4話 初戦闘 と プレイヤースキル
「では、いきますか!」
その言葉と同時に俺は飛び出した。
そして、急な加速。風を切る音と共に、更にスピードを上げる。
AGI30ではありえない速度、序盤では到達するはずが無い速度でブレット・ラビットに接近する。
もちろん、チュートリアルで現れるモンスターなのだからそんな速さに対応できるはずもない。
俺は右手に持った片手用直剣で、ブレット・ラビットを文字通り両断した。
ズバァン!!という重い衝撃音が鳴り響く。
その後、両断されたブレット・ラビットは、不自然な形で硬直すると体をポリゴンの塊に変え、辺りに霧散させた。
ピコン。
『経験値を入手ました。ドロップアイテムを入手しました。スキルが解放されました。確認しますか? Yes/No』
振り切った姿勢から元に戻り、左手でNoのほうを押す。すると目の前のウィンドウを消えた。
ふう、こんなもんか。
まあ、序盤じゃ初期ステータスと初期装備だけだと、ここまでで精いっぱいだ。もうちょっとAGIに振らなきゃだめかな。STRの方はこのまま上げていけば問題ないだろう。STR優先ビルドなのに序盤のモンスターをワンパンできないのは結構へこむからな。
そんなことを考えながら俺は、ゆっくりと背中の鞘に剣を収める。
どうやらシステム外スキル【無詠唱】は、このゲームでも使うことが出来るようだ。
技の名前を言う発声のモーションをしなくても、規定された型を構える、もしくは頭の中でイメージが出来れば、アーツは発動する。これが【無詠唱】。大多数のVRゲームはこれを隠し要素として組み込んでいる。言ってしまえば、対モンスターで使い道はあまり無く、PvPでこそ真価を発揮する。ということでこの話は別の機会で。
それよりも先ほどの急加速の正体、それは俺のスキル【ステップ】と、システムモーションアシストの効力を引き上げる高等テクニックの複合技なのだ。
普通、スキルやアーツによるモーションアシストのほとんどは、現実世界の人間の身体能力で行える限界や人体構造の可動範囲を超えて、超スピードで動く。
よって、大体のプレイヤーはスキルやアーツを発動すると、アシストに引っ張られて体が後からついてくるといった感じになる。
もちろん、スキルやアーツはそれぞれに型が確立しているので、発動すれば体がそのモーションに合わせて勝手動くのは当たり前のことだ。
だが、勝手に動くということは、無理やりシステムが体を動かしているということ。言い換えれば、どこかでモーションアシストの動きをプレイヤー自身が阻害していることでもある。
結果、多くのプレイヤーはスキルやアーツの本当の性能を引き出せていない。
しかし、俺の場合は違う。
体が勝手に動くのでは無く、体を意識してそのモーション通りに動かしているのだ。
俺は数々のVRゲームで得た経験と鍛え上げた抜群?の反応速度により、システムアシストの立ち上がりの動きに自分の体の動きを合わせるという、謎の高等技術をいつの間にか習得していた。
結果、システムアシストは本来の動きを阻害されず、スムーズに、そしてより良いパフォーマンスを行うことができたのだ。
つまり、先ほどのステップはただのステップでは無く、本来の性能を完璧に発揮したステップだったのだ。そのステップの速さは、普通のステップの約1.5倍くらいかな?
当然これはゲームなのだから、AGIをもっと振ればステップのスキルに補正が付き、それぐらいの速度は誰がやっても出せるようになるだろう。
しかし、ステータスがものを言うこのゲームでは、AGI45は必要な動きをAGI30で実現させるこの技術を重宝する。何故か?
例えば。
問1 どちらもレベル、種族、クラス、装備が全て同じプレイヤーだが、AGIに振ったステータスポイントが10のプレイヤーAと15のプレイヤーBが戦うとする。Aの方はこの高等技術を習得している、Bの方はそれを習得していない。
さて、どちらがこの戦闘を有利に持ち込めるでしょう。ただし、スキルは使用しないものとする。
一見、AGI10のAは、AGI15のBに負けてしまうのではないかと思われるが、Aの方は技術を駆使して10の1.5倍、15の動きが出来る。すると、引き分けか? いや違う。
同じレベルということは、ステータスポイントも同じ。つまり、AGIを15まで振らなかったAは5ポイント分、他のステータスに振っているということだ。
5ポイント分上乗せされたSTRでBのHPを先に削りきれる可能性だってある。
よって答えは、Aのプレイヤーのほうが戦闘を有利進めることができるだ。
はい。説明終わり。
つまりは、ちょっと自分より強い相手でも互角ステで戦うことができ、余ったポイントを他に回す事ができる技術を持った俺SUGEEEってことです。はい。
これらはあくまで数値面の話で、実戦には不確定要素が付き物だ。プレイヤースキルを重視するゲームだとなおさらに。
だが、勝つ確率は少しでも上げておきたい俺である。
ちなみに本来の性能を発揮したステップを一発で成功させることができたのは、ステップのモーションが比較的簡単だったために起きた結果である。ただ体勢を前に倒れ込むようにしながら足を前に踏み出す、それだけ。これをモーションに合わせる。とても簡単だ。まあ、誰にも教えないけどな!
