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底辺だけど、異世界であがき抜く  作者: ぽいど
第十八章 大鳥に乗って 編
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十八章の10 契約書はよく読もう

 空が赤く染まり、青い月が傾き出した頃、大鳥はテルミナスに到着した。3羽が次々と厩舎前の草地に降り立ち、荷降ろしやらをしている間に太陽は沈み、この世界の7時を知らせる鐘が鳴る。



「む、遅くなってしまったな。私はもう帰らねば。また明日にでも支払いの話をしようではないか」


「では、明日の……4時、組合の方でよろしいでしょうか」


「うむ、承知した。ではな! 実に有意義な旅であった!」



 馬に乗り、厩舎を離れるアルマ。彼女に続く形で現地解散となり、湾の反対側、街灯と窓の明かりがきらめく街へと歩く。



「あ~……腕だる~い……飛ぶのって結構疲れるのね……」


「何時間も掴まりっぱなしですからね……」


「今日はご飯作れない……何か買って帰ろ?」


「そうですね……片手で食べられる物が良いですが」


「また食べさせてあげよっか?」


「普通に串焼きか何かで良いでしょう……」



 他愛ない話と共に丘を下り、興業区の屋台でやや高めの夕食を済ませてアパートへと戻る。初めての空の旅からは、どうにか生きて帰ることができた。留守番をしていたサクラに餌をやり、適度に構ってから床に着く。明日は組合に医者と、あちこち出歩くことになりそうだった……




異世界生活201日目、秋の65日



 約束の時間は4時だが、組合自体はそれより前から開いている。先に戦利品の換金を済ませてしまうため、マリネッタのカウンターに戦利品を預け、買い取り査定を待った。




「はい、お待たせしましたあ。情報装置ですが、情報が壊れていますので金貨5枚、魔凝石は8級品となりますので、こちらも金貨5枚、服の方ですけど、ちょっと傷んでますので金貨6枚になりますねえ」


「服の方が高いんですか……」


「こういうのを集める好事家さんって居る物なんですよお、私にはよくわからないですけどねえ」


「ええっ? でもカッコいいじゃないですか! 僕ももう少し大きければ、これを着るんだけどなあ」


「腐りきった死体の汁に浸けこまれていたでしょうが、それでも着ますか?」


「うっ、それは……ちょっと考えます……」


「ふふ、ジーノ君もいつか探検者になったら、ちゃんと綺麗なのが見つけられるかもしれませんねえ。それじゃあ、今回も全額現金でよろしいですかあ?」


「はい、この後依頼金の支払いもあるので、預金はその後で……」



 ジーノが戦利品を倉庫に収めた所で、4時の鐘が鳴る。ほどなくして、組合ではあまり見かけない全身鎧が、玄関から乗り込んできた。



「たのもう! 依頼の手続きを終えるために来たのだが。アルマの名で依頼を出しているはずだ!」


「……お調べしますので、少々お待ちを」


「なるべく早く頼む……おお、貴公! もう来ていたのか、早いな!」


「待ち合わせに遅れたことはありませんので」



 アルマと二人ベンチに座る。組合の依頼管理がどうなっているのかは知らないが……そう時間がかからず、アデーレから呼び出しを受け、机と椅子のある別室に通された。机を挟んでアデーレと向かい合い、事後の手続きを進めていく。



「では、こちらがアルマ様の依頼した遺跡探索の同行依頼です。間違いはございませんか?」


「うむ! 海を渡り遺跡を守る絡繰りを破り、宝を見つけ……実にやりがいのある出征であった!」


「それはよろしかったですね。さて、この依頼ですが……依頼概要は書かれていますが、報酬について定めがございません。正直、この段階で依頼を請けるとか馬鹿の所業ですね」



