file.1 僕が死んだら悲しんでくれるロボットをください
(最近変な客が多くて困るなぁ)
「まぁ、ご冗談を。機械に感情はありませんよ? 決められた反応を返すだけです」
私は感情をおくびにも出さず、事務的な返答を返した。すると依頼した男は憤った形相でこう返した。
「僕は本気です。ここは個人の要望に応じたロボットを派遣して成り立っている会社なんでしょう? 少しはそれに沿おうと努力してください」
私はため息を1つ吐きながら「少々お待ちください」と呟いて、業務用PCのモニターに向きなおして、データベースに目を通すことにした。
男の言う通り、私が勤めるこの「機械人材派遣センター」は名の通りアンドロイドと呼ばれる、人のように動く機械を派遣して働かせ、その収益で成り立っている。
「人の形を模した小回りの効く便利な機械」それが人々が持つアンドロイドの認識だ。しかしそれは個人が所有するには余りに高価で複雑なシロモノであり、メンテナンスや複雑な回路の操作などはわたし達が行い、それを派遣することで暮らしに役立っている。
その依頼の大半は家事代行や、簡単な軽作業に留まっている。それはまだ彼、あるいは彼女らが「感情」という曖昧なものを有していないからだ。
先ほどから貧乏ゆすりをして待っているこの男は、そんなことも知らずに依頼してきたのだろうか。
――僕が死んだら悲しんでくれるロボットをください――
開口一番にこう言われては、冗談と受け取るのは当然であろう。しかしまだ彼は「ドッキリ成功」の看板を持ち出してはこない。期待していなかったが、どうやら本気で依頼してきたらしい。
(……逆を言えば「この人が死んでも誰も悲しまない」ってことね。寂しい人生を送ってきた人なんだわ)
「こんなドロイドは如何でしょう?」
と言って私はキーボードを叩く手の動きを止め、モニターが彼に見えるようにした。ちなみに口で説明する際「アンドロイド」では長いので「ドロイド」と略すのが一般的だった。
……
…………
「で、鉄子は何を紹介したんだ?」
「極普通の家事手伝いドロイドを、その人とだけ意思の疎通が出来るように改造して派遣したのよ。もう私にも戻せないわ」
「……ん? 意味が分からないぞ」
「最初は彼もそう言っていたわ。でも考えてみて? 彼が居なくなったらそのドロイドは一人になっちゃうのよ。必死に貴方を世話したり、コミュニケーションを取るよう動き、当然貴方が死ねば悲しみますよ……って説得したわ。そしたらそのドロイド製造費2体分のお金で売れちゃった。維持、管理費は別だから大儲けよ」
「依頼人はそれで納得したのか? 機械に感情はないだろうに」
「そうかしら? 先月ドロイドが役目を終えて帰ってきたんだけどね……ジッと私を見て何か話しているのよ。意味わかんないし役立たないから廃棄したけどね」
「最低だな」
「わたし達は意思の交流が出来て幸せね」