『チュートリアルは以上で終了です。これからマイストーリー・オンラインの世界へ転移します。あちらの世界の時間は、こちらの時間の2倍で進みますご注意下さい。それでは、いってらっしゃいませ』
現実とゲームで時の流れが違う。取扱説明書や利用規約にも重要なこととして太字で書いてあったな。
2倍で進むってことは、ゲームの中で1日過ごしても、現実では半日しか経っていないことになる。
何とも不思議なことだ。ゲームし放題! いやーこの時代に生まれて来て良かったー。
ガイドの言葉が終わると俺の体は再び転移された。
いつの間にか閉じていた目を開けてみるとそこには、新たな世界が広がっていた。
「さあ、行こうか」
俺は高鳴る鼓動を胸に秘め、マイストーリー・オンラインの世界へ始めの一歩を踏み出した。
俺が転移されたのは、<始まりの街ファストロ>というところだった。
建物はテンプレの中世ヨーロッパ風。
周りを見回すと、俺と同じ初期装備のプレイヤーたちが街を歩いていた。
あ、装備は同じだが、種族が違うな。多種多様過ぎて、街の雰囲気に似合わず違和感MAXだ。
まずは、煌太に連絡かな。それと待ち合わせ場所でも決めておくか。
どうやら街の中心に大広場があるらしい。
メニュー欄から<マップ>を選択して、それを見ながら歩いていく。
さっきの場所は初期装備のプレイヤーばっかりだったが、少し歩き、大通りに出るといかにも強そうな鎧を着たプレイヤーたちや、屋台で不思議な食べ物を売るNPCなどがいてとても活気に溢れていた。
少しすると前方に大きな噴水が目印の大広場が見えてきた。とりあえず広場に入り、近くのベンチに腰を下ろした。
メニューを開いてみる。
「お、あったあった」
ボイスチャット機能。離れたところにいるフレンドまたはIDを登録した人と話せる、とても便利な機能だ。
二つの名前しか表示されていないフレンド欄からフレイ(煌太のアバターネーム)を選択。
・・・・・・つながった。
「おーい煌太、聞こえてる?」
『聞こえてるぜ、てかオレも今かけようと思ってたところでさ。それとここでの俺の名前は<フレイ>だからな』
「りょーかい。で、今どこよ? 俺は大広場って所にいるけど」
『そのことなんだけど、すまん! 予定より遅くなってな、たった今遠征クエストが終わったんだ。始まりの街につくには、まだ時間がかかりそうだ』
「おけ、着いたら連絡くれ」
『でもこれはお前のせいだからな』
「何故に?」
『はぁ、チュートリアルにどんだけ時間掛けてんだよ。何回かボイスチャットしようとしても全然繋がらなかったぞ』
遠くでやや呆れ気味に怒っている煌太の姿が目に浮かぶ。今回はレア種族発見に没頭し過ぎた俺が悪いな。反省しよう。
「あー、そのことについては本当に申し訳なく思っています・・・」
『よーく反省するように。あっちの世界とこっちの世界では、流れる時間の速さが違うからな』
確かに。俺がキャラクターメイキングに掛かった時間がおよそ1時間だから、こっちの世界では2時間も待たされ続けることになるのか。
煌太、スマン。
よし反省はここまで、それにしても煌太が来るまで何をしていようか?。
『そういえばクロノはもうクラスを選択したか?』
あ、クラスまだ決めて無かったな。結構大事なことなのに。
クラスとは、すなわち職業のこと。これを選択することにより様々なスキルを解放することが出来る。
「いや、まだだけど」
『それならオレがそっちに行くまで、クラス決めてレベル上げとかクエストの消化とかしておいてくれ』
そうフレイは言い残してボイスチャットの回線が切れた。
まあ、いつまでも初心者ってわけにはいかないし、早いとこクラスを決めておいて損はないな。
「メニューオン」
確かクラスの選択は・・・・・・あった。<天職の神殿>だ。
とりま行こう。
【観察眼】
種類 AS
消費MP 0
リキャストタイム 10秒
解放条件 種族人族を選択
詳細 モンスターやプレイヤーのステータスを見ることが出来る。レベルを上げると見れる項目が増える。
【ステップ】
種類 AS
消費MP 0
リキャストタイム 3秒
解放条件 最初から解放済み
詳細 相手の攻撃に合わせて使うと攻撃回避、もしくは最小限に抑えることが出来る。相手との間合いを詰める際にも使用可能、その速さはAGIに依存する。