7話 衝突 と 決闘
俺は魔術師になった。
よってクラススキルにより、魔法の使用に補正がかかる。つまり、魔法を使ったほうが効率的に強くなれる。
だが俺の武器は片手剣、スキルで選択したのはどれも近接戦闘用。これが魔術師であっていいのだろうか?
「それよりも、何かお詫びをさせてくださいクロノさん! このままでは、私の気が収まりません!」
そして目の前にいる金髪エルフことユーナは、さっきからこの調子だ。
彼女は俺にぶつかり、クラスを決めてしまったことをとても申し訳なく思っているらしい。 実際俺も悔やんではいるが、もう過ぎたことだ。なってしまったものはしょうがない。
それにこの神殿に来るまでに色々なプレイヤーがいるのを見たのだが、魔術師も結構な数がいた。
確か、訓練場みたいなところで派手に爆発する魔法をぶっ放していた奴も見た。
ついでに色んな魔法を見て、俺のユニークスキルである【複製魔法】のストックも溜めておいた。いつか使えることを祈って。
というか、本当に見ただけで複製されているのだろうか? 何も、『魔法をコピーしました』とか通知されないからわからん。後で確認してみよう。
俺の本業はあくまで戦士だが、一度くらい魔法を使ってみたいと思ったことはあるといえばあるわけで。
幸い次のアップデートまで時間があるので少しの間、魔術師を満喫してみようとも思い始めている。
だが、何もなしで別れるって言ってもユーナは納得しなさそうなので、とりあえず彼女にはレベル上げか何かを手伝ってもらおうかな。フレイからの連絡も無いし、そうと決まれば早速行動だ。
「それなら、俺のレベル上げを手伝って欲しい。実は、まだレベル1なんだ。あ、それと出来れば魔法についてのレクチャーも頼みたい。もちろん、時間がある時でいいから・・・・・・ダメかな?」
俺がそう言うと、ユーナは目をキラキラさせて即答した。
「いいですよ! というか今から行きましょう! 実は私、結構強いんですよ。 ふふっ♪」
さっきまでテンションガタ落ちだったユーナの表情は一変し、今では形の良い唇を綻ばせ、笑顔を浮かべている。
良かった。少しは元気になってくれたようだ。
「序盤のレベル上げなら良い狩場知ってますよ。そこで魔法も覚えちゃいましょう~!」
そう言ってユーナは、元気良く神殿の出入り口へと向かって行く。
レベル上げは大歓迎である。レベルは高いに越したことはないからな。魔法は…属性魔法スキルを何もとってないな、魔術師になる予定なかったし。
まあ、俺には複製魔法があるからなんとかなりそうだ。
ユーナの後に着いて行こうとしたが、彼女は何かを思い出した様子ですぐに立ち止まってしまう。一体どうしたのだろうか?
不思議に思った俺は、ユーナに問いかけた。
「どうかしたか? 用事ならそっち優先でいいよ」
「ち、違うんです! すいません。私が天職の神殿に来た本来の目的を忘れてました。昨日、下級職から中級職になるためのクエストを達成してきたので、今日はクラスを進化させようと『おーい、ユーナ!』・・・!?」
俺とユーナが話していた所に声が掛かる。マナーの悪いやつだな。
ユーナは自分の名前が呼ばれたことにびっくりした様子で、名前を呼ぶ声が聞こえた方へ目を向けた。それにつられて俺も神殿の出入り口のほうを見た。
そこにいたのは豪華な鎧を身に纏い、背中に一振りの大きな剣を背負ったサラサラ金髪の長身、見た目完璧なイケメンの男だった。
ちっ、人生勝ち組か・・・コンクリートで転んで顔面崩れろ。
すると男は、まるでデートで待ち合わせをしたとき、少し遅れてきた彼女のほうへ駆けていくイケメン彼氏のような雰囲気をかもし出しながら俺とユーナのほうへ走って来た。
うわぁ、やべぇわ。なんか乙女ゲーとかで出てきそうな男だわ。このゲームに爆裂魔法ないかな? もしあったらアイツの顔面に撃っていいですか? 撃っていいですか? エクスプ(ry
男は俺の方を向いて一瞬嫌そうな顔をしたが、すぐさまキラキラスマイルに戻り、ユーナの方を向いた。そして、手で前髪をかき上げる動作をしながら喋り始めた。
「ユーナ、いきなりいなくなるなんて酷いじゃないか。クラスの進化ぐらい、僕で良ければ一緒に着いて行ったのにな。ほら、僕たち同じギルドだろ? 他のメンバーは神殿の前で待ってもらっているから行こう! 今日は攻略最前線のダンジョンに挑戦しようか」
そう言うと男はユーナの手を掴み、やや強引に引っ張ろうとする。
どうやらあれぐらいでは犯罪防止システムとやらに止められるセクハラ行為にはならないようだ。覚えておこう。
こんな状況でも場違いなことを考える俺である。
ユーナはその手をやんわりと振りほどきつつ、静かに言った。
「や、止めてくださいサクマさん。今の私は同じギルドメンバーであってもパーティーではありません。明日は各自別行動にしましょう、と昨日の夜に他のメンバーさんとも話し合ったじゃないですか」
あー、これめんどくさいことになるやつだ。嫌だなー。
二人の言い争いは周りの目から見ればギルド内のちょっとしたいざこざ程度に見られるだろうが、俺には二人とも静かながら心の内では大変なことになっているだろうと推測出来る。
まずはサクマと呼ばれた男の顔を見てみる。キラキラスマイルは今もなお健在であるが、目つきが鋭くなっており邪悪な雰囲気を感じる。
続いてリーナを見てみる。こちらは可愛い笑顔で何とか応戦しているが、若干引きつった笑みを浮かべてしまっている。
俺はこれから起こりそうな厄介事を想像して首を縮めた。
そして今も俺の目の前でサクマとユーナのお話は続いている。やることがないので実況でもしてみようか。
「確かにそうだが、そこは副リーダーらしくこのリーダーの僕に着いて来て欲しいのだが」
「副リーダーの業務は怠っていないはずですよ? それにギルドを結成したときのルールで『強制はせず、楽しくやろう』と言ったのはあなたですよね?」
「うぐっ」
これはギルドリーダーのサクマ選手、押されてきたぞ! が、ここは何とか持ちこたえた様子、反撃開始だぁ!
