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file.10 アンドロイドは「電気シープの夢をトゥギャザーしようぜ?」と言った

「機械のペットが欲しいのですか!?」


 私は椅子ごと倒れて、後ろ向きにドテーッとずっこけてしまった。

 前時代過ぎる反応をしてしまったわけだが、これは仕方ない面もある。


「あのですねぇ……ウチは機械の人材を派遣している会社ですよ!? オモチャ屋さんとは違うんです!」 


 デパートでも売っている玩具を、なんでわざわざウチが作らにゃならんのか。

 私が起き上がりながらそう気炎を吐くと、中年太りした女性は面倒くさそうに返してきた。


「判っているわよ、そんなことぐらい……でも私が欲しいのは『AIB○』みたいな無機物ではなく、命を所有したいの」

「すればいいじゃないですか!」

「い、や、よ! 動物なんて雑菌にまみれた生き物を家に置くなんて耐えられないわ! けれども私は子供に生物を飼う責任や感覚を教えたいの。あなた何かアイデア出しなさいよ。CMで『相談承ります!』って言ってたでしょ」


 子供の情操教育の一環ということか。

 言っていることは判らなくもないが……。


「ううん……しかし機械は生き物とは根本的に違うので……」

「なら、こことの付き合いもこれっきりよ」


(……パソコンに上司からのメールが届いた。『彼女は金払いの良い上客だ。帰しちゃダメだぞ(顔文字)』か……。はぁ、またなんか屁理屈を考えるか)


「ええい判りました! こんなドロイ――じゃない! こんな機械は如何でしょう」

「あ、そうそう機械の外見なんだけどね――」


……

…………


「まぁペットを飼うと子供の感受性は養われると思うぜ? 俺も子供の頃飼ってた犬が死んだときは泣いたからな」

「そうね、私もそこは否定しないわ。けれどウチもついにここまで追い詰められたか、と思うと……頭が痛いわ」

「何に追い詰められたんだよ……。上客を大切にして規則をちょっと変えるくらい当たり前だろ? 銀こ――」

「まぁ、そこはいいわ。ともかく今日のお題は『子供に命の価値を教えられる機械とはなにか』よ!」

「命か……生物じゃない以上、どうやっても無理なのでは」

「そう! 機械は無機物よ! それを如何にして『命があるように見せかけるか』の話なの」

「なんか嫌な予感」


「生きる事は、死を想う事と同義! つまり○○ータイマーをセットした機械のペットを派遣すれば良いのよ!」


「……」

「……」

「そんなの普通に売ってるだろ」

「あの親が付けた注文に『本物と見分けが付かないもの』と言うのがあったの。そんな精巧なモノまだ市場に出回ってないでしょ。ウチの技術ならまぁ、子供くらい騙せるでしょう」

「不良品売りつけてるだけの様な……」

「死なない機械が完成品で、命を持つわたし達が不良品だというの? あのペットは限りのある時間を手に入れた、つまり死が存在するからこそ生きることが出来るのよ」

「機械もいずれ壊れるだろ」

「壊れるのと死ぬのは違うでしょ」

「……う、ううん?」

「依頼人は満足したんだし、これでいいのよ。それに死の演出を設定するのは、気が滅入ったわよ……そのタイマーが発動すると、機械はだんだん動くことが少なくなって――」

「うわ、聞きたくない」


……

…………


 お母さんが帰ってくると、居間には大きなプレゼント箱が置かれていた。

 私は嬉しくなってその箱に飛びついた。


「わあ! お母さん、この箱開けていい?」

「ええ、貴方がほしいものが入っているわよ」


 言われた通りに私がその箱を開けると、中には大きな犬が入っていた。赤茶色の毛並みが美しく光り、つぶらな瞳をこちらに向けて潤ませている。箱の中で四肢を器用に曲げて、お座りの状態でゆっくりと呼吸していた。

 私が手をそぅっと犬のおでこに向かわせると、ほんのりと温かみを感じた。

 犬は撫でられて嬉しくて堪らないのかハッ、ハッ、と息を弾ませながら、尻尾を揺らして箱の側面にパタパタ当たった。


「カワイイ! ……けどお母さんアレルギーだから飼えないって言ってなかった? いいの?」

「ええ、この犬は品種改良していて……その……なんかイイヤツだから大丈夫なのよ」

「やったぁ! 機械の玩具なんて、もう飽きちゃったもん! ありがとう!」

「ふふ、今度は長持ちするようにするのよ」

 

 その娘の部屋のゴミ箱には、手足が取れてガラクタになった犬の玩具が捨てられていた。

 犬は首をクイと首を傾げて、少女の鼻をペロンと舐めた。


「お前! くすぐったいぞ……ふふふ」


 少女は顔中に笑みを浮かべて、犬を撫で回し続けた。

 

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