コロンビア号
やばい
「聞こえるか?俺だ、家康だ。今現着した。彼女の特徴を教えてくれ」
コロンビア号から家康は現代のポテトと通信した。
「うわ、すげえ、ってか爺ちゃん、声若返ってますけど。どちら様?」
「いいから早くしろ、時間がない」
家康の若々しい声に吹きそうになりながらも、ポテトはゴーストに尋ねてみた。
「ゴーストさん、その彼女の容姿とか特徴を教えてもらえますか?向こうで爺ちゃんが彼女さん、探して引き合わせるので」
ゴーストは、
「マイフェアレディにも出てたグラディスクーパーを幼くしたような感じの顔ですね。こういうのもアレですが、とてもかわいいです」
……
「爺ちゃん、マイなんちゃらに出てたナーホニャララ……を幼くした感じの人だって。結構かわいいってさ」
通信を受けた家康は、
「ナーホニャララ?女優か?聞いたことないな」
この爺さん、ボケてんのかマジなのか……
「ごめん、そこは聞き取れなかった」
「……馬鹿もの!ではそれ以外の身に着けてるものとか、その時どこにいたのかを聞け」
するとゴーストが、
「あー、ちょっとごたついてるみたいなんで、ヒントを差し上げます」
見かねて助けてくれたよ
「私、その時は浮かれててバーにいました。デッキ上でのプロポーズが成功した日なんです。まさかそんな日に沈没するなんて、とんだ意地悪な神様もいたものですが……とにかく、酔いつぶれてしまって、部屋までたどり着けなかったんですよ」
と説明をくれた。
とりあえずポテトは、バーに行けばこの人に会える、という情報を家康に伝えた。
「あとは、彼女さんはその時どこに?」
「たぶん部屋にいたかと思われます、時間は深夜だったので。2等客室の224号室、そこが私たちの部屋だったと思われます」
それを聞いて、
「爺ちゃん!彼女さんの居場所も分かったよ!224号室だって!」
それを聞いた家康は、ガッツポーズをした。
「情報は揃った。あとはこのピースをはめれば終いだな」
懐中時計を見た。
残り時間はあと50分を切った。
黒いコートを振り乱して、家康はバーのあるところに向かおうとする。
しかし、現在地がまず分からない。
場所はランダムで転送されるため、例えば船底に転送された場合、その時点で詰みとなってしまう。
だが幸い、ここは客室のある廊下のようだ。
部屋が何個も並んでいる。
ふと見ると、320、という数字が扉に書いてある。
「ここは3等室のフロアのある部屋か、なら1個あがって224号室に向かい、彼女と先に合流してバーに向かえばいい」
そう思い、上に上がる階段を探す。
「こっちか」
3等客室のフロアだけあって、絢爛豪華な装飾は施されていない。
客のほとんどが旅行目的とは違うものなのだろう。
階段を駆け上がると、違和感に気が付いた。
「傾いている?」
浮遊体で感じなったが、よくよく見ると明らかに右の壁が斜めだ。
「こいつは……すでに事後か」
そうだ、さっきから妙に人の気配を感じないではないか。
死後1時間前なら、もっとパニックになっていてもおかしくないのだ。
おそらく、今頃デッキの上に避難し、救命ボートに乗り込んでいる最中なのかもしれない。
そして、もしその状況が頭の上で行われているのだとすれば、かなり面倒なことだった。
「……」
不安を抱きつつも、家康は2等客室のフロアに出て、224号室へと向かった。
案の定、彼女の姿はそこになかった。
「くそ、もし上の人混みに紛れていては、探すことは相当に困難だぞ」
家康もこの有名な事件については少しばかり知っていた。
乗客は1500人以上、そして、用意されいていたボートは1000名未満の分しかなかったという。
だが、その時ひらめいた。
「確か、レディーファーストの根付くこの国では、女性、子供を優先してボートに乗せていたはず」
もしそうなら、男、女と振り分けができている。
だから1500人のごった返した中からしらみつぶしに探す手間は省けるだろう。
だが、またあることに気が付いた。
「まてよ、彼女はそのままボートに乗ると思うか?いや、ロバートを探すに違いない。そして……バーのある方に向かう!」
彼女の行動を先読みし、バーに向かおうとする女性を探せばいい。
それが彼女に違いない、と思い、家康はデッキに出て行った。
船底にたまった水のせいで、少しずつ船は傾いていた。
ミシリ、ミシリ、と妙な音を立てている。
デッキの上では、人が動けないほど密集しており、女性、子供が優先してボートに乗せられている真っ只中であった。
家康は浮遊体のため、ほとんど重さがない。
ジャンプで人の頭から頭を飛び越えていく。
「なんだあれはっ」
誰かにそんなことを言われたが、無視だ。
デッキの手すりの上に着地して、周りを見渡す。
「これじゃあ、彼女がこの中にいても身動きが取れないぞ……」
懐中時計を見た。
残りあと30分だった。
ロバートを見つけ、こうなったら怒鳴り声をあげて彼女を探すか、そう思った時だった。
ミシリ、という音がゴゴゴゴゴ、という音に変わった。
そして、船が真っ二つに裂けたのである。