file.4 劇団機械座
「ええ? サーカス団員に欠員が出たから誰か派遣して欲しい!?」
私が電話口に大きく聞き返すと、その向こうの声は至極当然とばかりにこう続けてきた。
「うむ、その通り。なぁに、芸をやらせたりはしないよ。壊してしまっては弁償しなければならないのだろう? そんなことはないようにするよ」
「それはもちろんですが……あ! 裏方の仕事ならドロイドにピッタリですものね! わたし勘違いしていたようです」
私はやっと合点がいった。
機械には行動の優先順位があり、顧客の命令は基本的に従うが、危険なことはさせられないのだ。
1.人命優先
2.自己優先
3.命令優先
といった順位である。
商品が簡単に壊れては困るから当然の処置であるが、ドロイドは人間の危険を看過してはいけない原則があるので、一番は人命なのだ。
そのため人を救う為なら危険なことを躊躇無くやり遂げるが、そうでなければ基本的に自ら危険に近づかない。
火の輪くぐりや、綱渡りなど命令されても拒否するだろう。
「原則は知っているよ。雑用を頼めるドロイドを派遣して欲しい」
「はい……あ! そうだ! 先日裏方仕事にぴったりなものを博士が開発したんです! そのドロイドは如何でしょう?」
「む? どんなのかね?」
……
…………
「鉄子、あのサーカス団潰れたらしいぞ。ドロイドに芸させていたのがバレたんだってな」
「……知ってる。上司に散々絞られたわよ」
「機械に芸させて金を儲けようなんて、太い腹してるよな。どんなドロイド紹介したんだ?」
「体の色々な部分が独立してて、分離しても個別に動かせる新型ドロイドよ」
「なんでそんな機能を……?」
「一体で効率よく何人分も働くためよ。見た目はグロテスクでも裏方なら問題ないと思ったんだけど……胴体切断マジックの芸にするなんて……種も仕掛けもないマジックね」
「(鉄子はバカなのか?)……そ、そうか……なにが売り物になるかわかんねぇな」
「だからこの仕事も遣り甲斐があるんじゃない。さ、切り替えて商売していきましょう」
「ちなみになんでバレたんだ?」
「観客がそのマジックの真偽を巡って流血沙汰の喧嘩をしてたら、箱から切断されたはずの下半身が飛び出して止めにきたんだって」
「……すごいオチだな」