file.9 人と――
「――ドロイド!? いやいやマズイですってそれは! ウチではお引き受けできません!」
私は今まで沢山の顧客と向き合ってきたが、今回の依頼が一番アンタッチャブルな領域に近づいていると感じた。
男はそんな私を安心させるかのような、満面の笑みでこう返してきた。
「大丈夫だ、問題ない。これはその――の上の方から言い出してきた依頼だが、公に行うわけにはいかないだろう? だからこんな民間の部門に頼んでいるのさ」
「で、ですが……もしドロイドである事が露見してしまうと……」
「その点は心配要らない。――にもいずれ納得させるさ。ともかく俺達のグループは、あのお方が生きていらっしゃるうちに、ありとあらゆる情報を収集していた……君は記憶チップを知っているか?」
「え、ええ……個人の情報全てを、そのチップ1枚に入れることが出来る機械ですよね」
「ああ。後は器があれば、あのお方は本物の――として、この世に御光来なされるんだ」
(狂っている……何が彼をここまで……)
「あ、あの……この件は私一人の手には」
「ほれ、見積書」
!!??
「え……なんですかこの……え?」
「もちろん、上司と相談してくれ。ただし内密にな」
……
…………
「鉄子最近はぶりが良いな。何かあった?」
「そうね、――は救われるって事かな?」
「は?」
――は幸せだろう。
唯一無二の存在を心から信じられるなら、この世の他の事象は全て有象無象に過ぎないだろうから。
その――から搾取する者も幸せだろう。
心を掴むノウハウ、疑う者から迫害されるリスク、それらを背負って労働の喜びをかみ締めているのだから。
そして、私も今幸せを感じている。
これも――のおかげだ。
……
…………
先日私の祖父が亡くなった。
49日も過ぎ、ようやく心の整理が付き始めた頃、自宅のパソコンに一通のメールが届いた。
「人は死後どこへ向かうのか。貴方は知りたくありませんか? わたし達は」
私はそのメールを一瞥してすぐ消去した。
(何時の世も、人心に付け込む――は人の皮を綺麗に被っているものなんだ)
私は心の黒いモヤを払おうと、化粧を念入りに整えてから会社へ向かった。