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file.8 誕生日おめでとう

「お、王子様ドロイド……?」


 聞き間違いだろうか? 


「うん! あたし王子様のようなドロイドが欲しいの!」


 活発そうな少女は、付き添いと思われる青年の制止を振り切って、さらにまくし立てた。


「わかるー? あたしはこんな不細工な下僕じゃなくて、もっとスマートな召し使いが欲しいの!」

「誰が下僕だ! せっかく連れてきてやったんだから、もっとお兄ちゃんに感謝しろ!」


 兄と思われる青年はぺシンと妹の頭を叩き、こう続けた。


「すいません、要するにこの子の誕生日プレゼントに、執事みたいなドロイドを短い間でも派遣してやりたいのです」

「いたぁい……」


(なんだかいつもと勝手が違うなぁ……)


 とは言え依頼自体はそれほど珍しいものではない。

 美形の男家事手伝いドロイドなんて、私だって家に欲しいもの。


「そうでしたか……でしたら妹さんの要望を出来るだけ細かくお聞かせ願えますか?」

「はい、オイ歩理恵捨ぽりえすてるちゃんと言えるな?」


 青年は歩理恵捨と呼ばれた少女の肩を叩いて促した。


「うん。かっこよくて、私の言う事なんでも聞いて、料理は上手くて、あとめっさ強い王子様みたいなドロイドが欲しい!」

「うんうん、わかるわかる……」


 幼い頃にもしドロイドを派遣してもらえるというのなら、このような夢を私も描いただろう。

 なんだか、微笑ましくなる光景だ。

 

「それで、予算はこれくらいなのですが……」

「!? ええと……この予算ですと……こ、こんなドロイドはいかがでしょう?」


……

…………


「鉄子……今日は普通の依頼だったのかよ。そんな話聞いても仕方ないぜ」

「そんなわけないでしょ。1悶着あったわよ」

「ん?」

「予算がぜんっぜん足りなかったのよ!」

「……客にそう言えば良かっただろ」

「歩理恵捨ちゃんがかわいそうじゃない。なんとか顧客の要望に沿おうとするのが、社員の勤めでしょう」

「むぅ……で、どうしたんだ?」


「彼女の要望を思い返して、私はコストを節約できるような案を考えたわ……『旧型ドロイドの外殻を兄に売りつけたの』!」


「……」

「……仕方ないじゃない。夢の実現にはお金がかかるのよ……こっちは慈善事業じゃないんだから」

「……」

「そんな目で見ないで」

「ドロイド派遣してないじゃん」

「妹さんの前なんだから、そう言ったのよ」


……

…………


「ねぇお母さん。明日本当にドロイド来るのかな?」

「さっさと寝なさい」


 お母さんはピシャリと言い放ち、電気を消して部屋を出て行った。

 あたしはベッドで寝返りをうち目を瞑ったけど、なかなか寝付けなかった。

 

(お兄ちゃんは難しい顔をして、受付のおばさんの話を聞いていたけど……最後には「俺に任せろ」って言ってくれた……でも――)


 ウトウトして夢を見かけていたら、突然部屋のドアが開けられ明かりが灯った。


(……? お母さんかな?)


 目を擦りながら扉の方に顔を向けると、


「コ、ン、ニ、チ、ハ」


 謎のロボットがあたしに向かって機械的な挨拶をしているのが見えた。


 黄金色に輝く金属質なプレートが頭、胴、二の腕、両足を覆って室内の電灯をテカテカ跳ね返している。

 しかし腰の部分はプレートが足りなかったのか、肌色の肉体がちらりと角度によっては覗かせていた。

 極め付けにおかしかったのはそのロボットの金属マスクだ。

 前時代の豆電球のような丸い二つの目をひょうきんに輝かせて、口の部分は常に半開きになっており、中に潜んでいる人の息が苦しげに漏れていた。


 あたしは驚きが過ぎ去ると、その馬鹿馬鹿しい光景に笑いがこみ上げてきたが、ここで笑ってはいけない気がして堪えた。


「こ、こんにちは……あ、貴方がし――」

「コヒュー、コヒュー」


 息苦しいのだろうか、マスクから出る奇妙な呼吸音が大きくなっている。


「あ、あの……この部屋はドロイドには暑かったかしら」

「ス、コ、……シ……ヒュー、ヒュー」


 も、もう駄目だ。

 なんでドロイドが暑がって口からフスフス息をするのか……。


「もう! お兄ちゃん馬鹿じゃないの!!」

「オ、ニ、チ、ガ……プヒュー」

「ふ、ふふふ……息漏れてる……」


 ウチにドロイドを派遣する余裕はないって本当は判ってた。

 当て付けみたいに夢の様なことをまくし立てるあたしを、お兄ちゃんはどんな顔で聞いていたのだろうか。


「ありがとう、お兄ちゃん……このマスク不細工だけどかっこいいよ」

「プスー、プスー」

「き、聞いてる?」


 夢に見た王子様は呼吸艱難になりながら、あたしの元に来てくれた。

 

 機械的な声で兄から『タンジョウビオメデトウ』と言われ、あたしは大いに笑った。

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