file.2 上司
「え? ドロイドの部下が欲しいんですか? 簡単な業務しかこなせませんが……それでもよろしいですか?」
私が聞き返すと、依頼してきたその中年の男性は鷹揚に頷いた。
「構わん、ただし人間らしいドロイドが欲しい」
(また変な依頼だなぁ……個人として会社の仕事に対する依頼をしてくるなんて……)
人間らしいアンドロイド――意味が漠然としすぎている。ここはよくよく注意して話を聞かないと、クレームに繋がりそうだ。
「人間らしい……というと……えぇと口答えする、とかですかね?」
「そうだな、たまにはそれもいい。しかし与えられた命令は必ずこなし、酒の誘いは絶対に断らず、俺を尊敬して話を積極的に聞き、こちらの仕事を増やさず、俺を立てて、好いてくれれば良い」
(全然人間らしくない……)
こっちも商売だ。口には出さず、さっさと話を進めよう。
「でしたら、こんなドロイドは如何でしょう?」
「言い忘れていたが、俺は人事課だ。多少の融通は効くから、その辺はこっちで処理するからな」
……
…………
「んで、どうなったの?」
「なんとか思考ルーチンをそれっぽく纏めたドロイドを派遣したわ」
「ふぅん、その会社ずいぶんいい加減なんだな」
「ふふふ、本当よ。依頼した方の上司が、そのドロイドを気に入って昇進させたんだから」