは金属で補強した分厚い木の板だからな。そんなもんで殴られりゃ人間なんてひとたまりもねえさ」


「マリネッタさんの様子からは、あまり……想像できませんね」


「だろうな」



 グラスに注いだ酒を煽り、店主は言葉を続ける。



「で……裁判になって。結局マリネッタは2年間牢に入ってた」


「理不尽な話ですね」


「ああ、普通なら無罪放免でもおかしくねえ。だが……探検者だったからな」


「普段から武器を持ち歩く準暴力集団……やはり、立場は悪いのでしょうね」


「ああ……その2年、アデーレは見てらんねえ状態だった……酒浸りになって、探検者としての活動も止めちまって……泥酔しちゃ、うわ言みてえにマリネッタに謝ってばっかりだった。『手を取るべきだった』『どうしてあんなことを言ってしまったのか』ってな」


「(結果としては襲った側の狙いどおりになったわけか)」


「その後2人で色々あったんだろうが……結局、探検者には戻らず、組合で一緒に働いてる。俺たち以上の世代の組合員にゃ有名な話だ。表立って話すことは殆どないがな」



 色々と、身につまされる話だ。話が一段落した所でシチューは空になり、他の客も増え始める。



「探検者の身分保障に組合が力を入れだしたのも、それがきっかけでな……ま、話はこんな所だ……言っとくが、あの2人は組合の中でも人気なんだ。ちょっと過去を知ったからって粉かけようなんざ考えるんじゃねえぞ? 夜道を安心して歩きたけりゃあな」


「は、はあ……」



 両手をカウンターに置いて顔を突きつける店主の前に食事代を置いて、店を離れた。あの2人にそんな過去があったとは思いもしなかったが……それでよく、実戦とは違うとは言え探検者に関わり続けようと思ったものだ。あるいはそんなことがあったからこそ、なのかもしれないが……アデーレの、不誠実な依頼主に対する態度を見ると後者の方なのかもしれない。


 そんな、組合員の内面を考察などしているうちにアパートに帰りつく。庭では、サクラが餌皿を前に『待て』をさせられている所だった。



「あ、お帰り……それ新しい服? なんか、今までずっと緑だったからちょっと変な感じ」


「実用性の方を優先しました。色々物をつり下げられますし、汚れや傷にも強いそうです」


「ふーん。あ、サクラ、食べて良し」



 餌皿に山盛りの干し肉がたちまちサクラの胃に消えて行く。それを眺めるアルフィリアだが……



「それと……これを」


「え? なになに?」



 その彼女に、包みを手渡す。服を作った布の端財なのか、色々な手触りの布が合わさったそれ。アルフィリアはどこか不思議そうにしながらも、それを受け取って開け……



「これ……手袋?」


「はい、これからの時季、そういう物があっても良いかと思い」


「……くれるの?」


「一応、そのつもりで買ってきましたが……気に入らないのでしたら、その辺に捨てておいても別に構いませ」



 言葉は途中で、手袋の柔らかい感触に塞がれる。早速手袋をはめたアルフィリアが、こちらをその手で抑えていた。



「そーいうこと言うな。せっかく買って来たんだから」


「は、はい……」


「ふふ、柔らかくてあったかい……」



 手袋をつけたアルフィリアは顔をほころばせる。白い服装に赤い手袋は思っていたよりも映え、見慣れない物が気になるのかサクラはしきりにその手袋の匂いを嗅いでいる。



「よし、それじゃあせっかくあったかい服にしたんだし、今日の散歩はちょっと遠出してベスティアまで行かない? サクラもたまには狩りとかしたいだろうし」


「ちょっとと言うほどでもないですが……今からなら、夜までには戻れるでしょうか」


「でしょ? よし、それじゃあ出かけるわよ、サクラ!」



 唐突な提案は、テンションが上がった為だろうか。食事を終えたサクラを小屋から解き、準備らしい準備もせずに出かけようとするアルフィリアを一度引き留め、装備を整えてから改めて出発する。橋の上を海風が吹き抜けるが、コートのおかげで寒くはない。射撃練習とサクラの狩りを兼ねてベスティアに赴き……小動物を何匹か仕留めることに成功した。それらは全てサクラのオヤツとなり、久しぶりに生きた獲物を狩ったサクラは満足そうにしている。

 


「(コートを着た上での活動も問題なくこなせるな……)」



 膝立や伏せての行動もスムーズにでき、自分でも悪くない買い物をしたと思えた。これから始まる冬でも、問題なく動けるだろう。問題が無さすぎて、評判が出てしまい、アデーレ達のように妬みを……と言うのは考え過ぎだろうが。

 


「サクラ、狩りは楽しかった?」



 フードを被ったアルフィリアは街へと橋を渡りながら、機嫌良さそうに一声鳴いたサクラの背を撫でる。夕日の中でなお鮮烈な赤の手袋、その色は取り様によっては血の色にも見え……浮かびそうになった連想を、顔を振って断ち切る。そんなことを考えていると知れたら、今度は手袋で頭をはたかれてしまうだろう。今日くらいは、喜ぶ1人と1匹を見ているだけで良い、そう言うことにしておいた。



今週も最後までお読みくださり、ありがとうございます。

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