2話 アバター作成 と ユニークスキル
時刻は午後3時半。
食器を全て洗い終わったら家の戸締まり確認する。そしてすぐさま2階へダッシュ。後ろから光梨もついてくる。俺は自室を掃除して、ゲームする環境をしっかりと整えた。
しかしなぁ、光梨がβテスターだったなんて。部屋で何してるのかと思ったらゲーム好きの兄に黙ってMSOだと? 俺の周りは皆、【幸運】スキルの持ち主か!
心の中でそんなことを思いつつも、俺が光梨に向ける表情は、実に晴れやかな笑顔だった。なにせつい数日前までは欲しくても手に入らなかったMSOが、今目の前に、俺のVRギアにセットされているのだから。
「光梨、俺こっちの時間で7時半くらいまで潜ってるから、もし何かあったら外部コールしてくれ」
「わかった! でもその時間なら、あたしも潜ってるから心配しなくていいよ~」
「了解」
二人はそれぞれ自室に入り、同時にドアを閉めた。
俺は、VRギアに妹のIDと煌太のIDを入力する。これでお互いにログインしていても連絡がとれる。
ベッドに寝転んでVRギアを被る。そのまま電源をオン。
『10秒後にログインします適切な姿勢でお待ちください』
なんとなく目を閉じてみる。
一度は買うのを諦めた超人気ゲーム。2週間の遅れをとったが、トッププレイヤーたちに絶対追いついてやる。
と、気合いをいれてみたが、俺は基本ネタバレしない主義なので攻略サイトとか掲示板は困ったときにしか見ない。そこのところは了承して欲しい。
『5、4、3、2、1――』
こうして俺はマイストーリー・オンラインへとログインした。
気がつくと、何も無い白い空間にいた。
突如響く無機質な女性の声。
『マイストーリー・オンラインへようこそ。初めての方ですね。・・・・・・VRギアとの同期を確認しました』
『MSOをプレイするには、利用規約に同意していただく必要があります。利用規約を読み、確認したうえで目の前の【同意する】を選択してください』
利用規約を流し読みして【同意する】を触れる。すると目の前にホロウィンドウとホロキーボードが現れた。アカウントIDを入力して登録完了。ガイドの声に従い、アバター作成画面に移行する。
『アバターネームを決めてください』
ネームか。とにかくかっこよくて中二っぽい名前を付けたいけど、リアルの友達とも遊ぶし、うーん。
・・・・・・よし、クロノにしよう!
どう見ても苗字をカタカナにしただけです。本当にありがとうございました。
『アバターの外見を決めてください』
自分で0からキャラクターメイクをする事は出来ない。容姿はVRギアが自身の体をスキャンしたデータから、髪型や髪の色、目の色なんかを変えられる程度だ。
俺はリアルの顔バレ防止程度に、髪の色を黒から白に、右目の色を茶から赤に変えた。
なぜ、その色したかとあえて言うならば、カッコいいと思ったからだ!
『種族を決めてください。種族によっては、アバターの外見、初期ステータス、解放済みのスキル内容が変更されます』
目の前に沢山のウィンドウが現れる。選択出来る種族は、人族、獣人、エルフ、ドワーフ、小人、妖精、機人、魔人、鬼人etc.
マジか! 種族めちゃくちゃあるぞ。
試しに獣人のウィンドウに触れてみる。
『獣人の種類を選んでください』
ハーフドッグ、ハーフキャット、ハーフバード、ハーフウルフ、ハーフラビット、妖狐etc.
種類も多い! もう一度言う。種類も多い! 何故二回言ったかだって? そんなの大事なことだからに決まっているだろう。
一度前に戻って他の種族の種類も見ておこう。
興味本位で今度はエルフを選択してみる。
『エルフの種類を選んでください』
エルフ、ハーフエルフ、ハイエルフ、シルヴァンエルフ、ダークエルフ、ホーリーエルフetc.
うん、種族の全種類見るだけで一苦労だよ。
とりあえず再び種族選択画面に戻る。
『種族を決めてください。種族によっては、アバターの外見、初期ステータス、解放済みのスキル内容が変更されます』
さすがマイストーリー・オンライン。これなら誰ともかぶらないアバターが作成可能だ。
もし、これがゲーム初心者さんならきっとこの豊富な種類の中から気に入った種族を選んでいただろう。
だが俺には、他のゲームで培った経験と知識がある!
この膨大な選択肢など、細部までこだわっているゲームには、必ずあると言っても過言ではない法則がある。それがこのゲームにも通用することを祈って俺は、選択肢の一番下にある『ランダム』を選択した。
ここまで作り込まれているゲームなら絶対にあるはずだ。アレが!
