file.7 アンドロイドが欲しいもの
「欲張りドロイド……? どういう意味ですか?」
何言ってるのかさっぱりわからん。
「そう、強欲なドロイドがいたら、他のドロイド達もそれを見て感化されるんじゃないかしら?」
「???」
私が顔中に疑問符を浮かべると、中年の女性は焦れた様にこう返した。
「つまりねぇ、私はドロイドの待遇に不満を持っている『ドロイド人権団体』のメンバーなのよ」
「え……?」
ドロイド人権団体――
この団体のメンバーは「ドロイドを働かせるなら、彼らにも給料を渡せ」やら「女性ドロイドはガイノイドと呼べ」やら「わたし達はドロイドを友人として扱う」などと主張し、ドロイドに人権を持たせようと日夜活動しているのだ。
わたしの勤める機械人材派遣センター含むドロイドに関する会社を「ドロイドを不当にこき使っている」と断じて目の敵にしており、会社の前で電子プラカードをやたらチカチカさせたり、街宣エアカーで街の空を高速でビュンビュン飛び回って、主張する声が大きくなったり、小さくなったり……うっとおしいことこの上ない。
このような営業妨害をものともせず行う、ドロイド関連の事業に携わるものにとっては、やっかいな団体なのだ。
「わたし達だって貴方達に仕事なんか頼みたくないけど、ひいてはこれがドロイドらの為になるのよ」
「はぁ……しかし強欲なドロイドを作成することが、どうして他のドロイドの為になるのですか?」
先ほどから考えているのだが、わからない。
「つまりねぇ、わたし達はドロイドを進化させたいの。人間がどうやって進化してきたか……手で道具を作り、それを使うことで脳を働かせ、知能が産まれたから……貴方はそう考えているでしょう?」
「んへ? 私ですか? え、ええ、多分そんな感じで猿から進化したんでしょうね」
「違うわよ! 『欲望』がサルを進化させたの! 欲しいものを手に入れるために試行錯誤したから、知能がうまれたのよ。その理屈で言えばドロイドにも欲が産まれたら、彼らの進化を促す起爆剤になる。考えても見て? 貴方は次の種の誕生に立ち会えるかもしれないのよ?」
なるほど、わからん。
有機体と無機体で同じ理屈が通用する訳ないと思うのだが……。
彼女が本気で言ってるのかは判らないが、商売をする余地は残されているかもしれない。
「面白い説ですね。それでしたら、こんなドロイドは如何でしょう」
「え? 存在するの?」
……
…………
「鉄子、あの団体のメンバーにドロイド派遣したのか!? 変わったことするなー」
「今日の私は良い仕事ができたと思うわ。新しい鉱山を見つけたようなものよ」
「依頼人が希望するのは『欲望を持ったドロイド』か……そんなの作っても邪魔なだけだろうに」
「そうでもないわ。ドロイドの欲望とは『神への奉仕』よ。私達の良き奴隷で居ることが彼らの望みなの」
「え……鉄子まさか……それそのまま依頼人に言ったのか?」
「ふふ、彼女は黙って聞いていたわ。私が派遣したのは、その意味では確かに『強欲ドロイド』というわけ。それも一級品のね」
「品っておい」
「そのドロイドは家事炊事育児を全てこなし、さらに! ステルス機能が付いてるの!」
「ステルス? 家事手伝いが姿を消せて何のメリットが?」
「人知れず彼女に奉仕するためよ」
「な……」
「何故彼女はあの団体に所属しているか? 言うまでもなく『権利を主張してどこからかお金を取る為』よ。『ドロイドのことなんか本当はどうでもいいの』。けれどその代償としてメンバーはドロイドを雇えない……団体の方針に反するからね。『本当は彼女達も奴隷が欲しいけど、団体の給料やら、寄付金やら、政治資金も魅力的』なのよ。そこであのドロイドの登場ってわけ! ステルス機能のお陰で、所持してることがバレないのよ! 彼女も『私達への奉仕行為そのものが、ドロイドの欲しいものなら仕方ない』って納得していたわ! 欲深いドロイドは、例え神が望まなくても奉仕せずにはいられないのよ。彼女は営業妨害の為に、欲望やら進化やら話していたのかも知れないけど、結局営業できちゃったわね!」
「……なんて欲深いんだ」
「『欲しいものを手に入れる為に試行錯誤する』そうしてわたし達は発展して来たんでしょう? 強欲なのはそう悪いことばかりでもないのかもよ?」
※この話に出てくる団体は架空のものです。2016年の人類には一切関係がございません。