8話 決闘2
今回の話は短いです。
作者が学年末試験との戦いを始めるのでこれから一週間更新が出来ないと思います。すいません。
俺は相手の神経を逆撫でるように、精神を煽るように、あえて挑発するような調子で言う。
「一体いつからお前とユーナがデュエルをすると錯覚していた?」
「・・・は? 君は何を言っているんだ」
「つまり、あんたがデュエルする相手は俺ってことだ。そうだな・・・、俺が勝ったら今日1日、あんたの所の副リーダーを俺に貸してはくれないか?」
俺の言葉を聞いていたサクマの顔に、怒りの表情が見え始める。どうやらしっかりと挑発には乗ってくれているらしい。こちらを見ているユーナも驚き、目を大きく見開いている。
「君は自分が何を言っているのか分かっているのか? ちっ、これだから初心者は嫌なんだ・・・。さっきも言ったが僕は中級職の剣士だぞ! しかもレベルは10! クラスを進化させレベルが1に戻ったが、もう10まで上げたんだ。それに対して君はどうだ。その貧弱そうな装備とこの天職の神殿にいることから察するに、たった今初期クラスの魔術師を選択したばかりなんだろう? そんな奴がこの僕に勝てるわけ無い!」
サクマの余裕を持った顔つきはすでに見る影も無く、口調も少し荒っぽくなっていた。
おうおう、元気が良いなぁサクマくん。何かいいことでも(以下略
さて、ここまで冷静さを欠いておけば十分だろう。それでは、最後のひと押しといこうか。
「やってみなきゃ分からないだろう? それともあれか? 俺と闘うのが怖いのか? ここまでレベルやクラス、装備に差があるのにも関わらず、初心者の俺から尻尾を巻いて逃げるのか? ビビり屋だなぁ。サクマちゃんは」
おっと、最後の余計だったか。
「お、お前! 言わせて置けば、ずいぶんと調子に乗りやがって! 良いだろう。徹底的にぶっ潰してあげるよ! 」
怒りの頂点に達したサクマは、握っていたユーナの手を離して「メニューオン」と叫び、呼び出したメニューを素早く操作する。
ピコン。
その動作が終わるのと同時に、俺の目の前に一つのメッセージが現れた。
『プレイヤー、サクマ から決闘を申し込まれました。承諾しますか? Yes/No』
もちろんYesだ。ユーナが心配そうに俺見るがそれに対して俺は彼女に力強く頷いた。
俺がメッセージボードの選択肢にYesで応えると、すぐにメッセージが切り替わった。
『決闘を承諾しました。ルールを設定してください。 一本勝負/得点試合/死合』
このゲームMSOには、HPが減らない街中でもプレイヤー同士が戦うことの出来るシステム、『決闘システム』が存在する。
ルールは全部で三種類、一つ目は一本勝負。その名の通り、相手より先に有効打を取った方の勝ちというルール。二つ目は得点試合。これは3分間でダメージポイントを競うルール、いかに相手の攻撃を受けずに自分の攻撃を与えるかが勝負のカギとなる。三つ目は死合。これは二人を囲むフィールド内のHP保護が消滅し、相互に本当のダメージが通る。このルールでの勝利条件は、相手が降伏するか相手をキルするかのどちらかしかない。
これらは全て片方のプレイヤーがデュエル申請を送り、もう片方がそれを承諾することで初めて成立する。
そして重要なのはココ。この時、デュエルのルールの決定権は申請を送った側ではなく、受けた側がルールを設定できるということ。
そう。俺がサクマを挑発し、あくまで受ける側としてデュエルに持ち込んだのはこれのためだったのだ。
え? わざわざそんなことする必要があったのかって?
いやいや、考えてもみてくれ。今現在、俺の置かれている状況を。そして比べてみよう。目の前のイケメン君とこの俺を。
俺は下級クラスの魔術師でレベルが1、装備は防御力皆無な魔術師のローブと小さな剣。対するウザメンは中級クラスの剣士でレベル10、無駄な装飾があるもののかなり頑丈そうな鎧とリーチの長い大きな剣。
いくら俺が凄くてもこの差で正面から戦ったら、流石に勝てない。
なのでここは俺が立てた完璧な作戦のもとで行動をしようと思う。
名付けて、『見た目は初心者、頭脳はプロゲーマー並、名探偵クロノ作戦!』
まあ、簡単に言ってしまうと、さっきまでの様子からサクマは俺のことをVRゲーム初心者&魔法を使う魔術師として見ているのは明確である。
油断をする、又は様子見をするデュエルの開始直後に無詠唱のステップで間合いを詰め、強烈な一撃をお見舞いする。ただそれだけの作戦だ。
非常にシンプルではあるが、相手の心理状態を利用し、今現在自分が使える全力を活用した作戦だ。我ながら良い作戦であると自負している。
「おい、早くルールを決めろよ。どうせどんなルールになったって君がこの僕に勝てるはずが無いのだから!」
こんな所に慢心王が・・・。まあ、そこまでいうのなら遠慮なくやらせて頂きましょうか。
俺はルール、一本勝負を選択した。
『60秒後に決闘を開始します。60、59、58、・・・』
60秒のカウントダウンが始まった。
「そこで見ていてくれユーナ! 僕以外に君のパートナーが務まる者などいないことを証明するよ!」
そう言ったサクマは、大げさな芝居がかった動作で背負っていた長剣を引き抜いて構えた。
それに続いて俺も背中の剣を引き抜く。俺の剣を見たサクマが嫌な笑みを漏らす。
「クックック、どうやら君にはゲームの知識もないようだ。魔術師が片手剣をもってどうする? 杖だよ、杖。魔術師の長所は遠距離からの魔法攻撃だ。こんなの子供でも知っていることだよ」
非常に不愉快だ。俺は魔術師になりたくてなったわけじゃないのに。声には出さないが。
その後もサクマは俺の装備を見て笑っている。どうやら俺の斬新なファッションがよほどお気に召したらしい。
ふとユーナ見てみると俺に向かって全力の土下座をしていた。そこまでしなくていいのに。
そんな様々な思考やらなんやらが交差する中、デュエル開始のカウントが刻々と0に近づいていく。
【無詠唱】
クロノが他のVRゲームで編み出したシステム外スキル。
スキルや魔法に必要な詠唱、発声を省略する。
【アシストブースト】
クロノが他のVRゲームで編み出したシステム外スキル。
スキルやアーツなどのシステムアシストのパフォーマンスを向上させる。