 小声が段々小声ではなくなってきている。だが、確かに報酬の話もせぬまま依頼に出るのは不用心だった……その言動から、無意識にアルマを甘く見ていたのかもしれない。



「心配するな! 私はケチったりしないぞ! ……どのくらいが相場なのだ?」


「近場ではありますが未踏破遺跡、さらに大鳥を用いた渡洋活動を含むと言うことで……金貨10枚程度が一般的ですね」


「良し、金貨10枚だな……」



 アデーレの提示した額を素直に受け入れ、アルマは肩にかけた鞄から袋を取り出す……中身は全て金貨のようだ。机の上にそれを並べ……



「加えて、テルミナス大鳥一羽が探検中に死亡、その損失補てんとして金貨75枚が大鳥厩舎より当組合を介して請求されております。事務手数料と含め……総計、金貨88枚となります」


「……はっ……88枚だとお!?」



 アルマの声が裏返る。借り物の大鳥を失って何のペナルティも無いとは思っていなかったが、それにしても相当な金額だ。アルマは机に手を突いて立ち上がりまくしたてる。



「ま、まてまてまて! 確かに大鳥は失ったが……私が死なせたわけではないし、その……私が払わねばならんのか!? 全額!?」


「契約には『依頼に際し発生した第三者への損失は、依頼人の負担とする』と明記されておりますので」


「そ、そんなもの私は、聞いて……ない……」



 アルマの声のトーンが下がっていく。聞いていなくて当然だ、何しろすべて丸投げしたのだから……あるいは勢いだけでそうしたのかもしれないが、そうなっているからには従って貰わなければ困る……なにしろ、こちらは金貨75枚など払えるわけがないのだから。



「正式な締結はまだだとは言え、通念上すでに契約は成立し、履行されたと見るべきでしょう。締結や支払いを拒否されるのであれば、当組合としては差し押さえなどの法的手続きに入らざるを……」


「み、見くびるな! 事が済んでから支払わないなどと言う卑怯な真似はせん!」


「では、こちらの書類にサインと指紋をお願いします」


「うぅ……88枚……88枚か……兄上に怒られる……」



 アルマにもそれなりの家庭事情という物はあるようだが、それは個人の責任で何とかしてもらおう。大鳥に関してはアルマの所持金が足りなかったためひとまず依頼料分のみを受け取り、今回の組合での用事を終えた。組合を出るアルマは肩を落としていたが……お嬢様の社会勉強と言うことで、納得してもらう他ない。

 それにしても驚くべきは、大鳥厩舎と探検者組合が昨日の今日でああいった連絡を取り交わしていたことか。恐らく、そう言ったことは『よくあること』なのだろう。下手に揉めたりしない代わりに、支払いから逃れることは難しそうだ。今回はアルマがそれを被ったが。空を飛んでの移動と言うのは確かに便利だが、うっかり落として金貨75枚は中々にハードルが高い。地に足を着けた方が良いのだろう……文字通りに。


 その後ドメニコの所で腕の処置をして貰い、ウーベルトとアルフィリアの取り分を支払い……今回の依頼は幕を下ろした。ウーベルトの言っていたアルマの覚え良く……と言うのはどうなったか微妙なところだが、どうも彼女は辻斬りならぬ辻人助けをしているようだ。それにヘルミーネの工房を利用している……今後も会う機会はあるだろう。その時には、あの鎧の下の素顔を見ることもある……のかもしれない。



今回の清算


物品


矢 27→30(使用と補充合計)

携帯型信号灯 0→1

飛行用ゴーグル 0→1

マッチ 0→49

付与術矢 3→10



収入


馬車護衛料:銀貨20

アルマの案内料:銀貨3

アルマからの依頼料:金貨10

遺跡での戦利品:金貨16


出費


馬車護衛料、ウーベルトの取り分: 銀貨4

ウーベルトの取り分:  金貨5  銀貨10

アルフィリアの取り分: 金貨10 銀貨20

物品購入費:      金貨2  銀貨62 銅貨50

イルヴァへの付与術依頼:     銀貨21

ドメニコへの治療費:       銀貨20

その他生活費:          銀貨20



所持金の変動


金貨:12→18

銀貨:10→26

銅貨:9



その他


テルミナス大鳥の騎乗資格を手に入れた。


今週も最後までお読みくださり、ありがとうございます。

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