目の前に、狐の耳と九本の尻尾を付けた半人間型のアバターを映したウィンドウが展開された。
『獣人の【妖狐】でいいですか?』
「いいえ」
1回じゃさすがに出ないか。まあ、1回で出たらレア種族でも何でもないからな。
再びランダムを選択する。
『機人の【マシンナーズ】でいいですか?』
いいえ。ランダム選択。
『鬼人の【ヴァンパイア】でいいですか?』
ランダム。
『妖精の【サラマンd「いいえ」
どうやら運営は、やり直しがきくランダムのシステムにしたが故にレア種族が出る確率を相当抑えているようだ。そうであって欲しい。
このあともランダムを繰り返した。
何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
そしてついに出た! 種族選択に無かった隠しレア種族!
『神族の【ハーフゴッド】でいいですか』
「おぉ! やっとでたぁ~」
自分との戦いに勝利した瞬間である。
ゲーム開始前にここまで時間を取られるとは。だが、何とか手に入れることができた。
あると思っていたよ。ランダムでしか出てこないレア種族が。
ちなみにレア種族は、攻略サイトを見て知ったわけではない。本当だ。信じてくれ。
アナウンスの問いかけに、はい。と答えた俺の目の前にハーフゴッドの説明が現れる。
【ハーフゴッド】
<半神>とも言われる。神様と人との間に生まれた奇跡の子。
若干神力を持っているが、あとは普通の人間。
初期ステータス補正は、種族【人族】と同じ。最初の解放済みスキルは、少し神っぽくなっている。
あれ? なんか説明を見ると強そうに見えないのだが・・・。ていうか神っぽいって何ですか?
まぁ、レア種族には変わりないし、次に進もう。
『ステータスを決めてください』
次はステータスか。
攻撃力のSTR
防御力のVIT
知識力のINT
精神力のMND
器用さのDEX
敏捷性のAGIで6つ。
最初に振り分けることのできるステータスポイントは全部で60ポイント。このゲームは、1レベルアップで3ポイントしか得られない。よって、良いビルド構成で良いスタートダッシュを切れるかどうかは、ここで決まると言っても良い。
まぁ俺の場合、すでに2週間遅れているが。
ステータスを平均的に振ると、器用貧乏になりやすいのでここは、一つか二つにステータスポイントを集中するほうが良い選択だ。ちなみに俺は、他のゲームでもずっと近距離戦闘で活躍するタイプのビルド構成だったので今回もそれでいこうと思う。
ネタビルドに走ることはしない。絶対にだ! え? フラグ?
種族補正(神族なのに人族レベル)により、全パラメータ10UPの状態からステータスを割り振っていく。
ハーフゴッド不遇すぎる。一応神だし、きっと後から強くなるタイプの種族だな。・・・大丈夫だよね? ね?
STR:10
VIT:10
INT:10
MND:10
DEX:10
AGI:10
残りステータスポイント:60 ↓
STR:50
VIT:10
INT:10
MND:10
DEX:10
AGI:30
残りステータスポイント:0
こんな感じかな。
VITに振って堅い前衛も考えたが、AGIに振ることにより得られる素早い動きで敵の攻撃を回避する。そして隙をついてSTR優先の重い一撃を入れる。これが俺の描いたバトルスタイルだ。
『最後になります。スタート時、所持する武器を選んでください』
短剣、片手剣、両手剣、短槍、小斧、片手棍、弓、短杖、短銃、銃剣、刀etc・・・・・・。
「何も考えず、片手剣一択だろjk」
ということで片手剣を選択。
そのあと細かい設定を終えて遂に自分だけのアバターを完成させた。
『以上でアバター作成を終了します。本当によろしいですか?』
「はい」
躊躇わず応える。
右上にある時刻表示を見ると、時刻は既に4時半。アバター作るのに1時間も掛けてしまった。
もちろん1時間掛かった原因のほとんどは、隠しレア種族に情熱を注いだ俺のせいだ。
チュートリアルはスキップできるが、しない。操作方法を知っているのと知らないのでは、ゲーム進行速度に差が出る。周りから素人だと思われても嫌なので、基本操作ぐらいは覚えておこうと思う。
『アバターの作成が完了しました。このアバターのユニークスキルを解放します』
『ユニークスキル【複製魔法】を手に入れました』
そしてこれがこのゲームの最大の特徴、『ユニークスキルシステム』だ。このシステムは、アバターが作成されると必ず実行される。今、登録している全プレイヤーのユニークスキルにかぶらないようにして特殊なスキルを各アバターに一つ解放させるというもの。
もちろん効果も種類も千差万別。そのため、他と比べて強い弱いは当然ある。中には全く使えないスキルもあるようだ。
確かにこんなシステムがあったら、このゲームをやっている皆が某小説の主人公みたいだ。『君がこのゲームの主人公』なんてよく言ったものである。
ていうか【複製魔法】ってなんだ?
『チュートリアルを開始します。スキップしますか?』
「いいえ」
『それでは、 チュートリアル専用の草原ステージに転移します』
完成したアバターが消えていく。転移が始まったようだ。
「全プレイヤーにユニークスキルとか、この先パワーインフレし過ぎないか心配だなぁ」
『・・・・・・』
近い未来に起こりそうな運営の危惧を呟きながら、俺は白い空間から草原ステージに転移されるのだった。