file.3 ワシを愛してくれる機械
「貴方を愛してくれるドロイドですか? ウチはそういったものをデリバリーする会社では……」
私が若干引きながら答えると、老人は呆れたようにこう返した。
「バカ者! ワシが年甲斐も無く、そんな淫らなモノを欲しがると思ったか! 愛と言っても……例えばワシの話を黙って聞いてくれるとか……肩たたきをしてくれるとか……そう、ワシの孤独を埋めてくれる人材が欲しいのじゃ。それが叶うならその人材が例え機械でも構わない。ワシはずっと一人で生きてきたが、今になって血を分けた子供のような存在が欲しくなった……何とかならんか?」
「むむ、失礼しました……お孫さんのようなドロイドが欲しいのですね……でしたら、ぴったりのものが御座いますよ!」
私は笑顔で『孫型ロボット』の概要を説明し始めた。
独り身が寂しい老人方がよく頼まれるこの機械人材は、私から見ても実際よく出来ていると思う。本人のDNAを元に人格AIを形成し、血の繋がりを感じさせることに成功した世界初のドロイドなのだ。社で2番目に多い依頼なので私も気が軽い。
しかし彼は首を振って、その機械はいらん、と呟いた。
「え? でも、お孫さんが欲しいのですよね?」
「出来ればワシ好みに成長させたいのじゃが……そんなのはないかのう?」
……変態だ!
「え、えぇと……そうですか……でしたら、こんなドロイドは如何でしょう?」
……
…………
「鉄子くん、またあの型番が派遣されたようだね」
「ええ、所有者の言葉を覚えて、その人が望む行動を取るようになる自己進化AIを持った女の子ドロイド……うちで1番多い種類の依頼ですね」
「独身男の末路は寂しいな。とは言えうちも商売。需要があるなら答えてあげるのが、世の情けさ」
「こんなのばかり紹介していたら、社のイメージが悪くなると思うんですけど……」
「何を覚えさせようが個人の勝手だよ。うちには関係ないし、キミが気にすることじゃない」
「私、一度帰ってきた子の回路を覗いてしまったんです……見ずに初期化すれば良かった。あんなに醜いものは……見たことがありません」
「それがその老人なりの愛し方だったんだよ。愛が全て美しいものとは限らない……男の愛はつまるところ支配欲なのかもな」
「彼は自分を愛してくれるドロイドを所望していたのですが」
「愛されたいってのは、自分に都合よく動いて欲しいって事だよ。その点彼は不能で、彼女は機械だ。何の穢れも、性欲も関係ない、美しい関係じゃないか。次こそ女の子ドロイドが綺麗になって帰ってくるかもしれないよ?」
「欠片も信じてないくせに」