「しかし・・・、き、今日は最前線のダンジョンでアイテムドロップ率が2倍になっているとの情報を入手したんだ。これは君の装備を強化出来るチャンスなんじゃないのかい?」
サクマ選手の明らかな話題のずらし方に私は謎の感動を覚えました。さて、これに対するユーナ選手の反応はいかに?
「え!? そうなの!?」
おっと予想外! ユーナ選手、簡単に話題を逸らされてしまう。見え見えの罠にハマるこの所業、これはもしかしてユーナ選手はドジっ子属性の他に『アホの子属性』も兼ね備えていた。ということなのでしょうか!?
解説のクロノさん、お願いします。
そうですね。ユーナ選手がアホの子かはさておき、説明書によりますとこのゲーム、MSOには不定期に『アイテムドロップ率』というのが変更されるとの記述があります。そして今日、彼らのギルドが向かうフィールドにはユーナ選手の武器、又は防具の強化を施すためのアイテムをドロップするモンスターがいるのでしょう。しかもそのアイテムはなかなか貴重なんでしょうね。ユーナ選手の反応からも良く分かります。
「で、でも、今日は彼、クロノさんとパーティーを組むって決めたんだもんっ!」
だもんっ! 頂きましたぁ! これは高得点だ。さすがのクロノさんでもこのみだらな表情!
ごほん、ふざけるのはこれぐらいにしてと。流石にヒートアップしすぎたかな。サクマさんが凄い形相でこちらを睨んでくるし。ユーナもそこまで俺に対して罪の意識を持たなくていいのになぁ。
これはGMコールワンチャンか? いやいや、最初の冷静だった二人の様子から察するにあまり事を大きくしたくないようだ。
まあ、もう事大きくなってるけどな。
いつの間にか周りは、野次馬プレイヤーでいっぱいだった。
この場をGMコールせず、双方が納得のいくように収めるには、やはりアレしかない。
もはやテンプレと化したもめ事の対処方法。ということで、俺は一つの提案をした。
「おい、そこのあんた。サクマとかいったか、こういうもめ事が起きたら『決闘システム』で解決するのがこの世界でのルールじゃなかったのか?」
クロノ的にはかっこ良く言えたセリフであったが、サクマはその言葉に対して肩をすくめ、困ったように言った。
「確かにそうなのだが・・・。クロノくんといったかい? 君は初心者のようだから教えてあげるけど、この場合デュエルによる決着をつけてしまうと、いささか不公平であると言わざるを得ない。何故ならば、僕のクラスは見ての通り中級職の剣士、ユーナのクラスは・・・昨日と装備は変わっていないから僧侶系の中級職にしたのかな。考えてもみろよ。戦闘に特化したスキルを持つ剣士の僕と回復に特化したスキルを持つ僧侶のユーナが一対一で戦ったら、剣士の僕が勝つのが道理というものだろ。覚えておくといいよ、この世界の常識をさ」
サクマは、やれやれといった仕草と共に話を締めくくった。ように思われたが、彼は俺に近づき、俺だけにしか聞き取れないように声のボリュームを下げて言った。
「ユーナにどうやって近づいたかは知らないが、ハッキリ言って迷惑なんだよ。初心者は初心者らしくレベル上げでもすればいいんじゃないかな?」
そう言うとサクマは俺に背を向け、再びユーナの手を握ると神殿の出口へと歩いていく。彼の有無を言わせないその勢いに、ユーナはおろおろとしている。
彼女が俺にすがるような視線を向けてきた。
ブチッ。
それを見たとき、俺の中で何かがキレる音がした。
いつも温厚な俺でもさすがにあれは怒ってもいいよね?
あの俺を見下したような態度。欧米人のような大げさなジェスチャー。イケメンな顔。どれもイラッとくるが、そこまでは許そう。しかしだ。何よりもムカつくのはアイツの勝手な都合でユーナを嫌な気持ちにさせたことだな。
どうやら一般常識として持っているはずのものが、これはゲームだからと言ってケタが外れてしまっているようだ。
ふん、良いだろう。いつしかトッププレイヤーなるため、名を売り出しておこうと思っていたんだ。少し早くなったが何の問題も無い。
俺はサクマのほうへと近づいていく。
「おい、ちょっと待てよ。何勘違いしてんだ?」
「なんだ? まだ何か用があるのか?」
俺の投げた言葉に、明らかに怒気を含ませた返しをするサクマ。彼の機嫌など気にも止めず、俺は高らかに言い放つ。
「一体いつからお前とユーナがデュエルをすると錯覚していた?」
「・・・は? 君は何を言っているんだ」
「つまり、あんたがデュエルする相手は俺ってことだ。俺が勝ったら今日1日、あんたの所の副リーダーを俺に貸してはくれないか?」
さあ、久しぶりのPvPだ。教育ついでに楽しむとしよう。